
1980~1990年代の絶版車のフロントフォークのメンテナンスで、オイル交換の次に作業頻度が高いのがオイルシールではないでしょうか。硬化したオイルシールはフォークオイル漏れの原因になるため、速やかに交換しなくてはなりません。その際にあると便利なのが「オイルシールプーラー」です。マイナスドライバーで無理に作業すると、アウターチューブを傷めるリスクがあるので要注意です。
目次
支点が一カ所に集中するから破損しやすくなる


アウターチューブの先端部分に圧入されたフロントフォークオイルシールは、雨天走行時にインナーチューブに付着する雨水がフォークオイルに混入するのを防ぎ、逆にフォーク内のオイルが外部に漏れることも防ぎます。
その一方で、インナーチューブとの接触部分にまったく潤滑がない状態でストロークするとフリクションロスが大きく、摺動抵抗によって短期間のうちにシール自体が摩耗してしまうため、適度な潤滑も必要です。
オイルシールの劣化を大別すると、経年変化によるものと外部からの要因によるものの二種類があります。製造から長い年月を経た絶版車のゴム部品は、オイルシールに限らず柔軟性が失われて樹脂化し、本来の性能が発揮できなくなります。オイルシールのリップが硬化すれば、気密性が低下してインナーチューブとの接触からフォークオイルが滲み出すようになります。
逆に外からの要因としては、オイルシールの外側に装着されるダストカバーとの空間に水が入り、それがインナーチューブやオイルシールを押さえるサークリップを錆びさせてオイルシールに影響を与える例があります。
劣化したフォークオイルシールは交換が必要ですが、その取り外し方はフロントフォークの構造によって異なります。インナーチューブの先端にスライドメタルが組み付けられているフロントフォークであれば、インナーチューブを引き抜く際にメタルがオイルシールに干渉するため、スライディングハンマーの要領でインナーチューブを何度かストロークさせれば、オイルシールは徐々に抜けてきます。
見た目は同じテレスコピック式でも、カワサキZ1/Z2を筆頭とした1970年代のフロントフォークの中には、インナーチューブ先端にスライドメタルが入っていないタイプもあります。この場合、インナーチューブだけが抜けた後にアウターチューブに圧入されたオイルシールが残ってしまいます。
このタイプのフォークでは、オイルシールを抜く際に想定外のトラブルが発生することがあります。すぐ目の前に見えているからといって、オイルシールの裏側に先端の幅が広い大きめのマイナスドライバーを突っ込み、アウターチューブの外縁を支点に力を入れてこじると、シールホルダー部分の肉が薄いフロントフォークだと割れてしまうことがあります。
一カ所だけで力を加えず、少しずつ位置をずらしながらこじることでトラブルを回避できることもありますが、オイルシールを取り外す際は専用工具を使うのが無難です。
- ポイント1・フロントフォークのアウターチューブに圧入されたオイルシールは、インナーチューブを抜く際に外れるタイプと、インナーチューブを抜いてもアウターチューブ側に残るタイプがある
- ポイント2・アウターチューブに残るオイルシールをマイナスドライバーで取り外そうとすると、アウターチューブを破損する危険がある
アウターチューブの外周を橋渡しして荷重を分散するのがポイント





アウターチューブに圧入されたオイルシールを取り外すための専用工具が「オイルシールプーラー」です。マイナスドライバーを使うと、ドライバーの軸とアウターチューブ外縁の接触部分は完全に支点になるためピンポイント的に力が加わってしまいますが、この工具はアウターチューブの外縁の二カ所を支点として荷重を分散し、フックのように反り返った先端部分をオイルシールに引っ掛け、裏側から押し出すように力を加えられるのが特長です。
製品によって形状に若干の違いはありますが、多くのプーラーは先端のフックと支点となる横棒の位置を調整でき、インナーチューブ径の違い=オイルシールホルダー部分の直径に対応できます。
ただし専用工具といっても使い方には注意が必要です。先端のフックをオイルシール裏側に引っ掛ける際は、インナーチューブの摺動面となるアウターチューブ内面に傷を付けないように位置を探り、アウターチューブ上で支点となる横棒もテコの作用が効率良く作用する位置に調整することが重要です。
インナーチューブ先端にメタルが付かないフロントフォークは年式的に古い物が多く、それだけに純正部品も希少になってきます。手近にあるドライバーを突っ込みたくなる気持ちは分かりますが、メンテナンスするつもりがアウターチューブを壊してしまっては元も子もありません。破壊して後悔する前に、パーツリストやサービスマニュアルで愛車のフロントフォークの構造を確認して、オイルシールがアウターチューブに残るタイプであればオイルシールプーラーを入手してから分解作業を実践するのが良いでしょう。
- ポイント1・オイルシールプーラーはアウターチューブとの支点を二カ所にすることで荷重を分散し破損のリスクを軽減する
- ポイント2・専用工具を活用する場合でも、純正パーツを傷つけないよう慎重に作業を行う