「対向ピストンキャリパー」を組込みたいなら、内張りスポークも一考

バイクいじり好き、メンテナンス好きなサンデーメカニックの中にはDIYカスタムを愛する者が多い。できる限りのことは自身の手でDIYメンテナンスを楽しみ、自分の手にはおえない部分は、専門業者であるプロに依頼する。そんなやり方で、自分だけのカスタムマシン作りを楽しみながら、積極メンテナンスでマシンコンディションを高めるサンデーメカニックは数多い。ホイールハブのベアリング交換ついでに、サビが気になるスポークも張り替えたい、と考えたときに、スポーク張りはプロに委ねて効率良くマシン作りを進めたいと考えたマシンオーナー。そこでスポーク張りのプロに相談してみたら「想定外の答えが返ってきた……」ここでのリポートは、その実践である。スポークホイールの世界は、実に奥深いものだ。

スポークは特注することができる


ヤマハSDRベースで足周りのカスタムプランを練ったマシンオーナー。キャストホイールからスポークホイール化へと変更。アルミリムのチョイスで前後17インチのワイドホイールにしようと考えた。準備したパーツは、同じヤマハの純正部品で、ディスクローター径が同じ、しかもオフセットローターを採用したビラーゴ250初期型。やや幅が狭い36穴ハブを採用していたため、ディスクローターがオフセットされていた。そのハブとリムを準備し、スポークホイール専門店のフェイスに相談すると「Dachi製ステンレススポークでワンオフしましょう」という結論に達し、製作して頂いたのがこの部品。Dachiブランドでは、数多くの長さや太さのステンレススポークブランク(ストレートスポーク)をラインナップ。さらにDIY好きなサンデーメカニックのために、スポークベンダーも販売している。自作することもできたと思うが、今回はスポークのプロに製作依頼した。



プロの手に掛かってしまえば、組み立て作業はあっという間の出来事だった。このあたりは我々サンデーメカニックとの大きな差だ。フェイス主宰の鈴木さんから助言を頂き、ここでは特別な方法でスポークを張り込み、スペシャル仕様の前輪を作ることになった。そんなスペシャル仕様に合せてDachi製ブランクスポークからオリジナルのワンオフスポークを作り出したのだ。スペシャルの内容は、ディスクローター側とメーターギヤ側で張り込み方法を変えている点だ。

ニップルの締め込みは徐々に少しずつ


スポーク張りの経験がある者ならご存じかと思うが、ニップルの締め込み次第でスポークホイールの精度は大きく変化する。同じ長さのスポークを同じように張り込むのだから、仮組からの仮締めは全スポークともに同じ量だけ仮締めする。鈴木さんからお話しを伺うと、スポーク側のネジ山が2山残るように、すべて同じようにニップルを締付けているそうだ。電動ドライバーを使っているが、手締め指締めで同じ作業は可能だ。

「オール内張り」の特別仕様がこれ


最初に相談したときは、初期型ビラーゴ250のハブとオフセットローターを使っても、通称ヤマンボのSDR純正対向ピストンキャリパーは組み込めないため(ホイールセンター側のキャリパーがスポークと干渉するため)、ディスクローターにスペーサーを組み込み、オフセット量を増やそうと考えた。すると鈴木さんからの助言。「そんなときにはローター側スポークをオール内張りにする方法もありますよ」といった内容だった。特注のスポークを製作するのだから、そのオール内張り仕様で製作依頼。それがこの張り方だ。

メーターギヤ側は標準張りスポーク


片方は内側から差し込み外側からリムへ。もう片方は、外側から差し込み内側からリムへ。これが国産車の標準的なスポークの組み方だが。標準的な組み方にも様々なノウハウがある。ここでは割愛させて頂くが、同じハブとリムを使って2本のホイールを組み込む際にも、スポークの「倒れ角度を変更した張り方」によって、スポークホイール・コンプリートとしての靱性には、大きな違いが出る、と言うか「違いを出せる」。実に奥深いノウハウがある。

リム幅とハブ幅のセンター合せ


ここで張り込んでいる前輪は、ハブセンターに対してリムセンターが一致しているシンメトリック張りだが、例えば、ディスクローターにスペーサーを組み込むような際には、スペーサー寸法を考慮してリムセンターをオフセットさせないと、前後輪が同一軌道上で回転しなくなってしまう。そんなリムのオフセット張りでカスタム状況にマッチさせられるのがスポークホイールの特徴でもある。キャストホイールの場合は、ホイールセンターに合せてブレーキ側で対応するのが当たり前なのだが。

ディスクローターに隠れてしまうが……


張り込みが完了した前輪。ディスクローター側のスポークがすべて内張りになっているのがわかるはず。実は、ハーレー・ダビッドソンのスポークホイールではこのような張り方が昔から採用されている。ホンダスーパーカブの初期型、1958年型から1959年の前期モデルまではこのような前内張り仕様だったが、組み立て工数がかかるので、59年後期モデルからは内外の標準張りを採用している。ドラムブレーキ車なら張り込みの様子が露出するためキレイだが、ディスク車だとローターで隠れるため目立たない。



ディスクローターに隠れるため内張りスポークは目立たないが、オフセットローターにスペーサーを組み込まなくても、ヤマンボキャリパーの内側がスポークと干渉することなくマウントできる。

ローター研磨でリフレッシュ


ヤマハSDR純正ローターはフラットローターを採用していたため、このようなカスタムを純正ローターで行うには相当厚いスペーサーを組み込まなくてはいけなく、仕上がりがカッコ悪くなってしまう。対してオフセットローターならこのようにスペーサーが無くシンプル。しかもSDR純正のヤマンボキャリパーはボトムケースにボルトオンだ。ディスクローターもリジッドなら面研磨加工が可能なので、このように美しくリフレッシュできる。

POINT
  • ポイント1・ スポークホイールは張り方次第でハブとリムのセンターをオフセットすることができる
  • ポイント2・ スポークの張り方は1種類だけではなく、様々な応用が可能
  • ポイント3・メーカー純正部品の流用でも応用装着することでカスタムパーツのような仕上がりを目指せる

アルミ製ワイドリムを組み込む際には、チューブレス化も可能なことは以前にリポートした通りである。そのアルミ製ワイドリムを組み込み、世界にたった1台だけのカスタム仕様を目指していたのが、このヤマハSDRだった。実は、スポークホイールの製作時にも、様々な葛藤があった。計画当初は、スポーク化するのが最大の目的であって、前後ブレーキ仕様は二の次。スポークホイールに合せて何とか改造装着すれば良いと考えていた。そんなカスタムプランをスポークホイール専門店のフェイスに相談したところ、その道のプロはさすがに経験豊富で、ありがたい助言やアイデアを頂くことができた。

遡ること1978年。発売当時はスポークホイール仕様だったのがヤマハSRである。80年代に入ると、時代の流れでキャストホイールモデルへと移行した。それを悲しんだSRファンの中には、スポークホイールへ張り替え直す例が相次いだ。そんなスポークホイール化がヤマハSRカスタムでは当たり前になり、1985年モデルとして登場したヤマハSRは、スポークホイール仕様へ回帰するのと同時に、前輪に大型ドラムブレーキを採用。新車ながらトラッドなフォルムが数多くのライダーを刺激し、長年愛され続けた息の長いモデルへと成長した。

時代時代の節目に訪れたのが、ヤマハSRのカスタム・ムーブメントだった。80年代後半から90年代は、スポークホイール+アルミ製ワイドリムがトレンドになり、走り屋の多くはドラムブレーキではなくディスクブレーキを好んだ。初期シリーズのスポークホイール車に、ヤマハTZR250純正キャリパー、通称ヤマンボを取り付ける例も多く、それを可能にするディスクロータースペーサーもカスタムパーツとして発売された。そのカスタムパーツを利用し、手軽にディスクローターをオフセットすることもできるが、せっかくワイドリム化でスポークを張り替えるのなら、キャリパー側スポークを内張りにすることで、対向ピストンキャリパーがスポークと干渉せず、より一層シンプルな仕上がりになる。そんな提案をしたのがフェイスでもあった。

さらに鈴木さんによれば、最近の絶版車ブームでは、カワサキZ1に対向ピストンキャリパーを取り付けるユーザーが多いが、このようなカスタムでも、スポークの張り方次第では、利用するキャリパーによってはスペーサーが不要になることもあり、幅が広いキャリパーでもスペーサーの厚さを最小限にすることができるそうだ。

スポーク張りの世界は本当に奥が深い。このようなカスタム例があることも、是非、カスタム好きサンデーメカニックには覚えていて欲しい。

 
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