ピストンリングの交換で、ここ一発の「エンジンパワー」が蘇る!!

数多くのベテランサンデーメカニックが経験してきた、空冷2ストローク原付エンジンの分解整備。エンジンオイルを入れ忘れて、軽いダキツキ症状やエンジンを焼き付かせたりしたこと、ありませんか? 未成年の学生当時はお金が無くて、エンジン分解しても、内部のバラしたパーツは洗浄のみ。それでもベアリングだけは新品部品に交換して、あとは見なかったことにして、そのままで復元……、なんてこともありました。当時のモデルの多くは、エンジンオイルコーションのインジケータランプ=エンジンオイル不足警告灯が装備されていなかったから、オイルの入れ忘れがとにかく多かった

今考えれば、お金が無くても時間があると、いろいろ考えるものですね。そんな悪あがきを思いつかせるのも、空冷2ストエンジンのシンプルさにある。ここでは、定期的に交換することで想像以上に気持ち良い走りを体感することができる、空冷2ストローク単気筒エンジンの腰上分解「ピストンリングの交換作業」に的を絞ってみよう。

周辺交換部品の発注もお忘れ無く

昔は、ニカワ(膠)のような液体ガスケットを使って、切れたガスケットでもそのまま液体ガスケットの併用で接着して、組み立て復元したもの。今でも手に入る純正部品があるのなら、新品部品を必ず用意し、発注→納品されてからメンテナンスに取りかかろう。今回の作業で購入した部品は、ヘッドガスケット、シリンダーベースガスケット、そしてピストンリングである。メンテナンス車両は1970年型の原付モデル、ヤマハスポーツFS1だが、2000年頃まで販売されていたヤマハの空冷2スト原付のYB1には、同系列エンジンが搭載されていたため、この作業の実践時点でメーカー純正部品の在庫があり、スムーズに購入することができた。

分解前にデータ測定して作業後と比較

劇的かどうかは不明だが「ビフォー→アフター」を知ることもサンデーメカニックにとっては重要なこと。自身の手でメンテナンス実践して、作業前に対して作業後のエンジンが好コンディションになれば嬉しいものだろう。エンジンの分解メンテナンスを実践する際には、圧縮圧力の測定=実コンプレッションの確認によって分解前のコンディションを知ることができる。測定圧力数値うんぬんではなく、ここで重要になるのは作業後の測定圧力数値、つまりビフォー→アフターの相対比較である。分解前の実測値は850Kpa。メカノイズが出ている訳ではなく、始動性も決して悪くないが、とにかくエンジンにパンチが無かったとはマシンオーナー弁。果たして、部品交換でパーワーは蘇るのか……。

空冷2ストエンジンは腰上分解が容易

水冷2ストエンジンの場合は、分解前に冷却水の抜き取り作業から開始しなくてはいけないが、空冷エンジンならエンジンが冷えるのを待つだけで、分解作業に取りかかることができる。シリンダーヘッドはフタのようなもので、このモデルの場合は、シリンダー&ヘッドを締め付ける4個のナットを緩めて取り外すことで、シリンダーヘッドは簡単に分解できる。無駄な作業を避けるため、エンジン分解前の基本段取りとして、エンジン外観の汚れ落としやエアーブローはしっかり行おう。分解している最中に、汚れや砂利がエンジン部品に付着したり、エンジン内に落ちてしまうのだけは、避けなくてはいけない。

基本は新品ガスケットに交換したいが……

空冷シリンダーの場合は、冷却フィンにドロや油汚れが詰まっていることが多い。分解前の汚れ落としは重要だが、こんな部分は特に要注意だ。銅板のヘッドガスケットは、シリンダーヘッドやシリンダー上面のガスケット面をしっかりクリーニングすることで再利用は可能。しかし、シリンダーベースガスケットの再利用は難しい。運が良ければ、ベースガスケットがキレイに剥がれ、シリンダー側もしくはクランクケース側へキレイに付着したままのこともある。そんなときには、ガスケットが剥がれた側の座面をオイルストンで面出し(クリーンナップ)することで、液体ガスケットを薄く塗って併用し、再利用することもできる。基本は「新品ガスケットへの交換」なのですが……。

こんなに違った!!ピストンリングの摩耗

左が新品のピストンリングで、右がエンジンから取り外した使用済みピストンリング。今回の作業では、ピストンを敢えて取り外さないので、ピストンを上死点の位置でシリンダーを抜き取ったら、汚れていない布ウエスをクランクケース側のクランク室内に押し込み、ピストンリングを折らないように広げてピストンから取り外した。こんな作業時は「爪切り前」がベスト。指先の爪切り後は、ピストンリング合口の引っ掛かりが悪く作業性が今ひとつ良くない。指先の爪は、実は立派な工具でもあるのだ。

単品ピストンリングをシリンダー内に挿入

左が使用済みピストンリングで右が新品ピストンリングをシリンダーボア内に挿入した様子。ピストンリング合口部分の「隙間」に注目して欲しい。ピストンコンディションは、悪い訳ではなく良い感じだが、この使用済みピストンリングの合口広さは、ご覧の通りかなり摩耗が進んでいる。ピストンリングは、シリンダー内壁と摺動することでリング外周が摩耗する設計だが(過走行時にはシリンダー側も摺り減る)、リングが減ると張力で広がり、その分、物理的に合口が広がってしまう。2ストでも4ストエンジンでも、その合口隙間で摩耗量を判定できる。左の使用済みリングは、何とシックネスゲージ測定で1.15~1.20mmもあった。一般的に原付クラスのシリンダーボアサイズなら、0.7~0.8mmで使用限度=交換となる。すでに軽く使用限度を超えている!!


新品ピストンリングの合口隙間をシックネスゲージで測定したら0.35mmだった。ピストンクリアランスが正常値なら合口隙間は0.25~0.40mm前後なので、規定値以内には入っている。しかし、やや広めなので、次にメンテナンスする際には、オーバーサイズピストンを利用し、シリンダーをボーリング&ホーニング加工(内燃機加工)すれば、より良いコンディションになることが想像できる。

僅かな違いがパンチ感の違いで体感できる

新品ピストンリングに組み換え、すべての部品を復元してから圧縮圧力を測定。分解前に対して僅かながら圧縮圧力が高まった。そのデータは880Kpa。測定時はスロットル全開で力強くキックを7~8回踏み込む。分解前と同じ手順でデータ測定した。この僅かな違いがエンジン稼働時には、体感的な違いとなって現れるのだ。本来のエンジンコンディションへの復元作業は、実に奥深い……。

POINT
  • ポイント1・空冷2スト単気筒の原付クラスは、バイクメンテの教材に最適。バイクメンテを楽しみながら覚えよう。
  • ポイント2・ピストンリングの交換だけでも、パワー感に違いが出やすいのが2ストエンジンの特徴。定期的な交換がお勧めだ。
  • ポイント3・分解のビフォーアフターを測定工具で数値化してみよう。「見えるメンテ」が経験則を確実に増やすもの。

排ガス規制や出力特性などの配慮検討から、一部のコンペティションモデルを覗き、現代の市販車はバイクも四輪も4ストロークエンジンを搭載している。モーターとエンジンを組み合わせたハイブリッドエンジンが登場したのは1990年代。ここ数年は、プラグインハイブリッドや純粋なる電気自動車も街中で見かけるようになっている。近い将来、4ストエンジンモデルの生産ができなくなる……そんなニュースもあるからこそ、楽しめるうちに楽しんでおきたいのが、旧き良き時代の旧車ライフ=2ストロークエンジンモデルを愛車にしたバイクライフ、と語るファンも多い。

高度経済成長と呼ばれた昭和30年代(1950年代後半)、バイクが大衆の脚になった頃は、白煙モクモクの2ストロークエンジン全盛時代だった。そんな当時(1958年)、ホンダから登場したのがスーパーカブC100である。重い、走らない、チカラが無い、と呼ばれた4ストローク小排気量モデルの既成概念を打ち破ったスーパーカブは、その後のバイクシーンに大きな影響を与えたのは間違いのない事実である。それでも、2ストエンジンは進化を続け、80年代後半にはレーシングテクノロジーをストリートへフィードバックしたレーサーレプリカブームが到来。数多くの2ストファンを誕生させている。

シンプルなメカニズムの2ストロークエンジンは、数多くのバイクいじりファンを育ててくれた。事実、サンデーメカニックの中には、空冷2ストロークエンジンの分解組み立てがひとつの縁で、今尚、バイクいじりを楽しんでいるベテランライダーも数多い。

精密な円筒内をピストンが往復する4ストロークエンジンと異なり、2ストロークエンジンには、筒の中に吸排気ポートや掃気ポートなど、いくつもの「横孔」が開けられている。その横孔がある筒の中をピストンが往復運動するため、吸入混合気の圧縮や爆発膨張時の気密を保つピストンリングが、4ストエンジンとはまったく違った役割を果たしている。リング張力を保ちながら筒の中を往復するため、ピストンリングには開こうとチカラ=リング張力が加わっている。そのため、各ポートのエッジとピストンリングの上下面は、ピストンが通過するたびに僅かながら衝突が生じてしまうのだ。また、ピストンのトップラウンドエッジやピストンスカートエッジも同様で、それらが連続的な抵抗となって各部を摩擦消耗させているのだ。混合ガソリンであり分離給油であれ、ガソリンにエンジンオイルを混ぜなければ各部を潤滑できないのが2ストロークエンジンの宿命。そんなエンジンオイルが爆発燃焼で白煙となって、マフラーやチャンバーから排気されるのだ。

2ストロークエンジンの構造を知れば、何故、ピストンリングが摩耗しやすく、メカニカルノイズが発生しやすいのか?そんな状況を理解できるはずだ。メカニズムにダメージが起こるとパワーダウンやノイズが発生し、それを体感できるようになる。手遅れになる前に、前倒しでメンテナンスすることがなによりも重要なのが2ストロークエンジンでもある。もちろん、高性能エンジンエンジンオイルや高性能添加剤を利用し潤滑性能を高めることで延命は可能だ。しかし、メカニズムを理解すれば、やるべきことは見えてくるはずだ。シンプルながら実は極めて奥深いのが2ストロークエンジンでもある。乗れなくなって、部品が入手できなくて嘆かないように、楽しめるうちに楽しみたいのがすべての2ストロークエンジンモデルである。

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