夏の水漏れにご用心。ウォーターポンプケースからLLCが出たらメカニカルシールをチェック。
ウォーターポンプは水冷エンジンの冷却の要である冷却水を循環させる重要な部品です。冷却水を送るインペラはエンジンと連動しており、エンジン内部のオイルと冷却水を分離しながら、なおかつインペラの軸がスムーズに回ることが必要です。そのために使われているのがメカニカルシールです。

ウォーターポンプ内部ではエンジンオイルと冷却水が隣り合わせ

02-1b.jpg クランクシャフトとともに回転するインペラによって圧送される冷却水によって各部を冷却する水冷エンジン。インペラを回すシャフトはエンジン内に貫通しており、そのエンジン内にはエンジンオイル(2ストローク車の場合はミッションオイル)があるので、両者を分離する仕組みが必要となる。ここで使われるのがメカニカルシールだ。

03-1b.jpg ウォーターポンプにはそれ自体で完結するポンプユニットをエンジンに組み付けるタイプと、クランクケースカバーにポンプ機構を組み付けるタイプがある。画像のスズキRG250ガンマは後者で、メカニカルシールを交換するためにクラッチカバーを取り外す。

04-1b.jpg ウォーターポンプシャフトに取り付けられるドリブンギアは騒音と摩耗対策のため樹脂製。シャフトの根元に組み込まれたベアリングはシャフトと一体式だ。

05-1b.jpg ウォーターポンプなどでインペラを保持して固定用のボルトを外す。ロックワッシャーの下にはインペラとインペラシャフトの隙間からメカニカルシール裏側に冷却水が漏れないようシールガスケットが組み込まれている。

水冷エンジンの冷却水はインペラと呼ばれる羽根で勢いを得て、エンジン内部を循環しています。そしてこのインペラを回すのはエンジンです。バイク用エンジンの場合、クランクシャフトの回転をカウンターギアやアイドルギアで減速して、エンジンカバー面からシャフトで取り出してインペラに繋げることが多いです。

ポンプといえばオイルポンプもありますが、オイルポンプは吸い上げと吐出の両方をエンジン内部で行っているため、エンジンオイルに浸った状態で仕事をしています。しかしウォーターポンプは動力を得るためのエンジン側はエンジンオイル、冷却水を送る側は水と、異なる液体が向かい合った状態で仕事をしています。そのため両者を区切るための仕組みが必要となります。

エンジンから駆動力を取り出すドライブアクスルは、クランクケースに圧入されたオイルシールによってエンジンオイルが外に漏れることを防いでいます。この場合、ドライブスプロケット側は大気というか外気にあります。ウォーターポンプの場合も、エンジンオイルをウォーターポンプ側に漏らさないためのオイルシールが組み込まれていますが、冷却水をエンジン側に入れないための機構も必要です。ここで使われているのがメカニカルシールです

ちなみに、自動車のウォーターポンプはシリンダーブロックに取り付けられており、クランクプーリーからつながったVベルトによって回されることが多く、エンジンオイルの混入に対する心配はありません。しかしインペラを回す軸部分から冷却水が漏れないよう、やはりメカニカルシールが組み込まれています。

 
POINT
  • ポイント1・エンジンとともに回転するウォーターポンプのインペラシャフトは、エンジンオイルと冷却水が隣り合わせの状態で回転している
  • ポイント2・ウォーターポンプのシャフトには必ずメカニカルシールが組み込まれている

接触するけど漏らさない。矛盾した条件で働くメカニカルシール

06-1b.jpg インペラの裏面に圧入されている白い輪が回転環で、シャフト側の黒い輪が固定環。固定間は裏側のスプリングによってインペラ側に押し出されて回転環に密着する。2つの環は密着しているが、その隙間に僅かに存在する冷却水によって摩耗を防ぎ潤滑している。水道水ではなくLLCを用いるのは、この部分の潤滑を守るためにも有効だ。

07-1b.jpg ウォーターポンプのシャフト根元のベアリングとメカニカルシールの固定環はクラッチカバーに圧入されているので、バイスや油圧プレスなどで押し出す。ハンマーで叩くときはカバーを傷めないよう慎重に。

08-1b.jpg ウォーターポンプシャフトをカバー内側に押し抜くと、その奥にオイルシールがあり、その向こう側に固定環が圧入されている。このオイルシールはミッションオイルがウォーターポンプ側に混入することを防いでおり、シールが損傷するとウォーターポンプハウジングのドレン穴からオイルが流れ出る場合もある。

液体を漏らさないという点では、エンジン各部に用いられているオイルシールでも使えるはずです。しかしなぜウォーターポンプにはメカニカルシールが使われているのでしょうか。その理由はオイルシールの特性にあります。オイルシールを使用する部分を想像すれば分かりますが、オイルシールが機能するためには潤滑が必要です。エンジンでもフロントフォークでも、内部のオイルがリップに触れることでゴムに潤滑性が与えられて漏れ防止の機能を発揮します。

しかしウォーターポンプの場合、軸部にあるのは潤滑性のない冷却水なのでオイルシールは使えません。またウォーターポンプ内部はエンジンやフロントフォークより圧力が高いため、オイルシールのシール機能では漏れを止められません。

ウォーターポンプハウジングから冷却水を漏らしたくないが、回転時の潤滑は確保したい。接触していながら摩擦が少ないという、矛盾だらけの環境下で働いているのがウォーターポンプです。背反した条件を満たすために、メカニカルシールは回転環と固定環と呼ばれ2種類の円盤を使います。クランクケースカバーのような動かない部品に組み付けられた固定環と、エンジンと共に回転するインペラにセットされた回転環は常に接触しています。

潤滑のない状態で2つの環を接触しながら回転させれば当然焼き付いてしまうので、それを防ぐために耐摩耗性に優れ硬度が高いセラミックなどと、自己潤滑性が良好なカーボンなどの軟質素材をそれぞれの環に使い、なおかつ両者の接触面に冷却水を介在させることで気密性と潤滑性を両立させているのがウォーターポンプです。磨き上げられた大理石の床を歩く時、モップの拭き残しで僅かでも水が残っているとスリップしやすいのと同じで、密着しながら滑るという難しい条件を2つの環と冷却水でクリアしているのです。

2つの環の関係はデリケートで接触する圧力が大きすぎても小さすぎてもダメ。そこで固定環側にはスプリングが組み込まれ、回転環側に一定の圧着力を加え続けています。そのため、通常であればメンテナンスは不要とされています。

 
POINT
  • ポイント1・メカニカルシールには接触しながら摩擦を発生させない固定環と回転環が重要な働きをしている
  • ポイント2・固定環と回転環の素材に硬度の差をつけ、接触面の潤滑は冷却水で行う

ポンプハウジングから冷却水が漏れたら早めの交換が必要

09-1b.jpg メカニカルシールを中心としたウォーターポンプの主要構成部品。インペラ側の回転環はゴムシールで圧入され、クラッチカバー側の固定環は外側の金属製ケースを圧入する。滅多に水漏れする部分ではないが、接触しながら回転する以上は摩耗や異物を噛み込む可能性もゼロではない。

メカニカルシールは摩擦が少なく気密性が高いという難易度が高い条件をクリアする素晴らしい部品ですが、機械的な接触がある以上完璧にメンテナンスフリーであり続けられるとは限りません。たとえば長くバイクに乗らない期間があり、固定環と回転環の接触面を潤滑する冷却水がなくなってしまった場合、両者はドライ状態で接触回転することになります。実際にはウォーターポンプ内は常に冷却水で満たされているので、接触面が乾いてしまう可能性は低いと言えるでしょう。とはいえ可能性はゼロではありません。また走行距離が多くなればいかに自己潤滑性が高い素材と言っても摩耗することもあります。

接触面を潤滑している冷却水がトラブルの原因になることもあります。防錆効果のあるLLCを使わず、水道水をそのままラジエターに入れると冷却水中にサビが発生することがあります。このサビがメカニカルシール部分に絡んで回転環を傷めると気密性が低下して冷却水漏れを引き起こすこともあります。

メカニカルシールのトラブルで冷却水が漏れる際は、ウォーターポンプハウジングから冷却水が流れ出すという分かりやすいサインがあります。固定環が圧入されるハウジングにはドレン穴があり、回転環と固定環の当たり面から漏れた冷却水はこのドレンに流れる仕組みになっているのです。先にクランクケース内のエンジンオイルとウォーターポンプ内の冷却水は壁一枚で向かい合っていると書きましたが、実際には固定環が圧入された部分が緩衝帯となっており、またエンジンに貫通するインペラシャフトにはオイルシールが組み込まれているため、オイルと冷却水はダイレクトな行き来はしないようになっています。

とはいえ、冷却水がメカニカルシールの接触面を超えて回転環側に入り込むことはないはずなので、ハウジングから滴るように漏れる時はウォーターポンプのメンテナンスが必要です。

具体的な方法はエンジンの構造によって異なります。独立したウォーターポンプユニットがクランクケースにボルト止めされているタイプのエンジンでは、ユニット状態でポンプを取り外してから分解し、メカニカルシールを交換します。一方、エンジンカバーに直接ウォーターポンプが組み込まれたエンジンでは、カバー自体を取り外してメカニカルシールの固定環を取り外します。画像で紹介しているスズキRG250ガンマは後者なので、エンジン右側のクラッチカバーを取り外してウォーターポンプを分解してメカニカルシールを交換しています。

定期的な交換が必要な冷却水に対して、メカニカルシールは定期的な交換が必要な部品ではありません。しかし何かのきっかけでウォーターポンプから冷却水が漏れ出した時は、見て見ぬふりをすることなく原因を追及することが重要です。

 
POINT
  • ポイント1・ウォーターポンプの組み付け方にはユニット方式とケースカバーダイレクト方式がある
  • ポイント2・固定環と回転環の接触面から漏れ出した冷却水は固定環が圧入されたポンプボディのドレン穴を通じてエンジン外部に流れ出る
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