4ストロークエンジンで重要なバルブクリアランス。意外に面倒なインナーシムタイプの調整方法

4ストロークエンジンにとって、吸排気バルブを正確に開閉することはもっとも大切な条件のひとつです。そのためにはバルブの開閉時期を決めるバルブタイミングとともに、カムシャフトとバルブの隙間、バルブクリアランスを適正値とすることも重要です。バルブクリアランスの調整にはアジャストスクリュー式とシム式の2種類があり、それぞれによって調整作業の手順や難易度が大きく異なります。

工具だけで調整できるアジャストスクリュー式と調整用に部品が必要なシム式

02-5b.jpg カワサキミドルクラス最後の空冷エンジン搭載車として人気のGPZ400。日本国内では1980年代半ばで水冷のGPZ400Rにバトンタッチしたが、海外向けには1990年代半ばまで販売が続いた。画像は1994年モデル。

クランクシャフトが2回転する間に吸入、圧縮、燃焼、排気という4つの行程を行うのが4ストロークエンジンです。この4つの行程の鍵を握るのが吸排気バルブで、そのバルブを動かしているのがカムシャフトです。カムシャフトの形式にはカムが1本だけのOHC(またはSOHC)とカムが2本あるDOHCの2種類があり、OHCの場合は1本のカムで吸排気バルブの両方を開閉し、DOHCは2本のカムでそれぞれ吸気バルブと排気バルブを開閉しています。

OHCでもDOHCでもクランクシャフトの角度、つまりクランクシャフトにつながるコンロッドの先にあるピストンの位置に応じて、正確にバルブを開閉することがエンジン自体のコンディションに大きく影響します。吸気バルブに注目すると、ピストンが上死点に至る前に開き始め、ピストンがシリンダーを下降する勢いで混合気を吸い込み、下死点を過ぎた位置で閉じたらピストンの上昇によって圧縮、密閉された燃焼室にスパークプラグで電気火花を飛ばすことで爆発的な燃焼を起こしてピストンを勢いよく押し下げます。この動作を正確に繰り返すために重要なのが、バルブがいつ開き、いつ閉じるかというバルブタイミングです。

このバルブタイミングと並んで重要なのが、バルブクリアランスです。カムシャフトがバルブを開閉する機構にはロッカーアーム式と直打式の2種類がありますが、どちらのタイプもカムシャフトは常にバルブに接触しているわけではありません。断面が卵形をしているカムシャフトのベース円部分とバルブには、適正な隙間=バルブクリアランスが必要です。これは以前の投稿でも説明したとおりで、走行中にエンジンの温度が上昇して各部が膨張した際にカムシャフトがバルブを押しっぱなしにならないように設定されています。

ロッカーアーム式の場合はアジャストスクリューによってタペットクリアランスを調整しますが、直打式の場合はシムと呼ばれる小さな薄い円盤を交換して調整するのが大きな違いとなります。クリアランスを広げるにも狭めるにも工具ひとつあれば調整できるロッカーアーム式に対して、クリアランスを広げたいなら薄いシムを、狭めたいなら厚いシムを用意しなくてはならない直打式は、調整作業ひとつとってもロッカーアーム式に比べて部品代が余計に掛かるという現実があります。

POINT
  • ポイント1・4ストロークエンジンではカムシャフトがバルブを開閉するタイミングとともに、バルブが閉じている際のバルブクリアランスも重要
  • ポイント2・カムシャフトがバルブを直接駆動する直打式でシムを使用する場合、バルブクリランスを変更する際にはシム交換が必要

シックネスゲージで測定したバルブクリアランスが基準値から外れていたら、基準値内に収まるシムを選択する

03-5b.jpg 1990年代まで製造されたGPZ400に搭載されていたのはゼファー系の2バルブエンジンだが、1996年に発売されたゼファーXは4バルブとなった。ここでバルブクリアランス調整手順紹介で用いるのはゼファーX用エンジンなので、吸排気合わせて16カ所でクリアランス測定を行う。

04-5b.jpg 測定した結果はバルブごとに明記しておく。シックネスゲージを用いた測定は0.01mm単位で可能だが、シムの厚さが0.05mm刻みなので基準値に入ったとしても隣り合うバルブのクリアランスは揃わない場合もある。例えば4番シリンダーの吸気(手前右端)は0.17mmと0.19mmで、0.06~0.17mmの基準値を超える0.19mm側は1ランク厚いシムに交換したい。それによって基準値内に収まるが、2個のバルブのクリアランスは0.17mmと0.14mmとなる。この点では、任意のクリアランスに調整できるアジャストスクリュータイプの方が合わせやすい。

バルブクリアランス調整にかかるコストが増えるにしても、ロッカーアームがない分シリンダーヘッドをコンパクト化できる直打式にはメリットがあり、この方式を採用するエンジンは少なくありません。代表的な絶版車で例を挙げれば、OHCのホンダCB750フォアはロッカーアーム式で、DOHCのカワサキZ1/Z2は直打式を採用しています。直打式はさらにアウターシム式とインナーシム式に分類され、Z1/Z2はアウターシム式となっています。

バルブクリアランスはエンジンが冷えた状態で、カムシャフトのベース円とバルブリフターの隙間にシックネスゲージを挿入して測定します。シックネスゲージは0.01mm単位の短冊のような薄い金属板が何種類もあり、どの厚さのゲージが隙間に入るかでクリアランスを算出します。0.08mmが入って0.09mmが入らなければ、0.08mmであると判断します。もちろんこの時、0.08mm以下のゲージはスカスカに入ります。

ここで紹介するカワサキゼファーXの場合、吸気側のバルブクリアランスの基準値は0.06~0.17mmで、排気側は0.17~0.26mmとなっています。吸気側より排気側のクリアランスが広く設定されているのは、以前の投稿のとおり排気ガスの熱の影響によって各部の膨張が大きくなるからです。

測定したバルブクリアランスが基準値内に収まっていれば調整の必要はありませんが、経年劣化や内燃機加工によって基準値を外れていたらシム交換が必要です。ゼファーX用のシム(ゼファー用に限らず多くの機種の交換用シムも同様ですが)の厚さは0.05mm単位で用意されており、測定したバルブクリアランスと現状のシムの厚さから交換に必要なシムを算出します

吸気バルブの基準値0.06~0.17mmに対して実際の測定値が0.30mmだった場合、現状より0.24~0.13mm厚いシムを使えば基準値に入ることが分かります。したがって、カムシャフトとバルブリフターを外してシムを取り出して厚さを確認して、それより0.13~0.24mm厚いシムを入手して組み付けて測定を行います。先に述べたように交換用シムの厚みは0.05mm刻みなので、実際には現状より0.15mmまたは0.20mm厚いシムに交換することになります。

これに対してバルブクリアランスが基準値より小さい、詰まった状態だと交換用のシム選びが一発で決まらない場合があります。バルブ開閉時にバルブとバルブシートが繰り返し叩きつけられることで、走行距離が多いエンジンでクリアランスが狭まるというのは珍しいことではありません。場合によってはシックネスゲージが入らないほどクリアランスが詰まっていることもあります。

このような場合は薄いシムをセットすることでクリアランスを広げるのですが、カムのベース円がバルブリフターに当たっているような場合、どれだけ薄いシムを選択すればクリアランスが基準値に入ってくるかが分かりません。基準値が0.06~0.17mmの吸気バルブの場合、実測値が0.00mmであれば現状より0.10mm薄いシムに交換すれば良いはずです。しかし同じくシックネスゲージが入らない状態でも、実はカムシャフトのベース円がバルブリフターを押している、実質的にマイナスクリアランス(そんな言葉はありませんが)の場合、その押し量によっては0.10mm薄いシムに交換してもまだ基準値よりクリアランスが小さい可能性もあります。そのためサービスマニュアルには、バルブクリアランスがない場合は数サイズ薄いシムを使用してもう一度測定する、という注意書きもあります。

POINT
  • ポイント1・バルブクリアランスはエンジン冷間時に測定し、サービスマニュアル上の基準値と比較して必要に応じて調整を行う
  • ポイント2・測定したクリアランスが基準値より広い場合は厚いシムを、狭い場合は薄いシムに交換する

カムシャフトキャップを着脱する際はカムシャフトやシリンダーヘッドの損傷に注意する

05-5b.jpg カムシャフトはバルブリフターを押し、バルブリフター内側に張りついているシムを介してバルブステムの頂部を押すという構造。アウターシムの場合、バルブリフターの上に乗ることから面積が大きく、したがって重量も重くなる。そのため軽量なインナーシムタイプを使用するエンジンが多いわけだ。

06-4b.jpg 0.05mm単位で厚みが管理されたシムは、バルブクリアランス調整にとって不可欠な精密部品。ゼファーXの場合、2.50mmから3.50mmまでの1mmに21枚のシムが設定されている。

07-3b.jpg バルブクリアランスを広げる際も狭める際も、現在装着されているシムに対してどれだけ変化させるかが重要で、そのためには現状のシム厚を知る必要がある。シムの表面には厚さを示す記号が刻印されているが、摩耗によって読めない時は実測値で判断する。デジタルゲージの測定値は3.06mmだが、このシムは3.05mmの部品であることが分かる。

08-2b.jpg カムシャフトキャップを締める際はサービスマニュアルに記載された締め付け順序どおりに、各ボルトを徐々に締め込んでいく。4気筒エンジンの場合、全シリンダーが同時に圧縮上死点になることはないので、シリンダーヘッドにカムシャフトを置くとどこかのカム山は必ずバルブを押した状態になる。キャップをはめる際はスプリングを押し縮めながらボルトを締めることになるので、スプリングの反力が一カ所に集中しないよう力を分散させて締めることが重要だ。

インナーシムタイプのエンジンではバルブクリアランス調整時にカムシャフトの着脱が必要ですが、それに伴う注意が必要です。4気筒エンジンの場合、圧縮上死点で吸排気バルブが閉じているシリンダーもありますが、カムがバルブを押した状態で止まっているシリンダーもあります。カムシャフトはいくつかのカムシャフトキャップでシリンダーヘッドに組み付けられているので、キャップを取り外す際はボルトを徐々に均等に緩めていき、バルブスリングの張力による影響を最小限にすることが重要です。

シムを交換した後にカムシャフトを組み付ける際にも、カムシャフトキャップの取付は慎重に行わなくてはなりません。ゼファーXのカムシャフトは吸排気とも6個ずつのキャップで組み付けられており、キャップの位置はもちろん締め付け順序も指定されています。全長の長い部品をボルトで固定する際は、中心から外側に向かって締めるのがセオリーで、それにバルブスプリングの張力による影響を配慮して順序が決められています。そしてボルトを締める際も1カ所ずつ本締めするのではなく、すべてのキャップのボルトとを締め付け順序に従って徐々に締めるようにします。

カム山がバルブを押している部分はシリンダーから浮き上がりカムシャフト自体が傾きますが、カムシャフトキャップを均等に締めることでカム山がバルブを押す部分に加わるストレスを軽減できます。この手順を無視して手当たり次第キャップを締めると、カムに曲げ方向の力が加わったり、カムキャップボルトに強い力が加わってシリンダーヘッド側の雌ネジが破損してしまうこともあります。絶版車や旧車のカムシャフトキャップボルトのネジ山が上がるトラブルの多くは、カムシャフト着脱時の作業時の無理が原因となっている場合が多いです。

インナーシムでもアウターシムでも、アジャストスクリュータイプのロッカーアーム式に比べて直打式のバルブクリアランス調整は手間が掛かりますが、吸排気の最重要ポイントであることを理解できるようになると良いでしょう。

POINT
  • ポイント1・4気筒エンジンのカムシャフトキャップを取り外す際は、中心から外側に向かってボルトを徐々に緩めていく
  • ポイント2・バルブスプリングの張力でカムシャフトが押されている部分のキャップを締める場合、ボルトに過大な力が加わるとシリンダーヘッド側の雌ネジが破損することがあるので注意する
 
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