現代技術に見え隠れする「シリンダー内壁」特殊アルミメッキの重要性

「最高の内径加工を目指したい!!減らないシリンダーを造りたい!!」そんな想いを社是に掲げているのが、埼玉県川越市のiB井上ボーリングである。もはや鋳鉄スリーブモデルよりも、メッキシリンダーモデルの方が多くなっている、ガソリンエンジン。そうであれば、鋳鉄スリーブにこだわり続けてはいけないと考えた同社。実は、早い時期からアルミスリーブに特殊メッキを施す「メッキシリンダー技術」に慣れ親しんできたのが、iB井上ボーリングでもあった。

現代エンジンは当然にメッキシリンダー

「ICBM=井上ボーリング・シリンダー・ボア・メゾット」と名付けられた アルミスリーブ内壁に、特殊メッキを施す技術は、アルミのムク材料から削り出されるスリーブ内壁に施される特殊メッキ技術を意味する。素材の多くが切り粉としてリサイクル業者に持ち込まれる。

「柱付き」ポートで圧倒的にライフ向上


パワフルな2ストエンジンで知られるカワサキトリプルH2/H1のシリンダーは、完璧にボーリング&ホーニングしても、かなり早期に(3000キロ程度!!)、異常摩耗を起こしてしまう。パワーを出すためにポートを大きくし過ぎた結果、ピストンリングやピストンスカートが往復運動中に吸排気の大きなポートに飛び込んでしまい、ピストンスリーブやピストンリングエッジが過度に摩耗してしまう。そんな高出力志向の2ストエンジン向けに、吸排気ポート中央へ「柱」を設けた柱付きICBMを開発。このポートの柱がピストンやピストンリングのガイドとなり、ピストンの首振りを抑制し、よりスムーズな往復運動を可能とした。その証拠に、ピストンリングの打音やピストンスカートのスラップ音とは、ほぼ無縁の静かな2ストエンジンを実現できている。

柱付きICBMを採用した500SSマッハⅢのシリンダー。ピストンはシフトアップのドリームタイマーブランドから発売されているカワサキ純正レプリカピストン。定評の同社製ピストンはSTDサイズから025/050/075/100/125オーバーサイズまでラインナップ。

高性能なCNCマシンで高品質な削り出し


2ストシリンダーのスリーブ加工は、横型マシニングセンターを利用し、プログラムデータによって削り出される。ポート孔位置や寸法形状は、シリンダーを実測して数値化されている。シリンダー側のポート孔は、メーカー製造の個体ごとにばらつきがあるため、最終仕上げ加工はハンドメイド=リューターで行われている。

4ストシリンダーこそ高耐久性のICBM

4ストロークエンジンでも、有効であることに変わりはないICBM技術。カワサキZ2/Z1は、鋳鉄スリーブの嵌め合い公差が甘く、素材も劣化が始まっている。本家カワサキのリバイバルプロジェクトで「Z2/Z1シリンダーヘッド」が復刻発売されたことで、シリンダーにはICBM技術が注目されている。耐摩耗性はもちろん、放熱性が向上し、滑り抵抗が低減するICBMシリンダーによる効果は絶大。カワサキH2/H1と同様に、Z2/Z1への施工例は特に多いそうだ。もちろん最新の水冷エンジンでも効果があるため、スズキ・ハヤブサでボアアップのチューニングと同時に採用されたICBMの例が上の画像。

プラトーホーニング技術も見逃せない!!

ICBM採用したシリンダーは、プラトーホーニング技術で仕上げられている。「プラトー」とは「高原」という意味。深いオイル溜まりを粗めのダイヤモンド砥石で仕上げた後に、プラトー仕上げ専用のホーニング砥石でボア内壁表面をピストンクリアランスに仕上げられる。この際、深い溝=谷に対して、表面全体が高台=高原のように仕上げられるため「プラトーポーニング」と呼ばれる。そのプラトー度は、面粗度計によって測定され、データ添付とともに納品される。ICBM化されたヤマハSRのシリンダー面粗度を測定中。

POINT
  • ポイント1・鋳鉄スリーブ表面と特殊メッキのICBMシリンダー表面の硬度を比較すれば圧倒的に高硬度なICBM技術。圧倒的に高い耐摩耗性に要注目
  • ポイント2・ アルミスリーブに特殊メッキを施すので、鋳鉄スリーブと比べて熱伝導性が高く、圧倒的に軽量
  • ポイント3・膨張率の均一化によりピストンクリアランスを詰め、エンジンの静寂性にも幸賢
  • ポイント4・ 特殊メッキの硬度が圧倒的に高いため、ピストン焼き付き時の再生能力も高い

ホンダHRCの市販レーサーRS250やRS125、そして、市販車NSR250Rのメーカー純正補修部品の量産製造を担当してきたiB井上ボーリング。メーカーニーズに応じて1980年代からすでに「メッキシリンダー」の製造経験があったのも同社の大きな特徴である。長年培ってきた量産加工技術を、個人ユーザーやクショップに提供できるメリットは、「プラトーホーニング技術」の提供ですでに経験していたのもiB井上ボーリングだった。そんな同社がメッキシリンダー技術を一般ユーザーに提供し始めて5年強になるが、エンジンなエンジン加工技術に興味を持つユーザーのあいだでは、もはや最高品質のシリンダーを製造できる技術として認識されているのが、ICBM技術である。

鋳鉄シリンダー用のホーニング砥石とは異なり、プラトーホーニング専用のダイヤモンド砥石で仕上げられ、納品されるのがICBMシリンダーである。そもそもプラトーホーニング自体がハイレベルな技術だが、それを標準化しつつ、しかも表面硬度が圧倒的に高いメッキシリンダーを採用しているのだから、圧倒的な高性能を誇るシリンダーとして仕上げられている。

ボア径がΦ50mm以上であれば、2スト/4ストエンジンを問わず、どんなシリンダーでもICBM化は可能。もちろんボアサイズも純正STDだけではなく、ビッグボア化も可能となっている。また、NSR250Rのように、そもそもメッキシリンダーを採用していながら、痛んだシリンダーを再メッキ再生することも可能。つまりΦ50~最大でΦ100mmまで、どんなシリンダーでもICBM化は可能となっている。ただし、旧車エンジンのように、シリンダー全体が鋳鉄製(鋳鉄ブロック)のものに関しては、できないそうだ。

ICBM技術のアドバンテージを再確認すると、

第1に「超長寿命の耐久性」を挙げることができる。メッキ層の硬度測定では、ビッカース硬度の測定規格で分析すると、鋳鉄スリーブの硬度は柔らかいもので45、硬いものでも140程度の数値を示す。一方、ICBMによって製造されたメッキシリンダーのピッカース硬度は450。ちなみに、工程別にピッカース硬度を測定すると、下処理のニッケルメッキ時で硬度は450。最終仕上げの特殊メッキにはシリコン粒子が混ざっており、この粒子硬度は2000!!。圧倒的な硬度を誇っていることは誰もが理解できるはずだ。このシリコン粒子が最後まで磨耗の最前線にあり、ニッケル地が僅かに磨耗してもこのシリコン部分が保持されボア寸法の変化には至らないという特徴的なメカニズムを持っている。

第2に「軽量」であること。アルミの重さは鉄と比べて1/3程度。スリーブ単体比較は圧倒的な違いでもある。エンジン腰上用部品をキロ単位で軽量化できるので、マシンの運動性で考えると大きな効果を得られるのは間違い無い。

第3に「放熱性」の高さも見逃せない。鋳鉄と比べアルミスリーブは熱伝導性に優れている。空冷エンジンでは、特に大きなアドバンテージになるのは間違い無い。

第4に「熱膨張の均一化」もある。アルミ製ピストンに対して、鋳鉄スリーブを利用すると、熱膨張率の違いから、ボアサイズに適したピストンクリアランスを維持しなくてはいけない。対してアルミスリーブなら熱膨張率も近くなり、ピストンクリアランスを詰められる事実も忘れてはいけない。

そして第5に「焼き付きにくさ」もある。iBでは、以前から特殊メッキシリンダーの再メッキ処理を受けているが、再メッキ依頼で入ってきたシリンダーボアを軽くホーニングすると、ピストンが溶けてこびりついた下から無傷な特殊メッキ壁が現れることが珍しくないそうだ。それほどまでに特殊メッキシリンダーは強いのだ。このようにICBM化によって、様々なアドバンテージを得られるようになるのだ。

取材協力:iB井上ボーリング

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