お湯で煮込めばすべてが分かる!?単純だけど重要なサーモスタットの動作チェック

水冷エンジンの冷却経路に必ず組み込まれているサーモスタットは冷却水の温度を適正に保つために不可欠な部品です。オーバーヒートを防止するのが目的なら、冷却水は常にラジエターを通せば良いはずですが、なぜ低温時にわざわざ通路を塞ぐのでしょうか?エンジンに必要な「温度」を理解すればサーモスタットの重要性が分かるはずです。

エンジンは冷えれば良いというものではない

エンジン出口側にサーモスタットが付くインライン型と、入り口側に付くボトムバイパス型の違いは設置位置で想像が付く。エンジンの上部にあり、サーモスタットハウジングのホースがラジエターのアッパー側につながるのがインライン型で、ヤマハV-MAXのようにエンジン下部にありラジエターのロアホースがサーモスタットハウジングにつながっているのがボトムバイパス型となる。

V-MAXのサーモスタットハウジングは前側シリンダーのエキゾーストパイプ裏側にあるため、ケースにつながっているホースやパイプに無理な力を加えないように注意しながら取り外す。パイプ先端のOリングは組み込まれた状態で変形、硬化していることが多いので、復元時に新品に交換しておく。また滲んだ冷却水がパイプやエンジン側に固着している場合は、不織布スポンジなどで取り除いておく。

走行しないと冷却できない空冷エンジンに対して、ラジエターから冷却水の熱を発散する水冷エンジンはオーバーヒートに強いとされています。バイクでは現在でも少ないながら空冷エンジン搭載車がありますが、現行モデルの自動車はすべて水冷化されているのはそのためです。

水冷エンジンの冷却経路はエンジン内部にあるウォータージャケット、ウォーターポンプ、エンジンの前側に配置されることが多いラジエターで構成されていますが、これらとは別に重要な働きをしているのがサーモスタットです。何本もあるラジエターホースの途中に組み込まれているサーモスタットは地味な存在ですが、水冷システムのカギを握っていると言っても過言ではありません。

和室のコタツやファンヒーターやエアコンなど、温めすぎたら作動を停止して冷えたらスイッチを入れるといった、何かの温度を適切に維持するために使われるのがサーモスタットです。水冷エンジンの冷却経路にあるサーモスタットは、冷却水の温度を維持するために存在します。勘違いしがちなのが、水温が上昇した時に開く=冷却を促進するための部品と思っている方も多いようですが、働きはそれだけではありません。本当に冷却だけのことを考えれば、経路の途中を遮蔽するサーモスタットなど付けない方が効率は上がります。

ここに「温度を適切に維持する」というサーモスタットの意義があります。つまり冷却経路は単に冷えれば良いというわけではないということです。空冷エンジンが水冷化された理由のひとつには、冷間始動時のエンジン温度を短時間で適温まで上昇させるという目的があります。空冷エンジン車のオーナーなら分かるでしょうが、寒い冬の時期の始動にはチョークが必須です。通常走行時よりガソリンを濃く(または空気を絞る)ことで霧化しづらいガソリンを燃焼室に多量に送り込むことで燃焼を促進するのです。エンジンが始動すればシリンダーやシリンダーヘッドには燃焼熱が伝わりますが、気温が低いほどその熱は奪われてしまい、いつまでも温度が上がらないため霧化も安定しません。またエンジンオイルの温度も上がりづらいため、低温で粘度が高い状態が続いてしまいます。

一方水冷エンジンは、サーモスタットがあることで水温が低い時には冷却水をラジエターに流さず、エンジン内のウォータージャケット内だけを循環させます(一部バイパス経路に流れる分もあります)。すると燃焼熱を受けた冷却水は閉じられた経路で温度が早く上昇して、ガソリンの霧化が促進されて油温も上昇して短時間で暖機が完了するのです。

その上で、ウォータージャケット内の水温が必要充分に高まった段階で初めてラジエターに冷却水を流して走行風で温度を下げた後にエンジン内に戻して冷却を行います。その後も冷却水の温度がサーモスタットの設定温度以下まで下がれば弁が閉じて温度を上昇させ、温度が上がれば弁が開くという動作を繰り返しながら、設定された温度を維持します。

これがサーモスタットの役割であり、オーバーヒートだけでなく、オーバークールを防ぎ暖機や保温のためにも働いているのです。

POINT
  • ポイント1・サーモスタットは冷却水の温度によって開閉して水温を適正に保つ
  • ポイント2・オーバーヒートを防止するだけでなく、オーバークールを抑制するためにも重要

設置位置によってインライン型とボトムバイパス型がある

ロングライフクーラントを正しく使用しているエンジンなら問題はないが、水道水だけを入れているような場合はハウジング内部が腐食で大変なことになっていることもある。このV-MAXはちゃんとLLCが入っていたので大丈夫。復元時にOリングを交換しないと合わせ面から冷却水が滲み、ボルトをオーバートルクで増し締めするとカバーが歪んでより漏れる原因となる場合がある。Oリングは必ず新品に交換して適正トルクで締めることが重要。

冷却水温の変化によって弁が開閉するサーモスタットの仕組みは、何十年にもわたってほぼ不変です。密閉された容器に閉じ込められた、常温下では固体のワックスが温度上昇によって膨張する体積変化によってバルブを開閉するという、きわめてアナログ的な原理で作動しています。超高性能は最新スーパースポーツモデルでも、冷却水温はワックスの固体と液体の変化で管理されているというのは違和感がありますが、構造がシンプルで信頼性が高く、コストが低く抑えられるという点でこれに勝るものはないようです。一部の自動車用エンジンでは、冷却水温の管理を厳密に行う目的で電子制御式のサーモスタットが採用されているようですが、バイク用では機械式が主流です。

冷却水の温度を適正に保つという目的は同じながら、冷却経路内の設置位置によってサーモスタットは2つのタイプに分類されます。ひとつはインライン型で、これはエンジンの出口とラジエターの間に取り付けられています。そしてもうひとつがボトムバイパス型で、こちらはラジエターからエンジンにつながる入り口側に取り付けられています。ラジエター機器メーカーのホームページによれば、インライン型は乗用車に多く、ボトムバイパス型は大型車両に古くから採用されているようです。したがってバイクの場合はインライン型サーモスタットの割合が高くなっています。

どちらもサーモスタット開弁時にはラジエターを通過した冷却水がウォータージャケットを循環しますが、閉弁時の冷却水の動きに違いがあります。インライン型のサーモスタットはエンジン出口側にあり、弁が閉じている間のラジエター内の冷却水はどんどん温度が低下します。そのためウォータージャケット内の水温が上昇して弁が開くと、温度が低下した冷却水がエンジンに流れ込んで温度差が生じます。

これに対してボトムバイパス型はエンジン入り口側にサーモスタットがあるため、弁が閉じていてもウォータージャケットとラジエターは同じ経路となっており、走行風が当たっても大幅に温度が下がることはなく、開弁してもエンジン内に流れ込む冷却水とウォータージャケット内の水温に大きな差が出づらいという利点があります。ちなみに、ここで紹介しているヤマハV-MAXのサーモスタットはラジエターの下部、クランクケース前方に取り付けられておりエンジン入り口側にあるためボトムバイパス型となります。

POINT
  • ポイント1・冷却経路内の設置位置によってインライン型とボトムバイパス型に分類される

お湯を沸かした開弁温度は原始的な実験で分かる

冷却水の温度によって開弁するサーモスタットの機能をチェックするには、実際に水の中で温めてやれば良い。ただ熱いお湯に入れたら開いた、というだけでは不充分で、お湯の温度を測定することが重要。温度上昇によってワックスは徐々に液化していくので、電気のスイッチが入るようにある温度で突然バルブが全開になるわけではなく、徐々に開弁していく。

スプリングの中に収まる筒の中に封入されたワックスが冷却水温の上昇とともに膨張して、筒の中のピンを押し出す反作用でバルブが開いていくのがサーモスタットの作動原理。温度によって筒の中のピンが動かして仕事をさせるのは、原付スクーターのオートチョークも同様だ。

サーモスタットのバルブは、スプリングによって常に閉じ方向の力が加わっています。したがってトラブルが発生する場合は開弁しない、つまり冷却水がラジエターに流れずオーバーヒート傾向になることが大半です。とはいえ物理的なトラブルや異物の噛み込みなどにより弁が閉じずに冷却水温が充分に上がらずオーバークールになる場合もあります。愛車に水温計やインジケーターランプが装備されている場合、走行中に確認してみましょう。

さらにダイレクトにサーモスタットの機能をチェックするなら、サーモスタット単体をお湯に入れて作動状態を見るのが確実です。サーモスタットは作動温度が決まっており、その温度が本体に刻印されているものもあります。多くの場合は80℃前後から徐々に開弁していくので、温度計で測定しながらお湯を沸かしていくことで、開弁状態を知ることができます。

サーモスタット中心部のケースに入ったワックスが膨張すると、スプリングを圧縮しながらバルブが開きます。この時、開弁温度とともにバルブの外周のガスケットがカチカチに硬化したり欠損していないかを確かめます。ガスケットが劣化しているとバルブが閉じても冷却水が通過してしまい、暖機効率が低下する場合があります。

チューニングやカスタムの結果、発熱量が上がったエンジン向けのパーツとして純正より低い水温から開弁しはじめるローテンプサーモスタットという部品もあります。これにより水温が低い状態からラジエターに冷却水が循環してオーバーヒートを抑制するメリットがある一方で、充分に暖機ができていない状態で循環し始めるため、特に冬場においてはオーバークールとなる場合もあります。その傾向が顕著であれば、冬季はラジエターの一部を塞いだり、純正サーモスタットに戻すなどの対策が必要になるかもしれません。

バルブが閉じた状態。お湯に漬け込む際にフックを掛ける位置は、縮むスプリングや開くバルブに干渉しない位置を選ぶこと。

バルブが全開になるとこのような隙間ができる。バルブにガスケットが組み込まれているか否か、開き初めの温度と全開温度に加えてバルブリフト量が設定されている機種もあるので、愛車のサービスマニュアルなどで確認してから機能を判断する。

POINT
  • ポイント1・サーモスタットはお湯の中で温度を上げることで作動状態を把握できる
  • ポイント2・オーバーヒート対策のためのローテンプ型サーモスタットは、オーバークールの原因となることもあるので要注意
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