絶版車のピストンリングは合口隙間拡大だけでなく張力低下にも気をつけよう

シリンダーと擦れ合いつつ燃焼圧力を漏らさないように受け止めながら、ピストンとともに往復しているピストンリング。圧力を漏らさないためにはリングの合口隙間が規定値以内にあることが大前提ですが、同時にリング自体をシリンダーに押しつける張力も重要です。旧車や絶版車で多く使われていた鋳物製リングの中には、経年変化で張力が低下しているものもあるので注意しましょう。

ピストンリングの合口隙間は必要不可欠

1973年に50ccと80ccエンジンの2速オートマチックで登場したヤマハチャピィはファミリーバイクとして人気を博し、後に4速ミッションのハンドクラッチ仕様と3速ミッションの遠心クラッチ仕様が追加された。このエンジンは遠心クラッチの50ccで、40年で5000kmしか走っていない未再生車だ。

1970年代のファミリーバイクにパワフルさを求めても仕方なく、異音もまったく出ていないがピストンとピストンリングのコンディションをチェックするためにシリンダーを取り外す。カムチェーンやバルブ周りの部品がない2ストロークは簡単に腰上が分解できる。

どれひとつとっても欠かすことのできないエンジンパーツの中でも、ピストンリングは最重要パーツのひとつです。ピストンとシリンダーの隙間にあって燃焼圧力の吹き抜けを防止し、燃焼室内へのエンジンオイルの侵入を防ぎ、ピストンが受け止める燃焼で発生する高温の熱をシリンダーに伝えるなど、ハイコンプピストンやハイカムのような目立つ存在ではないものの果たしている役割は重大です。

シリンダーに挿入する前はアルファベットの「C」のように隙間があり、シリンダーに挿入されると合口が狭まって真円になるピストンリングにとって、合口隙間の寸法は重要な要素となります。圧縮漏れを完全に塞ぎたいなら合口をなくして円環にすれば完璧のように思われますが、そんな形状にしたらまず第一にピストンリング溝に収まりません。ピストンリングの着脱を行ったことのあるサンデーメカニックならお分かりのとおり、ピストンリングは切れ目があるからリング溝に収めることができます。

また金属は熱が加わることで膨張するため、閉じた円環状のリングが膨張するとシリンダーとのフリクションが増大してしまいます。そこで加熱によって膨張しても「C」の両端が突き当たらないようにあらかじめ適度な合口隙間が設定されています

ピストンリングは一般的に4ストロークエンジンは3本で、2ストロークは2本使われていますが、シリンダーと擦れ合いながらストロークすることで徐々に摩耗していきます。リングの摩耗だけでなく、シリンダーが内径が拡大する摩耗もありますが、どちらであってもピストンリングの合口隙間は僅かずつ拡大します。

すると拡大した隙間から燃焼圧力がクランクケース側に抜けてブローバイガスが増加するとともに、圧縮が逃げることでピストンを押し下げる力が低下してエンジンのパワー感の低下にもつながります。そのためサービスマニュアルにはピストンリングの合口隙間の標準値と許容範囲が記されています。例えばカワサキZ1のサービスマニュアルには、合口隙間の標準値は0.2~0.4mm、使用限度は0.7mmと記載されています。また2ストロークのヤマハYB-1は標準値が0.15~0.30mmで使用限度は0.7mmとなっています。

POINT
  • ポイント1・ピストンリングには適正な合口隙間があり、使用限度以上に広がった場合は交換が必要
  • ポイント2・合口隙間の標準値と使用限度は機種ごとのサービスマニュアルの数値に従う

ピストンリングの張力が低下すると圧縮圧力が吹き抜ける

画像で見やすいようシリンダー下部で合口隙間を測定しているが、本来はもっと上で行う。シックネスゲージで測ると0.35mmは入るが0.40mmが入らない。使用限度の0.7mmまではまだ余裕があるが、標準隙間上限の0.30mmよりは摩耗している。

合口隙間の拡大もさることながら、ピストン側面の吹き抜け痕が著しい。シリンダーにもピストンにも目立つ傷はないのにこれだけ抜けるのはピストンリングの張力低下が原因であることが多い。ピストンを観察すると、トップリングはほぼリング溝に収まっており、これではシリンダーに収めてもテンションは上がっていそうにない。

合口隙間と並んで重要な要素は張力です。ピストンリング溝にはめたリングは全体的にリング溝からはみ出しており、エンジンを組み立てる際はそれを押し縮めながらシリンダーに挿入します。圧縮圧力の漏れを最小限にするには、リング自体をシリンダー内壁に押しつける張力が不可欠です。

ピストンリング張力の持続性については、リングの素材に依存する面があります。現在のピストンリング素材はスチール鋼(はがね)を使っていますが、1960年代以前の旧車や絶版車、1970年代でも小型車は鋳鉄製リングが使われていました。鋳鉄=鋳物のリングは強度、弾性、熱によるへたりのすべてが鋼製に劣っていますが、これは当時の技術力からして致し方ない面もあります。逆に言えば、鋳物製リングの弱点を解消するために開発されたのが鋼製リングだったわけです。

もちろん鋼製であっても、シリンダー内に押し込められて燃焼熱にさらされることで張力は低下していきます。カワサキZ1のサービスマニュアルにはリング単品での隙間(自由隙間)のデータも掲載されており、トップリングとセカンドリングの標準値は9mmで使用限度は7mm、オイルリングはそれぞれ8mmと5mmと表記されています。つまり経年劣化などで張力が低下した分隙間が狭まるというわけです。

張力低下は見過ごせない問題で、以前所有していたカワサキZ1000Jでオイル上がりが発生した時は、合口隙間は既定値内でしたが張力低下が原因でした。隙間測定で問題がなかったのでピストンに復元した際に、リング溝から飛び出そうとする元気=張力がなかったので新品を取り寄せて比較したところ自由隙間が全然違っており、張力低下によってシリンダーのオイルを掻き落とす能力の低下がオイル上がりの原因であると分かりました。

また鋳物時代のキーストンタイプと呼ばれるリングは、上面が内径に向かって浅い角度でテーパー状に成型されており、張力に加えて圧縮圧力でリングをシリンダーに押しつけていました。圧縮圧力を保つことはそれだけ重要だったわけです。


POINT
  • ポイント1・合口隙間が使用限度内でもピストンリングの張力低下で圧縮圧力が吹き抜ける場合がある
  • ポイント2・旧車や絶版車に用いられる鋳物製リングは、鋼製リングに比べて経年変化により張力低下を起こしやすい

リングが回らない2ストロークは合口からの吹き抜けが分かりやすい

ピストンは販売終了だが50ccのピストンリングセットは純正部品が購入できる。焼き付きなどでピストンやシリンダーが使えない場合は、社外ピストンキットを販売しているメーカーなどを検索してみるとよい(小型車用ピストンキットではTKRJが有名だ)。

ピストン自体には大きな傷はないので、洗浄して新品ピストンリングを組み付けてエンジンを復元できた。スポーツモデルに比べてファミリーバイクはおとなしく乗られることが多いのでトラブルは少ないようだ。ただしピストンリングの張力低下は経年劣化によるものなので避けられない。

2ストロークと4ストローク用ピストンリングの大きな違いは、4スト用はリング溝に沿って自由に回転できるのに対して、2スト用のリングは合口部分のノックピンによって位置が定められていることです。2ストはシリンダーの内面に排気や掃気ポートの開口部があるため、リングが自由に回って合口がポート位置に合致すると破損してしまうため、ポートのない部分に合口が来るように設計されています。

リングの合口位置が固定されているということは、吹き抜けなどが発生した際にもその症状がよく分かります。1970年代に製造されてからおそらく一度もピストンリング交換したことのないヤマハのファミリーバイク、チャピィのシリンダーを取り外してピストンを確認したところ、セカンドリングのはるか下方までブローバイガスが付着していました。

ピストンとシリンダーを観察して焼き付きなどの機械的トラブルはなく、合口隙間も交換限度まで達していないので、経年劣化による張力低下が原因だと思われます。リング溝に収まったトップリングがほとんど拡張しておらず、トップリング下の全周に渡ってカーボンが付着しているのも、張力低下と判断できる要素です。

幸いなことに、製造から40年以上を経ていてもこのバイクのピストンリングセットはまだ純正部品が販売されていたので新品に交換することができ、そしてリング交換しただけなのにマフラーから聞こえる排気音の歯切れが良くなり、パワー感アップも体感できました。すべての旧車や絶版車で新品ピストンリングが購入できるわけではないのが残念ですが、ピストンを確認して明らかにブローバイガスが吹き抜けている場合にはピストンリング交換によってエンジンコンディションが回復するはずです。


POINT
  • ポイント1・ノックピンで合口位置が固定されている2ストロークエンジンのピストンリングは張力低下を把握しやすい
  • ポイント2・張力低下したピストンリングを交換するだけでエンジンコンディションが改善することもある
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