2ストエンジン「燃焼室再生」で見えない部分もリフレッシュ!!

空冷2ストロークエンジンに限ったことではなく、NSR250Rに代表される水冷2ストロークのレーサーレプリカエンジンや4ストチューンドエンジン、ターボエンジンなど、エンジンチューニングの度合いに比例して発生しやすくなるのが異常燃焼である。ハイコンプレッション仕様にし、点火時期を早め、さらにキャブセッティングを間違えた時などに起こりやすくなるのが爆発燃焼トラブルだ。90年代以前は、オクタン価の高いレーシングガソリンや有鉛ガソリンを利用することで緩和することもできた。現在は、環境問題から特殊なガソリンや高オクタン価なガソリンが販売されていないこともあり、チューニングの抑制で対応しているケースが多い(穏やかなセッティングにて)。

70年代の空冷2ストスプリンターも、異常燃焼によってエンジントラブルを発生させ、時に大きな傷手を負うことが多かった。そんな経験をしたことがあるベテランライダーは数多いはずだ。しかし、多くのトラブルは、エンジンチューンうんぬん以前に「メンテナンス不足」による発生が多かったのもまた事実である。ここでは、痛んでしまった燃焼室を復活させるスペシャルメニューをリポートしよう。

中味だけ入れ換える加工技術


そもそも異常燃焼には様々なタイプがあるが、歴代空冷2ストスプリンターに限って言えば、その多くが「2次空気」の吸い込みによるものや点火時期の調整不良によるトラブルが多かった。2次空気を吸いガスが薄くなると、ピストントップに穴を開けてしまったり、ピストン外周のリング溝欠け(通称:棚落ち)が発生する。そんなトラブル時は欠けたり溶けたピストン粉が燃焼室とピストンに挟まれ、燃焼室側がギザギザの傷だらけになってしまうことが多い。そんなシリンダーヘッドを削り落とし、新しい燃焼室を圧入再生するのがここでリポートする技術「ハイブリッド燃焼室」だ。



データ入力によって精密に自動加工すねことができるNC旋盤。異常燃焼トラブルによってギザギザの傷だらけになった旧燃焼室を削り取っている。この後、切削側寸法に合せたアルミブロックを燃焼室内に圧入し、新たな燃焼室を削り出す。3気筒エンジンのシリンダーヘッドでも、すべての燃焼室容積をピタリと合せることができるのがNC加工の素晴らしさだ。

NC加工で削り取られた燃焼室


NC旋盤の回転軸にシリンダーヘッドを固定できる専用治具を製作。プラグ穴をセンターに削り落とされた燃焼室。新規燃焼室となるアルミブロックを圧入後、メーカー純正燃焼室と同じようにNC旋盤よって燃焼室も削り出される。



加工前のシリンダーヘッドと削り落とし後の燃焼室部分に圧入固定される新規燃焼室の削りだしブロック。例えば、燃焼室形状を変更するエンジンチューニングを施す例があるドラッグレースでは、NC加工機があれば複数のシリンダーヘッドでも同じ燃焼室容積で加工仕上げすることができる。

削りだしブロックをプレス圧入


NC旋盤にチャッキングするための治具にセットした状態で、削り出された新規燃焼室ブロックを油圧プレスで圧入。低圧入程度でも、燃焼室の熱膨張で稼働時にはシリンダーヘッドへガッチリ固定される。カワサキH2やH1オーナーさんの中には、ギザギザ燃焼室のまま走っている例が多い。燃焼室の再生によってバランスの取れた爆発燃焼を得られるようになる。燃焼室バランスが崩れていたエンジンは、この加工によってエンジンの吹けがスムーズになる。



新規削りだしブロックを油圧プレスでシリンダーヘッドへ圧入したら、固定治具をNC旋盤へチャッキング。いよいよ燃焼室の削りだし加工が行われる。刃具(ツール)を全自動で交換段取りしながら切削加工される。

加工形状の検討でカットされたヘッド


純正シリンダーヘッドの強度を落とさないように新規ブロックの圧入時には、純正シリンダーヘッドのカットモデルが作られた。加工形状を検討された後に本番部品の加工に至っている。井上ボーリングではカワサキH1/H2の加工実績が多い。プラグネジが上がったヘッドの再生時に、プラグ穴の補修だけではなくハイブリッド燃焼室加工を検討するのも良いだろう。外部からは一切わからないこれぞ「モダナイズ」だ。

POINT
  • ポイント1・ シリンダーヘッドを取り外したら燃焼室内がギザギザになっていた。それはトラブル履歴と考えよう
  • ポイント2・ 凸凹やギザギザがある2ストマルチエンジンの場合は、そのギザギザが燃焼バランスを崩していると考えられる
  • ポイント3・ 最善のコンディションを得られる燃焼室の入れ換えは一考。燃焼室容積が一致すると気持ち良く回り振動が少ないエンジンになる

「2次空気」トラブルとは、エアークーリーナーからキャブを通過し、エンジンに吸い込まれる吸入空気以外に、キャブ本体の取り付け不良などから「別の空気を吸ってしまうトラブル」である。想定以上に多くの空気を吸ってしまうことで、結果的にキャブセッティングが薄くなってしまい、異常燃焼を起こす原因となるのだ。そんな燃焼トラブルが発生したときに、少なからず影響を受けてしまうのがシリンダーヘッドである。

二次空気や希薄燃焼などが原因で起こる異常燃焼では、ピストントップが溶けてしまうトラブルが発生しやすい。その溶けたアルミ粉が燃焼室内に溶着し、それをピストンの往復運動で叩き、結果的に燃焼室内がザラザラ、ギザギザになってしまう。このようなトラブルが発生したときは、シリンダーヘッドを洗い油や灯油にしばらく浸し、細目のサンドペーパーや不織布シートなどを使ってじっくり磨くことで、ある程度は落とすこともできる。しかし、ピストン破壊やピストン吹き抜けが発生すると、その破片が燃焼室内、特に影響を受けやすいのが燃焼室外周のスキッシュエリアで、その周辺に残骸が突き刺さってしまうことが多い。そんな破片を除去できたとしても、ギザギザ痕は消えないし、無理に削り取ってしまうと他のシリンダーヘッドと燃焼室容積が狂ってしまい、結局はバランス良く爆発燃焼しなくなってしまう。高回転域で気持ちよく回らないエンジンや、快調なエンジンと比べて振動が多いエンジンなどは、過去にトラブル履歴のあると考えられる。

仮に、ギザギザに痛んだ部分を磨いたとしても、そのまま走らせるとカーボンが堆積しやすくなり、やはり各気筒間でバランス良く爆発燃焼できなくなくなってしまう。昔なら新品部品を購入できたし、中古部品を容易に見つけることもできた。しかし、今となっては、なかなかそうもいかないのが現実だろう。過去にカワサキトリブルのエンジンは何度もオーバーホールした経験があるが、H1やH2はギザギザになっているヘッドが多く、コンディションの良い部品を揃えるのも大変である。

そんなトラブルに悩んだとき、頼りになるのが内燃機のプロショップ。井上ボーリングのメニューにある「ハイブリッドヘッド」がそれである。同技術を施工し、3気筒のシリンダーヘッドコンディションが良く、燃焼室容積が一致すると、エンジンが実にスムーズに回り、以前と比べて振動が減ったことを体感することができた。旧車2ストロークのマルチエンジンを、気持ち良く走らせるために効果的なのが、ハイブリッドヘッドだと言えそうだ。
取材協力:iB井上ボーリング

2ストファン垂涎の最速スプリンター


1969年に発売されたカワサキ500SSマッハⅢの兄貴分として、世界最速を命題に開発されたのがカワサキ2ストトリプルシリーズ最大排気量モデル、750SSマッハⅢ/H2。1971年に登場し、海外では「マッハⅣ」の愛称で呼ばれた。そのエキサイティングな走りは今現在でも変らず楽しむことができる。このモデルは1973年に登場したマイナーチェンジ版、750SS/H2-A。H2シリーズは76年頃まで輸出専用モデルとして販売された。

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