雌ネジ修理の救世主!リコイルを使いこなせば高価なパーツも再使用できる
ビスやボルトを締める際は雌ネジを傷めないよう最新の注意を払うべき。そう分かっていても、ふとした気の緩みや雑な作業でダメージを与えてしまうことがあります。ボルトの相手が着脱できるナットなら簡単に交換できますが、部品交換が必要な大物だと厄介です。そんな時にリコイルを活用すれば、部品交換のコストを削減しつつ強度の高い雌ネジを作ることができます。

アルミ鋳物部品の雌ネジは繰り返しの着脱やオーバートルクでも傷む

1997年式ハーレーダビッドソンスポーツスターのエンジン左サイド。プライマリーチェーンカバー下部にクラッチケーブルが挿入されており、クラッチレリーズはカバー内部にある。

クラッチケーブルの根元からオイル漏れを防止するために液体ガスケットが塗ってあるが、クラッチ操作のたびにアウターケーブルが僅かに動くためガスケットとカバーに隙間ができてオイルが漏れてしまっている。

鉄のボルトと鉄のナット、鉄のボルトとアルミ部品の雌ネジなど組み合わせはいろいろですが、エンジンも車体も、バイクの多くの部分はビスやボルトで部品を固定することで組み立てられています。

この固定部分には、組み立て時に一度締め付けたら二度と外さないものと、組み立て後も緩めたり締めたりするものがあります。マニアックないじり好きの中には、すべてのボルトを外して分解組み立てを行うのを楽しむ人もいるかもしれませんが、大半のライダーはエンジンのクランクケースの合わせ部分のボルトを外すことはないでしょう。

一方でバックミラーのステーやオイルドレンボルトは、調整やメンテナンスで緩めたり取り外すことがあるボルトになります。一度外したボルトを締め付ける作業は簡単だと思い込んでいる方も少なくないと思いますが、単純な作業に思えるところにミスが生じます。

バックミラーの取り付け時にステーとホルダーのネジが噛み合わず、噛み合ったかと思ってグイッと締めて雌ネジをなめかけたライダーは少なくないはずです。何度も着脱するうちにネジのガタが広がると、トルクがしっかり掛からず簡単に緩むようになってしまいます。

ネジにトラブルが発生するともっと深刻なのは、スパークプラグやオイルドレンボルトです。どちらも取り付け時は手でねじ込むのが鉄則ですが、つい面倒で最初からプラグレンチやソケットで大きなトルクを掛けてしまうと、あっけないほど簡単に雌ネジをなめてしまいます。

ここで紹介するハーレーダビッドソンスポーツスターのプライマリーチェーンカバーの雌ネジも、注意力不足によるうっかりミスか、オーバートルク傾向のユーザーによって破壊されたパターンです。

カバー下部に取り付けられたクラッチケーブルは、チェーンケース内部のレリーズでクラッチを断続します。クラッチは湿式多板で、プライマリーチェーンの潤滑も必要なため、ケース内部にはプライマリー&ミッションオイルが入っています。そのため、ケースにねじ込まれたクラッチケーブルエンドにはネジ部からのオイル漏れを防ぐための銅ワッシャーがセットされています。

しかしながらこのバイクの以前のオーナーは、アウターケーブルを斜めにねじ込もうとしたのか、カバー側の雌ネジが傷んでガタが生じています。アウターケーブルを増し締めしようにもネジ部は根元に達しているので、それ以上締め付けることはできません。しかしケーブル側の雄ネジとカバー側の雌ネジにはトルクは掛かっているのにガタがあり、うっすらとオイルが滲み出てきます。

気休めに液体ガスケットが盛ってありますが、クラッチ操作のたびにアウターケーブルが僅かに動くため役に立っていません。

クラッチケーブルを外してカバー側の雌ネジを観察すると、ネジ山の頂点が削れて低くなっている。硬いアウターケーブルを無理な力でねじ込んだ結果かもしれないし、滲み量が少なかった頃に過大なトルクで増し締めしたのかもしれない。雌ネジ部分まで一体式なので、リコイルを使わないならカバー全体を交換するしかない。

POINT
  • ポイント1・ボルトやビスを締める際は気を抜きがちだが注意が必要
  • ポイント2・スパークプラグ穴やドレンボルトの雌ネジを傷めると被害は甚大になりがち

リコイルはオイルパンやプラグホールも修復できる優れもの

オーストラリアで製造されるリコイルにはいくつかのキットがあるが、プロシリーズと呼ばれるキットは全長が異なる3種類のインサートが入っているのが特長。その他にはドリル、リコイル用タップ、挿入工具、折取工具などが含まれている。

こうした雌ネジトラブルの補修アイテムにはいくつかの種類がありますが、中でも多くのプロユーザーに信頼されているのがリコイルです。断面が菱形でコイル状に巻かれたステンレス製のリコイルインサートを雌ネジ部分に挿入する技術はオーストラリアで開発され、補修だけでなく機械製造などの現場でも使われています。

傷んだ雌ネジにコイルを挿入するとネジ径が小さくなってしまうので、ダメージを負った雌ネジをあらかじめ拡大して、使用するリコイルインサートに適したタップで雌ネジを切ってから、元の雄ネジ径に合わせたコイルを施工するのが特長で、例えばM8-1.25のボルトのを使いたいならM8-1.25の雌ネジを作ることができます。

傷んだ雌ネジを拡大してタップを立てて、新たに挿入するインサートを雌ネジとして使うことに不安を感じるかもしれません。しかしステンレス製のインサートは下穴のタップより直径がひとまわり大きく、挿入するとスプリング効果で下穴に押しつけられるためボルトの着脱とともに抜けることはありません。

それどころか、スポーツスターのプライマリーチェーンカバーのように母材がアルミ素材だった場合、ステンレスのリコイルインサートを組み込むことで雌ネジの強度を上げることもできるのです。リコイルインサートが下穴に挿入されることでコイル状のガスケットのように機能するため、スパークプラグのネジ補修をした後に圧縮が漏れるようなこともありません。

プラグ穴に加わる高い圧力を漏らさないのだから、補修したオイルパンからオイルが滲むこともありません。もちろん、クラッチケーブル挿入部のオイル漏れも、リコイルによって雌ネジが復活すれば止まるというわけです。

リコイルによる機械的な強度向上は絶版車のメンテナンスでも有効です。人気モデルのカワサキKZ1000Jシリーズのカムシャフトを保持するキャップを固定するボルトのサイズはM6で締め付けトルクは17Nmです。一般的なM6ボルトの締め付けトルクは10Nmなので、メーカーによって1.7倍ものトルクが指定されています。簡単にいえば、常に締めすぎの状態です。

その結果、カムシャフトの着脱を繰り返すうちにヘッド側の雌ネジが傷んでしまい、キャップが固定できなくなるのが持病とされています。

バルブスプリングの反力に耐えながらカムシャフトを押さえつけるカムキャップを指定トルクで締めるために、傷んだ雌ネジの補修手段として活用されているのがリコイルです。カムシャフトを外した際に、傷んだ雌ネジも現在はまだ傷んでいない雌ネジもリコイルを施工することで、カムキャップを17Nmで締め付けてもビクともしないシリンダーヘッドになります。

雌ネジが壊れた時に使うだけでなく、壊れる前に使うことで素材の強度を上げられるのがリコイルの大きな特長なのです。

POINT
  • ポイント1・タップによって雌ネジを拡大するのではなく、元のボルトサイズが使えるように補修するのがリコイルの特長
  • ポイント2・ステンレス製のコイルを挿入することで雌ネジの強度がアップする

補修作業の成否は下穴加工のドリルの正確さがすべて

1:ネジ径に合ったリコイルキットを購入するため、ネジ径を測定する。クラッチケーブルはインチボルトなので、これは5/16インチとなる。
2:インチボルトのピッチは1インチ当たりの山の数で表記される。ピッチゲージを当てて測定するのが最も正確。
3:リコイルプロキットでは製品番号34056が5/16-24に相当する。
4:ドリルの刃、タップはリコイル専用の寸法となっており、市販のドリルやタップの寸法系とは異なるので要注意。


リコイル修理に当たっては、破損した雌ネジを削り落とす下穴加工が最大のポイント。元のネジ穴に対して傾かないよう、慎重にドリルを当ててドリルを回す。

一般的なT型のタップハンドルではカバー本体に干渉するので、エクステンションバーとT型ハンドルを使って雌ネジを切る。下穴に対して傾けないよう注意しながら作業する。

1:挿入工具にリコイルインサートをセットして、ストッパーとなるカラーの位置を決める。
2:挿入工具を時計方向に回すと、コイルが僅かに縮みながらタップで切った雌ネジに倣って挿入されていく。工具を強く押すと下穴の雌ネジの山を飛び越えてしまうので、軽く回すこと。
3:挿入前にネジ部分の深さを測定してそれに適したインサートを用いることで、補修部分にピッタリ収まる。奥に見える横棒は、挿入工具に引っ掛けるためのタングと呼ばれる部分。
4:折取工具でタングを軽く叩くと、横棒部分だけが折れて回収できる。


リコイルによる補修は、破損した雌ネジと同じサイズに復元できるのが特長なので、補修用のキットを購入する際はボルトのサイズを正しく把握することが重要です。M10ボルトに並目の1.5と細目の1.25があるように、ネジ径が同じでもピッチ違いがある場合はピッチも合わせて把握しておきます。

スポーツスターのクラッチケーブル先端の雄ネジは直径5/16インチでピッチ24(長さ1インチのネジに24個のネジ山がある)という規格だったので、このネジに合ったプロシリーズリペアキットを用意します。

スパークプラグ穴やカムキャップの雌ネジといったシビアな補修に比べれば、プライマリーチェーンカバーの補修はリコイルを用いた修理の中では容易な部類に入ります。とはいえ作業を適当に行えば失敗に直結してしまうので慎重さが必要です。

リコイルを用いた雌ネジ補修で最も重要なのは、破損した雌ネジを取り除き新たな雌ネジの基準となる下穴加工です。

ドリルで開けた下穴に対してリコイルインサートを挿入するタップを立てて、新たな雌ネジとなるリコイルインサートを挿入するという工程になるので、下穴が傾くと取り付けるボルトも傾いてしまいます。チェーンカバーの補修で雌ネジが斜めになれば、クラッチケーブルの根元がカバーに密着せず、ネジが直ったのにオイル滲みは止まらないという最悪の事態になりかねません。

そうした二次トラブルを防ぐには、雌ネジに対してまっすぐに下穴を開けられるように作業環境や体勢を整えることが重要です。エンジン下部にあるプライマリーチェーンカバーの修理をするにはクラッチケーブルを外す必要があり、車体にカバーが付いた状態では作業姿勢に無理があるので、問答無用でカバーを取り外します。

その上で作業台やバイスにしっかり固定し、元の雌ネジと角度や方向を慎重に合わせて、リコイルキット付属のドリルで下穴を開けていきます。一度ドリルを通したら、リコイルタップによる雌ネジ加工もその角度に倣うので後戻りはできません。リコイルによる補修のハイライトはリコイルインサートの挿入と思われがちですが、最も緊張し重要なのはドリルによる下穴加工です。

下穴が開いたら専用タップで新たな雌ネジを切り、そこにリコイルインサートを挿入します。リコイル自体はコイル状で、雌ネジよりも直径がひと回り大きく、縮みながら挿入した後に拡張して突っ張り、抜けなくなります。補修完了後にクラッチケーブルをねじ込むと、ネジ部のガタは皆無となり、根元までねじ込むとワッシャーとOリングがチェーンカバーの座面にぴったりと密着してプライマリーオイルの滲みは完璧に治まりました。

重要なのはボルトやビスを扱う際は雌ネジを傷めないよう慎重に作業することですが、もし雌ネジをなめてしまった時にはリコイルを活用した補修を実践することを考えてみましょう。

エンジンにカバーを復元してクラッチケーブルをセットすると、ネジ部分の剛性感は抜群でケーブル根元のワッシャー、ガスケットもぴったり密着してオイル漏れは完全になくなった。

POINT
  • ポイント1・補修する雌ネジとセットになるボルトやビスのサイズを把握して補修キットを手配する
  • ポイント2・傷んだ雌ネジを削り落とす下穴加工がリコイル補修のハイライト
 
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