エンジンの基礎体力が分かる圧縮測定のコツ

血圧測定が身体のコンディションを知るための手がかりになるのと同様に、エンジンのコンプレッション=圧縮圧力を測定することで、そのエンジンの状態を知ることができます。人の血圧と同じで、エンジンのコンプレッションも低すぎても高すぎてもどこかに問題が潜んでいます。

専用のゲージで簡単に測定できるので「大丈夫かな」「どこか調子が悪い気がする」と愛車に不安があるときはもちろん、今は問題なくても定期的に測定することで、次のメンテナンスやオーバーホールの予定も立てやすくなります。

コンディションの指標となる圧縮圧力と圧縮比の違いとは?

朝の寝起きがとても辛いとか、ちょっと小走りしただけで動悸が激しいなど、我々人間であれば何となく血圧由来の体調不良を感じることができます。
しかしバイクのエンジンは自ら不具合を申告できないので、最近加速が悪いとか、白煙が増えてきたとか、パンチ感がないなどの性能低下の原因は何らかの方法でオーナーが把握しなくてはなりません。
そのために頼りになる測定機器がコンプレッションゲージです。
プラグ穴にアダプターを接続して、ピストンが往復する際に燃焼室で発生する圧力を直接測定するコンプレッションゲージは、人間でいえば血圧測定を行うようなもの。


ちなみに、エンジンの主要スペックにある「圧縮比」と、コンプレッションゲージで測定できる「圧縮圧力」は別物です。
圧縮比は「シリンダー容積+燃焼室容積」と「燃焼室容積」の容積比率で、計算上で求められる静的な数値で単位はありません。
一方、圧縮圧力はピストンが実際に動きながら混合気を圧縮する際の圧力を動的に測定するもので、圧力の単位kPa(キロパスカル)で示されます(SI単位系に移行する前だとkgf/cm2で示されます)。


POINT
  1. 圧縮比と圧縮圧力は別の数値であることを理解する
  2. コンプレッションゲージは圧縮圧力を測定する機器である

コンプレッションゲージはスパークプラグアダプター、ジョイントチューブ、ゲージで構成される。ジョイントチューブには柔軟性のあるゴムホースと、圧力損失の少ない金属パイプ製がある。


ジョイントチューブが金属パイプ製の場合、スパークプラグ穴にパイプ先端のゴム製アダプターを押しつけながら測定を行う場合もある。この製品はプラグのネジサイズに応じたアダプターをシリンダーにねじ込むタイプで、測定中の圧縮漏れが少ないのが特長。


測定時はスロットル全開でセルモーターを回す

4ストロークエンジンの場合、燃焼室内の圧力は吸排気バルブが閉じてピストンが上死点にある時に最高値を示します。
しかしピストンを動かしながら圧力を測定するため、クランクシャフトにソケットレンチを付けて手で回すのと、実際にエンジンが掛かっている時のピストンスピードの違いによって得られる圧力は変化します。


そこで測定条件を一定にした上で客観的に評価できるよう、セルモーター始動のエンジンの場合はコンプレッションゲージをセットした状態で数秒間セルモーターを回して測定し、キック始動のエンジンの場合はキックペダルを素早く数回踏み降ろします。
いずれの場合でも、ピストンが最初に上死点を通過する際に示される圧縮圧力は小さく、繰り返しストロークするうちに指示値が徐々に上昇し、ある程度まで上がるとそれ以上は上昇しなくなります。
コンプレッション測定時に重要なのは、セルモーターを回している間(キックペダルを踏んでいる間)は常にスロットルを全開にして吸入空気を最大にしておくことです。


スロットルを閉じていると燃焼室に入る空気量が絞られてしまうため、表示される圧縮圧力が小さくなります。


サービスマニュアルなどの整備資料に記載された圧縮圧力はスロットル全開時の数値なので、測定条件が異なると正しい判断ができません。
また、2気筒以上のエンジンはすべてのスパークプラグを外して測定を行います。
測定部以外のシリンダーにプラグが残っていると、圧縮圧力が抵抗となりクランクシャフトの回転が充分に上がらないので圧縮圧力が低めに表示されてしまいます。


POINT
  1. 2気筒以上のエンジンはスパークプラグをすべて外す
  2. 圧縮圧力測定時はスロットルを全開にする

コンプレッション測定時はスロットルを全開にしながらセルボタンを数秒間押す。数秒後には最高値を示しそれ以上は上がらないので、20秒も30秒も押し続ける必要はない。クランクシャフトの回転速度を確保するため、バッテリーもフル充電状態にしておく。


圧縮圧力の標準値は機種ごとに異なるもの

圧縮圧力の標準値はエンジンごとに異なります。
例えばカワサキZ400FXは997~1490kPaですが、ゼファーχは775~1180kPaです。


数値を見るとFXの方がコンプレッションが高いですが、これはエンジン仕様によるものなのでどちらかが勝っているというわけではなく、あくまで愛車のデータに基づいた判断が必要です。


もし標準範囲に収まらなければ、その原因と対策を考えます。
圧縮圧力が上限を超える場合、標準状態より燃焼室容積が小さくなっていることが考えられ、具体的にはピストン上部のカーボン堆積が原因となることが多いです。
この場合、堆積したカーボンが柔らかければ燃焼室内を洗浄するクリーナーケミカルが有効かもしれません。
ガチガチに固まっている場合は、シリンダーヘッドを取り外してピストン頂部と燃焼室のカーボン除去を行う、根本的な対策が必要かもしれません。


圧縮圧力が下限以下になると、エンジンにパワー感がない、白煙を吹くなど、より具体的な症状として感じられる事象が増えてきます。
コンプレッションが上がらないということは、ピストンが上昇しても混合気がどこかから逃げてしまうことを意味しています。
具体的な原因としてはピストンリングの摩耗、吸排気バルブフェイス部分のカーボン噛み込み、バルブクリアランスの詰まりすぎなどが考えられます。


これらは走行距離が長いバイクにとっては経年劣化として現れる症状ですが、エアクリーナーを外してファンネル仕様で走行しているカスタム車では、吸い込んだ異物による物理的なダメージで圧縮圧力が低下する場合もあります。
標準値の上限以上、下限以下のいずれもエンジンにとって良い状態ではありませんが、それを可視化できるのがコンプレッションゲージの重要な役割といえます。


POINT
  1. 圧縮圧力の標準値は機種ごとに異なる
  2. 標準値を外れる場合はエンジン各部の不具合をチェック

シリンダーごとのバラツキを知ることも重要

圧縮圧力がエンジンのコンディションを示す重要な手がかりになることは説明した通りですが、2気筒以上のエンジンにとっては、各シリンダーの相対比較にも役立ちます。


4気筒エンジンの1シリンダーだけピストンリングが折損すると、いきなり走行不能に陥ることはありませんが、エンジンオイルがクランクケースから燃焼室に上がってマフラーから排気ガスと共にオイルを吹くようになります。
スパークプラグの汚れからオイル上がりを判断することもできますが、コンプレッションを測定して特定のシリンダーだけ圧縮圧力が低ければ、そこにトラブルの種があると予測できます。


カワサキZ400FXの場合、サービスマニュアルでは各シリンダーのバラツキ限度が100kPaとなっており、圧縮圧力が標準値内に収まっていてもそれ以上の差がある場合は詳しく原因を探る必要があります。
このようにシリンダーの圧縮圧力は、絶対値と相対値でエンジンコンディションを把握するための重要な手がかりであり、その圧力を可視化するコンプレッションゲージはエンジンメンテナンスのための重要な測定機器のひとつなのです。


POINT
  1. マルチシリンダーでは圧縮圧力を相対的に比較する
  2. コンプレッションゲージはエンジンコンディション把握に役立つ

4つのシリンダーのうち特定のプラグだけくすぶっている時、それがガソリン由来のカーボンの場合はキャブセッティングのズレを疑うこともある。コンプレッションゲージで測定して他のシリンダーと圧縮圧力の差が大きければ、シリンダーやシリンダーヘッドの不具合を疑うことが必要だ。


コンプレッションゲージでエンジンの状態が分かる。
メンテナンスのタイミングを知るためにも活用したい。

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