長期保管車両のエンジンを始動する時に絶対に気を付けること
何かのきっかけで何年間も不動状態だったバイクを手に入れたら、修理の段取りを立てるためにもまずはエンジンが掛かるか否かだけでも知りたいもの。しかしバッテリーをつないでいきなりセルボタンを押す前に、やっておきたいことがあります。ほんの少しの気遣いが、油分の切れたエンジンには有効なのです。

何年も前の「普通に走っていた」は信じない

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長期保管車を再始動する際は、油膜が切れたシリンダー内部に潤滑スプレーを吹き込むと良い。もしシリンダーに錆が発生していても、その程度が軽ければ潤滑スプレー+ハンドクランキングでクランクシャフトが回り、エンジンが始動する場合もある。シリンダー内部の状態は、後述する圧縮圧力やリークダウン測定によって、ある程度詳しく把握できる。

車検切れや保険切れをきっかけに、何年も乗っていないバイクのメンテナンスを頼まれた、あるいは「タダいいから持って行ってくれないか」と持ち掛けられた時、バイクいじりが好きなライダーならラッキーと思うことでしょう。露天で車体カバーを掛けてあった、ガレージ内に置いてあったなど、保管状況によってバイクの傷み具合は千差万別ですが、長期不動車復活のカギとなるのはエンジンコンディションです。

ピストンの焼き付きやクランクシャフトの破損などひどいダメージを負って、事前に修理が必要であることが分かっている場合は覚悟が必要ですが、「以前は普通に走っていた」と言われると迷いが生じます。

異音なし、白煙なし、普通に走っていたという情報は多分に主観が入っており、それを鵜呑みにするのは避けた方が無難です。バッテリーを新品に交換してセルボタンを押した途端、期待をはるかに下回る状態にガッカリな結果だったという話はいくらでもあります。 そんなぬか喜びをしないために、まずはクランクシャフトがスムーズに回転するかどうかを確認しておきましょう。

 
POINT
  • ポイント1・長期不動車の復活には注意が必要
  • ポイント2・いきなりセルモーターを回さない

保管状況次第でエンジン内部が錆びることも

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オイルポンプから遠く離れるほど、エンジンを始動してオイルポンプから圧送される油圧が届くまでにタイムラグが発生する。高低差があればなおさらなので、直立したエンジンではカムシャフト周辺にも油分を与えておく。ここではエンジン組み立て時のアッセンブルオイルとしても使えるスーパーゾイルスプレーを使っている。

何年間も動かずにいても、エンジン内部はエンジンオイルの油膜に保護されていると思うかもしれませんが、実際には空気中の湿気によって腐食することは珍しくありません。それこそ普通に走行しているエンジンを分解してみたら、シリンダースリーブの表面が赤く錆びていたということもあります。それはたまたまスリーブ表面の錆が軽度だったため、ピストンリングによって削り落とせたためエンジンが回ってしまったのですが、腐食がひどければピストンが固着している場合もあります。

シリンダー内の錆は水没のような極端な状況だけで発生するわけではありません。水に浸かった経歴がなくても、湿度が高くなる環境に置かれていればクランクケース内に湿気が回ります。4気筒エンジンの場合、どこかのシリンダーの吸排気バルブは開いているので、そこからシリンダー内部に湿気が浸入する可能性があります。

ですからいきなりセルモーターを使うと、錆が発生した部分を無理矢理引きはがすことになり、また油分の切れたエンジン内部のパーツに傷つけることになりかねません。そこで、オイルポンプがエンジンオイルを潤滑する前に、摺動部や回転部に油分を塗布しておくのです。

 
POINT
  • ポイント1・4気筒エンジンはどこかの吸排気バルブが開いている
  • ポイント2・室内保管でもシリンダーに錆が発生する可能性がある

シリンダーとカムシャフト潤滑してクランクシャフトを回す

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セルモーターを回す前に、クランクシャフト端部にラチェットハンドルをセットして手で回すことで、ピストン固着の有無を判断できる。何かを引きずるようなザラついた手応えがある場合、摺動部に錆が発生している懸念がある。

シリンダーが腐食しているかもしれない、回転部分の油分が切れているかもしれないエンジンの状態を確認するには、スパークプラグ穴やカムシャフト、ロッカーアームなどカバー類を外すだけで手が届く稼動部分、オイルが流れ落ちてしまうエンジン上部にエンジンオイルや潤滑スプレーを塗布します。スプレータイプのオイルならば、防錆潤滑剤よりもエンジン組み立てにも使える極圧性の高いスプレーを使います。

オイルを浸透させたらクランクシャフト端部にレンチを掛けてゆっくり回します。ここでクランクシャフトが回らないなら、錆でピストンとシリンダースリーブが固着している、エンジン内部が破損しているなどのダメージが予想できるので、簡単に再始動できると思わずオーバーホールなどを視野に入れるべきでしょう。

一方、クランクシャフトがスムーズに回れば第一段階としてはラッキーです。スパークプラグを付けずにセルモーターでクランクシャフトを回して、手回しより早い回転数でもスムーズに回ることが確認できたら、コンプレッションゲージで各シリンダーの圧縮圧力を測定します。

4気筒エンジンであれば、各シリンダーの圧縮圧力を比較することである程度のコンディションをイメージできます。例えば吸排気バルブにうっすらと錆が付いているだけでもバルブシートとの密着が悪くなり、他のシリンダーより圧縮圧力が低くなることがあります。ここで圧縮圧力に大きなバラツキがなければ、いよいよスパークプラグを取り付けて指導チェックを行います。ただし不動状態が長期間に渡る場合、キャブレターの洗浄やオーバーホールが必要になるかもしれません。

このように、エンジンにダメージを与えないための事前準備があることを知っておくと、長期保管後のバイクを見極める際に有効です。

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ハンドクランキングで違和感がなければ、プラグを抜いた状態でセルモーターを回してオイルを行き渡らせてから圧縮圧力を測定する。各シリンダーの実測値とシリンダーごとのバラツキから、ピストンリングや吸排気バルブの密閉度を判断できる。シリンダー内部の湿気でピストンリングが固着すると、圧縮が保持できず圧縮圧力が低下することがある。

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キャブレターが腐っていなければ、スパークプラグの火花チェックを行ってからシリンダーヘッドにセットして始動確認を行う。キャブが詰まっているかもしれない、プラグから火花が出ないかもしれない、それにも増してシリンダーやカムに錆が出ているかもしれないにも関わらずセルモーターを回すのはまったく無駄である。


POINT
  • ポイント1・プラグ穴やカムシャフトを直接潤滑する
  • ポイント2・クランクシャフトをメガネレンチやラチェットで回す
  • ポイント3・圧縮圧力を測定する
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