旧型2ストロークエンジンの点火時期をピストンの高さで合わせるとは!?
スパークプラグに点火火花を飛ばす点火時期は、エンジンにとってとても重要な要素です。4ストロークエンジンではピストンが上死点に至る手前の位置をクランクシャフトの角度で示すのが一般的ですが、これに対して2ストは上死点前のピストン高さで点火時期を決めています。どうすれば正しいピストン位置を知ることができるのか?適切なタイミングでプラグに点火するにはどのように調整すれば良いのかを紹介します。

接点式のコンタクトブレーカーは旧車の一部に残るのみ

0002.jpg 1960年代の90~125ccクラスは当時の若者たちにとっての人気クラスで、各バイクメーカーがさまざまな機種を投入していた。ヤマハが1968年に発売したHS1は90ccながら2気筒でリターン式5速ミッションを備えた本格的なスポーツモデルだった。

0003.jpg 同時期に登場したスズキウルフ90はHS1と同じ2気筒エンジンでスタイリッシュなデザインが特長だった。それに比べるとHS1はオーソドックスで飽きのこないスタイルが魅力。コンタクトブレーカーはエンジン左側に装着されている。

キャブレターが廃止されフューエルインジェクションが主流になって20年ほどになりますが、それ以上前にバイク界から消滅したのがコンタクトブレーカーです。混合気が爆発燃焼した時に最もパワーの出るタイミングでスパークプラグに電気火花を飛ばすのがコンタクトブレーカーで、ポイントの開閉によって火花を出すための電気を断続しています。

電気技術が一気に発達した40年ほど前、つまり1980年ぐらい以降からは機械的な接点がなくなり、電気的に点火時期を決める無接点式が主流となりました。それに伴い点火時期の調整というメンテナンス項目も消滅し、プロのメカニックですらポイント調整を行う機会はめっきり少なくなっています。

現在、ポイント調整が必要なのは1960年代から70年代の絶版車が中心で、絶版車人気のなかで否応なく調整を行っている絶版車オーナーもいるかもしれません。しかしこのポイント調整、実際に行ってみるとスパークプラグに火花を飛ばすのは圧縮上死点よりいくらか手前であることや、エンジン回転数が高くなると点火時期を早めた方が調子が良いなど、エンジンの構造や燃焼の仕組みが基礎から理解できるようになります。

インジェクション車の燃調マップや点火マップを調整してチューニングを行う際には、車両のコンピューターに外部からアクセスしてインジェクターの噴射時間を増減させたり任意の点火時期を入力します。キーボードを叩いて入力するその作業自体はデジタル的ですが、定められた点火時期でスパークプラグに火花が飛んで燃焼室内で混合気が燃え広がるプロセスはコンタクトブレーカーによる点火でも無接点のデジタル点火でも同様です。

その点では、クランクシャフトの角度に応じてポイント接点が機械的に開く瞬間が目視できるアナログ式のコンタクトブレーカーを知っておくことは、その後現在に続く無接点式の点火を理解する上でも有益です。

POINT
  • ポイント1・コンタクトブレーカーでスパークプラグに点火しているのは1970年代以前の絶版車や旧車など一部の車両のみ
  • ポイント2・フューエルインジェクション車の点火マップチューニングもコンタクトブレーカーの位置調整と理屈は同じ

2ストロークエンジンは上死点から手前のピストン高さで点火時期を決める

0004.jpg 当時の整備書に記載されている点火時期は、クランクシャフトの角度ではなく上死点からの距離が指示されている。上死点前1.8mm前後という点火タイミングは、排気量を問わず多くの機種がこれに近い数値を採用している。

0005b.jpg フレームのダウンチューブにマグネットベースを貼り付け、プラグ穴からダイヤルゲージの測定子を挿入して点火時期を合わせる。ピストンストロークの43mmをすべて測定する必要はなく、上死点手前5mmぐらいから測定できれば良い。

0006.jpg ピストンが上死点に到達した時点でダイヤルゲージの目盛りをゼロに合わせる。4ストロークのようにカムチェーンがないので、正転と逆転のどちらにも回せるのが2ストの特長。何度か測定を繰り返して、基準となるゼロ点を確定する。

0007.jpg ピストンを上死点前に戻していくと、ダイヤルゲージの目盛りは反時計方向に回る。このゲージは1周1mmなので、小さい目盛りで180までピストンを下げると上死点前1.8mmとなる。

4ストロークの点火時期は昔からクランクシャフトの角度で決められています。カワサキZ1の場合、アイドリング時の点火時期は上死点前20度で、2350rpmまで回転が上昇すると上死点前40度となります。20度から40度まで点火時期が進むメカニズムは、以前スパークアドバンサーの記事で紹介した通りです。

これに対して2ストロークエンジンの点火時期は、伝統的にピストンの高さで決められます。具体的には下死点から上死点に上昇するピストンが、上死点の手前何mmかに来た瞬間にポイントの接点が開くように設定するのが通例です。ピストンの位置が分かるのなら、それをクランクシャフトの角度に置き換えることは可能なはずですが、どういうわけかピストンの高さで設定します。

ピストンの位置を知る方法はとてもシンプルで、上死点をゼロとしてピストントップにダイヤルゲージを当てて、クランクシャフトを逆回転させてピストンを上死点前の規定値まで下降させるだけです。4ストの場合はクランクシャフト端部に全円分度器を取り付け、上死点付近を往復させながら分度器の目盛り上で上死点を決めるため、それなりの経験値が必要です。しかしピストントップにダイヤルゲージを直接当てる2スト方式なら間違いようがありません。

2ストがこの方法で点火時期を決められる理由は、4ストのような吸排気バルブがピストン上に存在しないからです。外して見れば明らかですが、2ストのシリンダーヘッドはピストンの蓋と言って良いほど単純な構造で、ダイヤルゲージの測定子が簡単に届きます。ヤマハには、昔から専用工具としてプラグ穴にねじ込んで使用するダイヤルゲージホルダーが設定されており、コンタクトブレーカー時代の点火時期調整は高さ合わせがごく当たり前だっことがうかがえます。

この専用工具があれば点火時期を容易に調整できますが、一般的なダイヤルゲージとマグネットスタンドがあれば同じ作業は可能です。フレームや鉄シリンダーなど磁石が付く場所にスタンドを貼り付け、プラグ穴からダイヤルゲージの測定子を差し込んでピストントップに接触させれば良いのです。ピストンが上死点に達して通り過ぎるとゲージの針の動きが反対になるので、上がりきって下がる手前を上死点としてクランクシャフトを逆転させます。

サンプルで用いる1960年代のヤマハHS1という90ccの2気筒エンジンの場合、点火時期は上死点前1.8±0.15mmと決まっているので、ピストンがその位置まで下がったところでコンタクトブレーカーが開くように調整します。

POINT
  • ポイント1・4ストロークの点火時期はクランクシャフトの角度で決めるのに対して、2ストは上死点からのピストントップまでの距離で決める
  • ポイント2・プラグ穴からダイヤルゲージを挿入して、トップ位置から上死点前に下がる量は機種によって異なるのでマニュアルで確認する

点火時期になった瞬間にポイントが開くようにタイミングを調整する

0008.jpg テスターのリード線をコンタクトブレーカーのスプリングとクランクケースに当てて、抵抗測定モードにしてクランクシャフトを回すと、接点が離れた瞬間に抵抗値が変化する。この変化がピストン上死点前1.8±0.15mmで起こるようにコンタクトブレーカーの取り付け位置を調整する。

0009.jpg クランクシャフト端部のボルト下のワッシャーに小さな刻み線があり、クランクケース側にも刻み線があるのだが、ケース側の合わせ位置は長穴でビス留めされているので、どこにでもずれてしまう。この合わせ位置の扱い方は当時の説明書にも記載されていないので意図や詳細は不明だが、ポイント接点が開くタイミングを合わせて、その時のクランクシャフトの刻み線にケース側を合わせると良いようだ。

コンタクトブレーカーのポイントが開くタイミングは、ブレーカー本体の位置とピストンの位置を微調整しながら徐々に規定値に近づけます。具体的には上死点前1.8mm近辺でクランクシャフトを正転逆転させながら、閉じているポイントが開こうとする瞬間を見逃さないように調整します。

プラスマイナスの範囲が0.15mmというのはシビアですが、何度もクランクシャフトを回すうちにかなりシビアにポイント開閉タイミングを掴めるようになってきます。ただしポイントが常に同条件で開閉できるよう、コンタクトブレーカーの軸やクランクシャフトと接するポイントヒールにガタや摩耗がないことを確認しておくことが重要です。

目視だけで心配な場合はサーキットテスターを活用しても点火時期が分かります。この場合、抵抗測定モードでリード線の片側をコンタクトブレーカーのスプリングに、もう一方をエンジンに当ててクランクシャフトを回すと、ポイントが離れた瞬間に抵抗値が変化します。HS1は2気筒でコンタクトブレーカーも2組あるので、左右のピストンでいずれも上死点前1.8±0.15mmで接点が開くように調整します。

調整後はエンジンを始動して、以前紹介したタイミングライトのストロボ光で点火時期が合っているかどうかを確認します。ただしHS1の場合、クランクシャフト端部の合わせマークに対応するエンジン側の刻み線が長穴のプレート上にあり、このプレート位置が任意に動いてしまうのでタイミングライトが当てにならないというやっかいな面もあります。そこでテスターを使った抵抗値の変化で接点が開くタイミングを上死点前1.8±0.15mmに設定して、その際のクランクシャフトの合わせマークにエンジン側のプレートの刻み線を合わせるといった方法で基準を設けるようにします。


今では少数派となった2スト車の中でも、ポイント点火車はさらに数が少ないレアキャラですが、混合気への点火時期をどのように決めているのかを知っておくことでエンジンや点火系への理解や興味がいっそう深まるはずです。
POINT
  • ポイント1・コンタクトブレーカーが開く瞬間は点火時期前後でクランクシャフトを回して見つけ出す
  • ポイント2・接点が常に同じタイミングで開閉するよう、コンタクトブレーカーの軸やポイントヒールにガタや偏摩耗がないことを確認しておく
 
今回紹介した製品はこちら
 
関連キーワード
20210625_garage_sale_point_336_280.png
車種に関連した記事
エンジン,計測工具に関連した記事