ディスクブレーキだけじゃない!油圧クラッチのレリーズもオーバーホールが必要

軽いレバー操作でクラッチの断続ができることから、ビッグバイクの中には油圧クラッチを装備している機種があります。定期的なワイヤー洗浄と潤滑が必要な機械式に比べてメンテナンスフリーで楽な気がしますが、作動油であるブレーキフルードは2年ごとの交換が必要です。それを先送りにすると、エンジン側のレリーズに不具合が生じる場合もあります。

油圧クラッチは油圧ディスクブレーキと同様の定期メンテナンスが必要


1985年のデビューから22年にわたって製造されたV-MAXは唯一無二のスタイルとキャラクターで多くのライダーから愛された。2008年にフルモデルチェンジ版が登場して以降も、こちらの第一世代の人気が衰えることはなかった。


最終モデルでも10年以上を経過しており中古車のコンディションもまちまちなので、これから購入しようと考えているライダーは車体全体のメンテナンスを前提とした方が良いだろう。油圧クラッチについては、メンテナンス不足でレバーがグリップにつきそうになるまで切れない車両も少なくないようだ。


変速時に使用するクラッチには、ワイヤーで操作する機械式クラッチと油圧の力を利用する油圧クラッチの2種類があります。両者は主にクラッチスプリングの張力に応じて使い分けられ、油圧クラッチは大型車に採用されることが多いです。

エンジンパワーやトルクが大きい大型車のクラッチが滑らないようにするにはクラッチスプリングの張力を強くするのが効果的で、パスカルの定理を利用することで強いスプリングで重くなるクラッチ操作性を軽くできる利点があります。機械式クラッチでもクラッチレリーズアームの支点、力点、作用点のバランスによって強いスプリングを軽い力で縮めることは可能です。ただしその場合、ストロークを大きく取ることが必要で、常識的なレバーストロークの範囲では制限があります。これに対して油圧クラッチは、ディスクブレーキのマスターシリンダーとキャリパーピストンの関係と同様に、マスターとクラッチレリーズのピストン面積比によって限られたレバーストロークで大きな力を発生できます。

そんな油圧クラッチには、長期にわたり機械式に比べて作動性が安定している特長があります。機械式のワイヤーは距離が長いこともあり、アウターとインナーワイヤーの接触部の潤滑不良がクラッチレバーの操作性悪化に直結します。そのため微妙な半クラッチのつながり感にこだわり、ワイヤーの潤滑を頻繁に行うライダーも少なくありません。

それに対して油圧クラッチはワイヤーの伸びや潤滑を気にする必要はなく、常に安定した操作感が得られます。ブレーキシューの摩耗によってブレーキレバーの遊びが増える機械式ドラムブレーキに対して、パッドが摩耗した分ピストンが自動的にせり出して、常に同じフィーリングで制動できる油圧ディスクブレーキと同じような関係です。

だからといって油圧クラッチはメンテナンスフリーというわけではありません。油圧クラッチの作動油はディスクブレーキと同じブレーキフルードで、エンジン周りの高温にさらされても沸騰しづらい反面、吸湿性に富む性質もあります。そのためサービスマニュアル上では2年ごとの定期交換部品に指定されています。しかしディスクブレーキのパッドのように摩耗する部分がないため(クラッチ板も摩耗しますがブレーキパッドより一般的に寿命は長い)、ノーメンテで見過ごされることも多いようです。


今後別項としてマスターシリンダーのオーバーホール記事も掲載するが、V-MAXのクラッチレリーズはクランクケースに直接取り付けられており、フライホイールカバーとミドルドライブカバーの奥に隠れているため存在に気づきづらい。レバータッチに違和感があるのと切れ具合も悪いので、クラッチレリーズにつながるホースを外して隙間から六角レンチを挿入してレリーズ本体を取り外す。

POINT
  • ポイント1・油圧クラッチは重いクラッチを軽い力で操作するために有効なメカニズム
  • ポイント2・油圧クラッチの作動油はブレーキフルードと同様に2年に一度の定期交換が必要

クラッチレリーズの取り付け位置によって熱の影響を受ける場合がある


年式によって仕様が異なるが、比較的初期(1986年式)のこのモデルは長ナットの要に見える部分がクラッチフルードの通路になっている。ブリーダープラグの通路も長く突き出しており、こうした形状からもV型エンジンのかなり奥深い部分に取り付けられていることが分かる。


長ナット側からエアーコンプレッサーなどで空気を送ると、レリーズ前側からピストンが抜ける。若干の滲み痕はあるが明確な漏れは見られない外部からの印象と異なり、レリーズ内部は劣化したフルードが異臭を放ち、ペースト状の異物も付着している。


V-MAXは純正部品のパーツ設定でピストン単品では購入できず、レリーズボディとのセット販売となっている。シールキットは単品設定されているので、ピストンの傷やダメージチェックが重要。シールを取り外してパーツクリーナーで洗浄する。


クラッチレバー操作によってクラッチディスクとフリクションディスクの隙間を作るプッシュロッドを押すのがクラッチレリーズです。進行方向右側にあるクラッチに対して、クランクケース内を貫通するプッシュロッドを押すクラッチレリーズはエンジン左側に取り付けられています。さらに具体的な取り付け場所は、大半の機種がドライブスプロケットカバーかクランクケースダイレクトのどちらかになります。

どちらの場合も車体左側ということもあり、サイドスタンドで屋外保管で車体カバーなしという条件では水分の影響を受けやすくなります。さらにクランクケースに直接マウントされたレリーズの場合、エンジンから受ける熱の影響も考える必要があります。もちろん、定期的にメンテナンスを行っていれば心配は無用ですが、メンテナンスの履歴が分からず中古車として購入したバイクや、長く所有していてもフルード交換をしたことのないバイクの場合、劣化が進んでいる場合があります。

クラッチレバーを握ってもクラッチレリーズが作動しないという症状は末期的で、日常的に乗っているバイクではなかなか起こりづらいものです。しかしレリーズからフルードが滲む、漏れるといったトラブルは不動車ばかりに起こるとは限りません。エンジン下部にできたシミがオイルかと思ったらクラッチフルードだったという例はあります。

レリーズからフルードが漏れると、マスターシリンダーから送り込まれるためリザーバータンクの液量は減少して点検窓の液面は低下します。それを見逃して使い続けてタンクが空になると、ホースにエアが噛んでクラッチが切れなくなります。そんなトラブルに遭遇しないためにも、リザーバータンクの液量チェックは不可欠です。

POINT
  • ポイント1・空気中の水分を吸ったり熱の影響を受けることでクラッチフルードは劣化する
  • ポイント2・クラッチホースやレリーズからフルードが漏れてマスターシリンダーが空になると、エア噛みでクラッチが操作できなくなる

ロングセラーモデルだけにメンテ不良も多いヤマハV-MAX?


パーツクリーナーでレリーズ内部のフルードを洗い流すと、劣化したフルードの痕跡がしっかりと残り、爪が引っかかるほどの段差が付いている。素材がアルミなので腐食による虫食いはないが、これではピストンがスムーズに作動せずクラッチの操作性に影響を与えても不思議はない。


円筒形の内部を研磨するためのシリンダーホーニングツールで汚れを取り除く。このツールはシリンダー内径に応じていくつかのサイズがあり、さらに先端の砥石の粗さも選択できる。


3本の足に加わる張力を軸上のナットで調整してレリーズ内部に挿入したら、潤滑スプレーを吹き付けながら電動ドリルで回して研磨する。同じ位置で回すのではなく、シリンダー内を上下にストロークさせながら汚れを取り除く。内径を拡大してはいけないので、目の細かい砥石を選び、張力も過大にしないことが重要。


まだ僅かに汚れが残っているが、クラッチフルードが変質した硬い析出物は削り落とすことができた。残りは金属磨き用のコンパウンドできれいに落としておいた。


油圧クラッチに関するトラブルで、インターネット上で散見されるのがヤマハV-MAXの例です。ロングセラーで中古車市場でも台数が多く、クラッチレリーズがクランクケースに直接取り付けられているといった条件が重なっているからかもしれません。バイクのメカニズムに興味が薄いライダーにとっては、シャフトドライブのミドルドライブギアカバー(チェーン駆動ならドライブスプロケットカバー)の奥に隠れているため、クラッチ

レリーズの存在そのものに気づいていないのかもしれません。

そうした中でエンジンの熱や湿気、クラッチフルードの劣化によってクラッチレリーズのコンディションが悪化します。具体的には劣化したフルードがゲル状や汚泥化してレリーズ内部に溜まったり、レリーズ外側に染み出したフルードが結晶化してピストンのスムーズな動きを妨げます。

また汚れたフルードがピストンシール面に付着してストロークすることでシール自体を傷つけ、それによりフルードの滲みや漏れが進行する場合もあります。クラッチレリーズはブレーキキャリパーと逆で、ピストン側にシールが装着されています。ダストブーツはピストンとレリーズの隙間をカバーしていますが、その内側で進行したフルード漏れが限界に達するとレリーズの外側に流れ出してフルードがエンジン下のシミの原因となります。

ここで紹介するV-MAXのようにレリーズ内部の汚れが著しい場合、マスターシリンダーやクラッチホース内も相応に汚れていると考えるのが妥当です。まず第一に、操作性に違和感がなくても2年に一度のクラッチフルード交換を行うのがクラッチの好調さを保つ第一歩ですが、もし操作感が悪くなったりフルード漏れが確認された時には、クラッチレリーズのオーバーホールを行う必要があります。


ピストンに取り付けるシールセットは、なじみを良くするためにゴムシール組み付け剤をスプレーしておく。クラッチフルード=ブレーキフルードを塗っても良いが、塗装面に付着させたりレリーズボディの外側に残さないよう取り扱いに注意する。


レリーズボディにピストンを挿入しつつ、先端にセットしたダストブースをレリーズボディにかぶせたら、プッシュロッドとの接触面にグリスを塗布しておく。エンジン側にフルードの滲みが残っている場合はきれいに洗浄しておく。


組み立てたレリーズを狭い隙間から押し込み、2本のボルトで固定する。クラッチホースを復元したらマスターシリンダー側からフルードを注入するが、マスターシリンダーやホース内が劣化したフルードで汚れた状態だと、その汚れが再びレリーズに流れ込んでしまうので、別途洗浄した上で復元することが重要だ。

POINT
  • ポイント1・長期間に渡ってフルード交換を行っていないクラッチにはさまざまなトラブルが発生する可能性がある
  • ポイント2・クラッチレバーの操作性に違和感がある場合は、レリーズに加えてマスターシリンダーのオーバーホールが必要な場合もある
 
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