ジェットやフロートバルブだけじゃない。長期間使ったキャブレターは摩耗や破損にも注意が必要

絶版車の吸気系でまだまだ主役を張っているキャブレター。その不調の多くはジェットの詰まりやフロートバルブの気密不良など燃料系に集中していると思われがちですが、走行距離が長くなると各部の摩耗も進行します。ここでは空気系部品の摩耗例を通じて、キャブの不調原因を考察してみましょう。

スロットルバルブの摩耗がアイドリング不調の原因になる

エアクリーナーから燃焼室まで一直線につながるダウンドラフトキャブは高性能エンジンを象徴する部品である。キャブが前傾した状態で油面が安定するようフロートチャンバーやフロートバルブの設計に工夫が凝らされているが、絶版車ユーザーは長く使用することで思わぬ部分が摩耗、劣化することがあることを知っておくことも重要だ。

ベンチュリーを完全に塞いで空気を遮断するとエンジンは止まってしまうので、バタフライバルブはアイドリング時にほんの僅かだけ開いている。ベンチュリーの上下方向の隙間は必要な隙間だが、スロットルシャフトが貫通する左右方向のガタが問題。全閉状態では左右方向はバタフライとベンチュリーが密着しており、スロットルを開閉するたびに擦れながら作動する。これを繰り返して摩耗が進行し、ベンチュリーの上下に加えて左右方向にも隙間ができると空気量が増えてエンジン回転数が上がってしまう。2気筒以上のキャブで同調を取る際も、左右方向のガタが不確定要素となる。

キャブレターのベンチュリーを通過する空気量の調整方法に注目すると、スロットルバルブ式と負圧式(CV式)に分類できます。スロットルバルブ式はスロットル操作によって筒状または角断面のスロットルバルブを直接開閉し、負圧式はスロットル操作によりベンチュリーを斜めに塞ぐ円盤状のバタフライバルブを開閉し、それによって変化する吸入負圧によってバキュームピストンが上昇してエンジンに空気とガソリンが吸い込まれます。スロットルバルブ式は原付クラスの小排気量や2ストローク車に、1970年代後以降の4ストローク車の多くには負圧式キャブが採用されています。

負圧式はスロットルバルブ式に比べて扱いやすいとされていますが、その理由はバキュームピストンとバタフライバルブが2段階で作動するためです。スロットルを急激に大きく開いても、エンジンが発生する負圧が高まらないうちはバキュームピストンは上昇せず、スロットルバルブ下部のスローポートから吸い出されるガソリンによってエンジン回転が上がることでようやくバキュームピストンが上昇してジェットニードルが露出し、メインノズルからガソリンが吸い出されます。一方のスロットルバルブ式はベンチュリーの開度を決めるピストンをスロットルで直接開閉するため、エンジン回転が低い状態で大きくスロットルを開くとエンジンの負圧が高まっていないためメインノズルから充分なガソリンが吸い出されず混合気が薄くなりエンストしてしまいます。

このような理由から市販車用の主流となった負圧式キャブですが、長期間使用することでスロットルバルブ自体が摩耗することがあります。エンジンは始動している間、常に吸えるだけの空気を吸おうとしているので、キャブに加わる負圧はスロットルが閉じているアイドリング時が最大になります。円盤状のバルブでベンチュリーを塞いでいる負圧式キャブも、ほんの少しの隙間から空気を吸ってエンジン回転を上げようとしています。そしてスロットルバルブはベンチュリー内に接触しながら開閉することで僅かながらも摩耗が進行して全閉時の気密性が低下すると、スロットルが全閉にも関わらず空気が吸い込まれてエンジン回転が上昇しようとします。また走行中にスロットルを戻してもベンチュリー内の空気が完全に遮断されないため、エンジン回転の落ちが悪くなる症状も現れます。

スロットルバルブとスロットルシャフトとベンチュリーは常に空気とガソリンにさらされているのでオイルやグリスによる潤滑ができないため、構造的に摩耗は避けられません。スロットルストップスクリューでアイドリング回転数を調整しきれない、吸入負圧をバキュームゲージで測定してもなかなか安定しなくなってきた時には、スロットルバルブの摩耗をチェックしてみましょう。

POINT
  • ポイント1・旧車や絶版車のキャブレターにはピストンバルブ式と負圧式の2種類がある
  • ポイント2・負圧式キャブのダイヤフラムが摩耗してスロットル全閉状態でもベンチュリーとの間に隙間ができると、エンジン回転が下がらず回転落ちも悪くなる

バキュームピストンのダイヤフラムに亀裂が入ることも

負圧式キャブレターのバキュームピストンをフラットバルブ化することでキャブの前後長が短くなり、スロットルレスポンスの向上につながる。またベンチュリーの大径化にとっても、円筒状のピストンよりメリットがある。バルブの下部にキャブボディとの擦れ痕が集中しているのは、バキュームピストンの開度が小さい領域ではベンチュリー内の圧力変動が大きくピストン自体が前後に揺すられるため。

同じ型式で同じ口径のキャブでも、装着される機種によって細かい部分のセッティングは異なる場合がある。2個のバキュームピストンはダイヤフラムの仕様が異なるため潰れ方が異なる。右の方が柔軟性があるため吸入負圧の変化にレスポンス良く反応すると考えられる。とはいえエアクリーナーボックスによる負圧の影響やリターンスプリングのセッティングでもピストンの動き方は変化する。

負圧式キャブの由縁であるバキュームピストンも経年劣化による要チェックポイントとなります。スロットルバルブが開いてエンジンの負圧が大きくなると、スロットルバルブ下部の穴=サクションポートからスロットルバルブ内の空気が吸い出されます。すると大気圧との差によってピストンが上昇してさらに多くの空気がベンチュリー内を流れます。そしてスロットルバルブが閉じてベンチュリー内を流れる空気が減少すると、ピストン内部のスプリングの張力で閉じられます。

バキュームピストンの気密はダイヤフラムと呼ばれる薄いゴム製の円盤状の膜によって保たれています。過去にはCB450やCB750/900/1100Fといったホンダ車の一部で金属製ピストンを用いた例もありますが、大多数はゴム製ダイヤフラムを採用しています。キャブレターメーカーによって長期間に渡り柔軟性を保つ素材を選定していますが、ゴム素材なので経年劣化で硬化したり、曲がり癖のついた部分に亀裂が入ることもあります。そもそも製造から20年も30年も使われることが設計時の条件に入っているか否かは不明ですが、現在の絶版車人気からすればそれぐらいの年代のバイクが現役であっても不思議ではありません。なにしろ西暦2000年モデルでも丸々20年を経過しているのですから。

ダイヤフラムが破れると、サクションポートからスロットルバルブ内の空気が吸い出されても、亀裂からベンチュリー内の空気を吸ってしまうためバルブ内が負圧にならず、ピストンが上がらなくなります。またダイヤフラムが硬化するとピストン上昇に対する抵抗になり、ピストンの動きが悪くなります。スロットルバルブを開いてもバキュームピストンが上がらなければ、吸入される空気の量は増えないのでエンジン回転は上がりません。厄介なのは4気筒用キャブの1個だけダイヤフラムが破れるような場合で、アイドリング時はピストンが全閉なので安定しているのに、走り出すとパンチ感がなかったり吹け上がりでバラつくことがあります。そのような時はキャブレターのトップカバーを外してピストンを取り出し、ダイヤフラムを広げて亀裂がないかを確認してみましょう。

もしダメージがあれば交換が必要ですが、ダイヤフラムとピストンは一体化されているので同時に交換します。旧車や絶版車で純正部品が販売終了になっている機種の中には、ダイヤフラムだけを単品で販売している社外品メーカーがあるので検索してみるとよいでしょう。またどうしても新品部品が入手できない機種のユーザーの中には、亀裂部分に薄いゴムシートを接着して再使用している人もいるようです。ダイヤフラムの特性が変化することで、必ずしも新品部品と同じ性能を発揮できるとは限りませんが、不動になるよりは良いと考えれば選択肢の一つになるかもしれません。

POINT
  • ポイント1・バキュームピストンのダイヤフラムが硬化したり亀裂が入ると、吸入負圧が掛かってもピストンの動きが悪くエンジン回転が上昇しなくなる
  • ポイント2・不具合のあるダイヤフラムは新品交換が原則

ジェットニードルの摩耗でセッティングが薄くなる!?

左のジェットニードルに比べて右はカラー下部がえぐれるように摩耗している。このためバキュームピストンに挿入した時のガタが過大で、ニードルジェットの内壁に当たってしまう可能性がある。フロートチャンバー内のガソリンはメインジェットで計量され、ニードルホルダー内を吸い上げられてジェットニードルを伝ってベンチュリー内に吸い上げられるが、ニードルがジェットに当たったままでは充分なガソリンが吸い上げられず、空気に対してガソリンが薄い状態になってしまう。

バタフライバルブと並んで、摩耗するなどと思われていないジェットニードルもまた、摩耗によってキャブのコンディションに影響を与える場合があります。バキュームピストン底の穴に挿入されているジェットニードルは、完全に固定されているわけではなく一定のガタがあり、その自由度によってニードルジェットの中心に収まっています。

キャブレター内は常に圧力が変動しており、ニードルジェットもベンチュリー内を通り抜ける空気の影響を大きく受けて、吸入空気量が多くなるとジェットニードルの後ろの壁に押しつけられようとします。機種によってはニードルの上部とニードルホルダーの間に小さなスプリングを組み込んでいる場合がありますが、あのスプリングには傾こうとするニードルをセンターに押し戻す役割があります。

しかしながら、そうした機能も走行距離や時間の経過に勝てないこともあり、バキュームピストンとジェットニードルの接触部分が摩耗して細くなる場合があります。すると吸入負圧よるニードルの傾きが顕著になり、さらに傾いた状態から中心に戻りづらくなります。すると吸入負圧によってバキュームピストンが上昇した際にジェットニードルがニードルジェットの後ろの壁に倒れ込みやすくなり、ニードルジェットから吸い上げられたガソリンがベンチュリーに出づらくなり、キャブセッティングが薄くなることがあります。ジェットニードルがニードルジェットに張りついても、ジェットの開口面積が同じなら同量のガソリンが吸い出されると思われがちですが、ジェットニードルの前面は吸入空気が正圧で掛かるためガソリンが出づらいのです。

具体的な不調を自覚していなくても、ジェットニードルの根元が摩耗して段付き状態になっていたら、ニードルが大きく首を振りやすくなっているかもしれません。そうなるとバキュームピストンの開度が大きくなるにつれてニードルがジェットに当たりっぱなしになって充分なガソリンが吸い出されていない可能性が高まるので、発見したら早めに交換することが必要です。

POINT
  • ポイント1・ジェットニードルはある程度自由に動くことでニードルジェットの中心に位置決めされる
  • ポイント2・バキュームピストンとの接触部分が摩耗して細くなるとニードルの動きが大きくなり、ニードルジェットに張りついてガソリンが出づらくなる
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