
キャブレターの中にフロートバルブがあるとはいえ、重力で落下しようとするガソリンを確実に止めるのは燃料コックの重要な役目です。コックの中に組み込まれたゴム部品が劣化するとさまざまな不具合の原因となるので、トラブルの内容に応じた適切な対応が必要です。
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ガソリンの送り方の違いで負圧式コックと重力式コックに分類される

フューエルインジェクションのキャブレター仕様のバイクの燃料系統に欠かせない燃料コック。エンジンのマニホールド負圧によって通路が開通する負圧式コックが普及する以前の重力式コックではON-OFF-RESの3ポジションが一般的で、負圧式コックではON-RES-PRIの3ポジションが多く見られました。
重力式コックでレバーをONのままバイクを離れると、タンク内のガソリンは常にキャブレターに流れ込もうとするため、フロートチャンバー内のフロートとフロートバルブには常に負荷が掛かり続けています。そのためサイドスタンドで止めて油面が傾き、その上でバルブが完全に閉じきらない状態になるとオーバーフローを起こしてしまうことも珍しくありませんでした。したがって、重力式コックでは降車時には必ず燃料コックをOFFにするのが必須でした。そうした中で、バイクから降りてもコックをOFFにする必要のない負圧式コックの登場は画期的な出来事でした。
どちらのコックもレバーの位置を変えることで内部の通路が切り替わり、タンクからキャブレターへとガソリンを導いていますが、滑らかなレバーの動きとガソリンのシール性を両立させるために重要なのが内部のゴム部品です。ガソリンに漬け込んでも膨潤せず、ガソリンがなくなり乾燥しても収縮しない材料を用いて長期間に渡って安定した性能を発揮する燃料コックを開発することは、メーカーにとって重要な命題です。
燃料コックを開発するメーカーにとって、何十年もの実績に基づいて製造される製品には充分な耐久性と信頼性があるのは事実です。しかしすべてのユーザーが満足できるわけではないのも事実です。新車から時間が経ったコックでレバーの動きが極端に悪くなったり、タンクとコックの取り付け面でガソリンがジワジワと滲みペイントが膨潤してしまったという例は現実としてあります。切り替えレバーを分解したら、内部のゴムシールが膨潤していて復元するのに苦労した、あるいは元に戻せなかったという経験はないでしょうか。逆に、ゴムが痩せてシール性が悪くなって不具合を発生する場合もあります。
どちらの場合も原因はゴム素材の経年劣化であることが多いです。膨潤してレバーが動かないのも痩せて滲んだり漏れるのも問題ですが、危険に直結する点で対策が必要なのは収縮による変化です。
- ポイント1・キャブレター車の燃料コックには負圧式と重力式がある
- ポイント2・内部のシール性を確保するゴム部品の劣化がガソリンの滲みや漏れの原因になる
タンクとコックの接合面のガスケットのコンディションが超大切


絶版車にありがちな燃料コックトラブルのひとつが、燃料タンクへ取り付け面のガスケットからの漏れや滲みです。コックとの境界部分の塗装がブヨブヨになったり、ガソリンが浸透して褐色に変色したり、コックを固定するボルトや差し込まれた燃料ホースの周辺が湿っているような例があります。そうした状況を発見した場合、締め付けトルクが抜けている場合は別ですが、単に取り付けボルトやビスを増し締めしても問題解決にならないどころか、さらに悪化させる引き金になりかねないので注意が必要です。
経年劣化によってガスケットが痩せてシール性が低下している場合、コックとタンクはピッタリ接触しているのでボルトを締めても滲みは止まりません。それどころかオーバートルクによってコック自体が変形して、漏れが増加するリスクすらあります。ガスケット痩せが原因でキャブボディとフロートチャンバーの合わせ面からガソリンが滲んでいるキャブでも、増し締めによってボディが歪んで漏れがひどくなる例があります。
対処方法としてはガスケットを新品に交換するしかありません。耐ガソリン性の液状ガスケットを塗布して漏れを止められることもありますが、新品のガスケットは厚みと柔軟性があるのはもちろん、タンクとコックとの接触面に対してベタ当たりではなく線当たりになることで面圧を稼ぎ、シール性を向上させています。そのため、潰れたガスケットに液状ガスケットを塗布したものとは根本的に異なるのです。ただし、新品のガスケットに補助的に塗布するのは有効です。
ガスケットを交換した燃料コックをタンクに取り付ける際は、座面の汚れを取り除いておくことが重要です。特にガソリンが浸漬して塗装面がところどころ剥離しているような場合は、コックのガスケットが接する部分の塗膜はスクレーパーなどできれいに剥がしてから取り付けるようにします。塗装を剥離することで防錆面では不安が増しますが、段付き状態の塗膜の上にコックを取り付けるより安心です。
- ポイント1・燃料コックとガソリンタンクの間のガスケットが経年劣化した場合は新品に交換する
ダイヤフラムのOリング不良が漏れの原因になることも


コック内部の不良でありがちなのは、レバー裏側の切り替えガスケットの効果によるシール性悪化です。円盤状の薄い板にいくつかの穴が空いたパッキンはその形状からレンコンパッキンなどと呼ばれており、レバーの位置によってON-RES-PRIのガソリン通路を切り替え、レバーはパッキンに押しつけられながら摺動しています。パッキンとレバーの間にガソリンがあればそれ自体が潤滑剤となってスムーズに動きますが、しばらく乗らない期間があってパッキンが乾燥した時に動きが悪くなることがあります。
ここでレバーを強制的に動かすとパッキンに無理がかかり摩耗の原因にもなるので、エンジンを始動して一度ガソリンを通してやるとその後はスムーズに動く場合があります。それでも改善しなければ、タンクからコックを外してレバーを分解して、内部シリコングリスを塗布して復元してみましょう。経年劣化による硬化が疑われる場合、レンコンパッキンを交換するのが無難です。
負圧式コックの場合、もうひとつ重要なのがダイヤフラムに付くOリングの存在です。エンジンが発生する負圧によってダイヤフラムの中心には、切り替えレバーの手前でガソリン通路を開閉するプランジャーが付いており、そのシール部分には小さなOリングが組み込まれています。画像ではカワサキGPZ400F用のコックをサンプルにしていますが、ゼファーなども同様の構造です。このプランジャーの先端のOリングはダイヤフラムの作動に合わせてごく小さいストロークで作動しています。そのため通常では大きなダメージを受けることはないと考えられます。
しかしガソリンタンク内に発生した錆がコック内に流れ込んでOリングに引っかかると問題になることがあります。コックにはタンク内にONとRES用に高さが異なるパイプがあり、パイプの先には異物が入らないようストレーナーが装着されています。だからコックに異物が入ることはないのでは?と思うかもしれませんが、コックを通り抜けた錆の粉がフロートチャンバーに堆積するのは珍しいことではありません。そうした現実から考えれば、コック内に異物が留まることもあり得ます。特に長期放置でタンク内の錆がある程度進行している場合、燃料コックや燃料ホース内にも赤さびが付着することがあり、コックの表側であるレバーとレンコンパッキンを洗浄しても、ダイヤフラム側を見逃してしまうことが往々にしてあります。
この時にプランジャーのOリングに錆のかけらなどが挟まって通路を閉じきれない状態になっていると、プランジャーが開いていなくてもガソリンの通路が開通した状態になってしまう可能性があります。すると極論すれば重力式コックと同じで、コックを素通りしたガソリンを止められるのはフロートチャンバー内のフロートバルブだけという状況にもなりかねません。
GPZやゼファーの場合、ダイヤフラム自体は燃料コックアッセンブリーに含まれており単独での部品設定はありません。しかしプランジャー先端のOリングは単品で部品設定されているので、エンジンを始動していないのにONやRESのレバー位置でコックからガソリンが流れるようなら、この部分のOリングを点検してみると良いかもしれません。




- ポイント1・レバー裏側のレンコンパッキンが硬化すると、明確な摩耗がなくてもシール性が低下して漏れの原因になる
- ポイント2・ダイヤフラムのプランジャー先端のOリングは見落としがちだからこそ要チェック