キャブレター不調の意外な理由。スロー系の濃さはスタータープランジャーが原因かも!?

キャブレター仕様のバイクで冷間時のエンジン始動時に利用する機構には「チョーク」と「バイスターター」の2つの種類があります。どちらも混合気が燃えやすいよう混合比を濃くすることが目的ですが、作用は正反対です。エンジンが暖まっても混合気が濃いままでかぶり気味の時、バイスターターを装着するバイクならスタータープランジャーの状態を確認してみましょう。

空気を遮断するかガソリンを大量に送るかの違い

カワサキKZ1000J用のミクニ製キャブレター。中高速には問題はないが、アイドリングから低回転域でのボコつきが若干気になる。絶版車の純正キャブをTMRやFCRなど最新のレーシングキャブに交換するとアイドリングからビシッと安定することがよくあるが、これは各部の経年劣化が原因であることが多い。できるだけ多くの空気を吸いたいエンジンに対して、空気とガソリンを遮断するのがキャブレターの役目で、吸入負圧による摩耗はスロットル開度が小さく負圧が大きい領域でより顕著になる。

気温が低い冬季のエンジン始動時、キャブレター車オーナーなら必ず使用するのが始動専用のチョーク機構です。ハンドル左スイッチ部分のレバーか、キャブ本体のノブを引くことで何故か分からないけどエンジンが掛かりやすくなる、と理解しているライダーもいるのではないでしょうか?またフューエルインジェクションモデルのオーナーなら、季節を問わずチョークなんて使わないよ、という方もいることでしょう。

スロージェットやメインジェットなどのパーツは、エンジンが暖まった状態を前提にセッティングされています。しかし気温が低い冬場はガソリンが霧化しづらいため、暖機後のセッティングでは始動が困難になります。そこで通常時よりもグッと濃い混合気を作ることができる、始動専用のチョーク機構を組み込んでいるのです。

ちなみに、フューエルインジェクション車には手動操作のチョーク機構はありませんが、燃料噴射を指示するECUに組み込まれた外気温センサーが周囲の温度に適した補正を自動的に加えています。冷間時補正などと呼ばれる補正により、通常運転時よりも多くのガソリンを噴射することで冷え切ったエンジンの始動性を改善しているのです。

キャブレターのチョーク機構とひと口で言っても、混合気を濃くする手段には2つの方法があります。ひとつが「チョーク」で、もうひとつは「バイスターター」です。チョークという単語には絞める、息を詰まらせるなどの意味があるとおり、キャブレターの通路に蓋を付けて物理的に閉じることで機能させます。エンジンを始動する際にキャブレターを通じて吸おうとする空気を強制的に遮断すると、空気が吸えない代わりにフロートチャンバーからガソリンを引っ張り出そうとします。これにより混合気が濃くなり、冷間時の始動性がアップするわけです。

これに対して走行時に空気と混合気が通るベンチュリーとは別に、始動時専用の通路で濃い混合気を作るのがバイスターターです。バイスターター式はレバーやノブを操作するとバイスタータープランジャー(プランジャー)が通路を開きます。この通路にはガソリンが流れており、スロットルバタフライよりもエンジン側に出口があります。このため、スロットルを閉じてバイスターターを操作してプランジャーが開いた状態で始動すると、バイスターター経路に大きな負圧が掛かってガソリンが吸い出され、燃えやすい濃い混合気が作られるのです。

空気を絞るチョークと、多くのガソリンを送るバイスターターは、濃い混合気を作る目的は同じながら、具体的な手段は正反対です。これはキャブレターのスロー調整の要となるパイロットスクリューとエアースクリューと同じ関係性にあります。パイロットスクリューは混合気の量を調整するため、開くと混合気が増えて濃くなり、閉じると薄くなります。エアースクリューは混合気を作るための空気の量を調整するため、開くと空気が増えて混合気が薄くなり、閉じると濃くなります。

POINT
  • ポイント1・冷間時のエンジン始動性を向上させる機構には「チョーク」と「バイスターター」の2種類がある
  • ポイント2・ベンチュリーの空気を絞るチョークと専用通路から濃いガソリンを送り出すバイスターターは、目的は同じだが手法が正反対になる

プランジャーのチョイ開きがガソリン漏れの原因

バイスターターの主要部品であるプランジャーは、ベンチュリーに直交するように組み込まれている。このキャブの場合、丸いシャフトでベンチュリーを開閉する。これはチョークノブが押し込まれた状態で、プランジャーはスターター経路を塞いでいる。

クラッチ端部のチョークノブを引くとプランジャーが引き出される。この時キャブレター内部ではスターター経路が開いて、燃焼室に向かって濃い混合気が吸い出される。チョークはベンチュリーを閉じるため空気が遮断されるとエンジンは回らないが、バイスターターはベンチュリーとは別系統なので、スターター経路からガソリンが供給されても走行できなくはないので、徐々に濃くなる状態を把握しづらいこともある。

シャフトが貫通するレバーがプランジャーの先端に引っかって開閉する。レバーとシャフトの間のスプリングによってプランジャーには閉じ方向の力が加わっているが、プランジャーのフリクションによっては押し切れないこともある。プランジャーのシャフト自体にスプリングが組み込まれている、ケーヒン製CVKキャブレターのような例もある。

バイスターターのプランジャーは金属製の円筒の先端に棒が付いており、円筒の端部にはゴム板がセットされています。僅かにストロークするプランジャーが閉じている時は、棒とゴム板がバイスターター通路を閉じてガソリンを遮断します。

ところが何らかの原因でバイスターターが効きっぱなしになっているとスロー系の混合気が濃くなり、スロットル低回度、エンジン低回転でボコついたりプラグがかぶる原因になります。ベンチュリーを強制的に閉じてしまうチョークなら、スロットルを開けても空気が入らないのでエンジン回転が上がりませんが、バイスターターの場合はベンチュリーに空気が通る分、スローはボコついても上は回ってしまうため、プランジャーが完全に閉まりきらない状態でも走行できる分、逆に厄介な面があります。

プランジャーには閉じ方向に働く小さなスプリングが組み込まれていますが、プランジャーとキャブレターボディの隙間に異物が噛み込んで動きが悪くなると、スプリングの張力だけでは戻しきれなくなる場合があります。負圧キャブレターの場合、バイスターター用の空気をキャブ上部の負圧室から空気を取り込んでいることがあります。スロットルを閉じてバイスターターを開けた状態では、この経路に強い負圧が掛かるため、カスタムで純正のエアクリーナーボックスを取り外しているとここからゴミやホコリを吸ってしまう可能性があるのです。

キャブレター内が汚れた状態でプランジャーを開閉させれば、ゴミやホコリによって傷ついたプランジャーの動きが悪くなっても不思議はありません。キャブレター内部の部品はすべて精密なクリアランスで組み立てられており、プランジャーもまた絶妙な抵抗感で作動します。それだけに僅かな異物が命取りとなります。円筒部分先端のゴムのコンディションも重要です。プランジャーが閉じた時にゴムが通路を塞いでいる間はガソリンの漏れもありませんが、経年劣化によって柔軟性が低下すると徐々にガソリンが吸い出されてしまうことがあります。

バイスターターは始動時しか働かないから、走行中は関係ないと思う人も少なくないかもしれません。しかし信号待ちで止まってスロットル開度がゼロになって吸入負圧が最大になった途端に、空気が吸えそうな可能性があるところから少しでも多くの空気を吸おうとするのがキャブレターです。フリクションによってプランジャーが閉じきれない、ゴムが劣化して完全にシールできないとなれば、バイスターター系統から始動用の濃い混合気を吸ってかぶることは充分にあり得るのです。

POINT
  • ポイント1・バイスターターのプランジャーはガソリンを遮断しているのがデフォルト
  • ポイント2・密閉不良でガソリンが吸い出されてしまうと吸入負圧が大きいアイドリングでのかぶりの原因になる

4連キャブはプランジャーレバーの位置関係にも注意

キャブのトップカバーと負圧ピストンを外すと、負圧室の底にスロットルバルブよりシリンダーヘッド側にプランジャーの一部が見える。チョークを引くとプランジャーが画像右側にスライドしてスターター系統が開き、負圧室の空気が吸い込まれてガソリンと混合して、濃い混合気となって吸い込まれる。

チョーク操作時に引っかかりを感じていたプランジャーを取り外すと、円周方向にもストローク方向にも細かな傷が入ってツヤ消し状態になっていた。外部から異物が混入したというより、スターター経路内に原因があるような傷だ。キャブボディをサンドブラストでクリーニングした場合、この部分にメディアが残る場合があるので注意が必要だ。

パーツクリーナーでボディ側を洗浄した後に、プランジャーにメタルポリッシュを塗布して摺り合わせを行う。プランジャーの位置によってスターター経路が閉じたり閉じなかったりすると、キャブの調子が良くなったり悪くなったりする原因となる可能性がある。先端のゴムは柔軟性があったので、傷だらけのプランジャーのフリクションが低開度での不調の原因のようだ。

強く研磨しすぎると摩耗につながるので、軸方向に優しく回転させながら当たりを取っていく。ドライな状態ではフリクションが大きめだったが、何度かコンパウンドを付け直してしばらく摺り合わせることでスムーズに回転するようになり、ストローク方向の動きも滑らかになった。

負圧室側からパーツクリーナーをスプレーしながら、プランジャーが収まる内面を綿棒でクリーニングする。ここにざらつき感が残っていたら、それが研磨材となってプランジャーを再び傷つけるおそれがある。

バイスターターはキャブレターごとに装着されています。ここで気をつけなくてはならないのが4気筒用の4連キャブです。各々のキャブのプランジャーはリンクやシャフトで作動していますが、リンクやシャフトの動きとプランジャーの動きが連動していない可能性があります。

リンクの動作はレバーを介してプランジャーに伝わりますが、レバーとプランジャーには一定の自由度があり、構造的にリンク上で全閉になっていてもプランジャーが閉まりきっていない状態があり得るのです。

プランジャーの動きの悪さの原因としてゴミやホコリを挙げましたが、乗らない期間が長かったバイクでは変質したガソリンによる影響もあります。液体のガソリンが揮発すると粘性の高いワニスとなって付着します。汚れたキャブレターの洗浄時に、フロートチャンバーやジェット類に付着したワニスの除去には一所懸命になります。バイスターター系統はチャンバー内部のようにガソリン漬けになっている部分ではありませんが、通路内に変質したガソリンが残っている可能性はあります。実際、長期放置車のチョークレバーを操作しようとして、プランジャーが固着してまったく動かなかったということは珍しくありません。

ジェットやニードルや負圧ピストンを外すのは4連状態でも可能ですが、プランジャーを外すには繋がったキャブをすべて分解しなくてはならないのが面倒なポイントです(キャブの種類によっては4連状態でもプランジャーが取り外せるものもあります)。4つのキャブをバラせば、キャブ同士をつなぐ燃料パイプのOリングの交換が必要で、スロットルバルブの同調も取り直さなくてはなりません。しかし変質したガソリンで動きの悪いプランジャーのままでは、スロー系の混合気が安定しない可能性は消えません。

アイドリング状態で排気ガスがガソリン臭かったり、パイロットスクリューやスロージェットは指定通りで合っているのにスロー系が若干かぶり気味だったり、4気筒のうち特定のプラグだけがかぶり気味になる時はバイスターター機能、とりわけプランジャーのコンディションを確認してみると良いでしょう。

POINT
  • ポイント1・4連キャブのバイスターターレバー(チョークレバー)が動いても、各々のキャブのプランジャーが正しく作動しているとは限らない
  • ポイント2・4連キャブのプランジャーを取り外すには連結をすべて分解しなくてはならない場合が多い
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