絶版車のケーブルが渋いのは「単より」のせい!?「複より」ステンレスインナーに交換すると改善するかも
スロットルやクラッチ操作に欠かせないコントロールケーブルは、フリクションが僅かに増えるだけで気になるものです。動きが渋くなる第一の原因は潤滑不足ですが、旧車や絶版車の場合はインナーケーブル素材の特性からメンテナンスだけでは限界がある場合もあります。ここではスロットルケーブルのインナーを昔ながらの鋼線からステンレス製に交換した実例を通して、インナーケーブルの重要性に注目してみましょう。

ケーブルの取り回しだけでスロットルの戻りがよくなることも

01-3.jpg 1960年代に製造されたヤマハ90cc(HS1)のスロットルケーブルは途中のジャンクションで3分割され、2本がキャブレター、1本がオイルポンプにつながる。2ストツインモデルでは一般的な構造だが、半世紀も昔のものなのでフリクションロスは小さくない。

スーパースポーツモデルを中心に採用され、中型モデルにも広がりを見せつつある「スロットル・バイ・ワイヤ」は、スロットルグリップとキャブレターをつなぐスロットルケーブルを電気信号に置き換える技術です。

昔からバイクに乗ってきたライダーの中には、微妙な手の動きをサーボモーターで再現できるのかを疑問視する意見もありましたが、吸気系がキャブからインジェクションに変わり、ABSやトラクションコントロールシステムが普及するにつれて、スロットル操作を電気信号として入力するメリットの方が重視されるようになりました。

バタフライバルブをケーブルで開閉していたキャブレター時代にも、スロットルバルブ開度と回転数からエンジンの負荷を想定して、点火時期を変更できるスロットルポジションセンサーを装備する機種がありました。その時代はアナログ操作のケーブルと電気制御のスロットルポジションセンサーが混在していましたが、吸気系が電子制御のインジェクションに変化したことで、スロットル開度の制御やコントロールも電気的に行うようになったのは進化の過程として自然な流れといえるでしょう。

スロットル・バイ・ワイヤが普及することで、スロットルの操作感が常に一定になるというメリットもあります。逆に言えば、ケーブル時代のスロットルはメンテナンスやケーブルの通し方によって操作感が変化しました。スロットルグリップを全開にして手を離したら、全閉までスパッ!と閉じるのが理想です。ピストンバルブ式でも負圧式でもキャブレターにはリターンスプリングがあるので、ケーブルのフリクションロスが多少増えてもスロットルから手を離せば全閉になるはずです。

しかしケーブル内の油分が減ってフリクションが増えたり、スロットルハウジングからキャブレターのスロットルドラムまでの通し方が良くないと開けたスロットルの戻りが鈍かったり、場合によっては途中で引っかかって全閉まで戻らなくなることもあります。

スロットルが開かないならバイクが走らないだけで済みますが(それも問題ですが)、開いたスロットルが閉じない方がはるかに大問題でとても危険です。そのため、スロットルケーブルのフリクションには気を配り洗浄と注油を行い、ガソリンタンクやエアクリーナーボックスなどケーブルの通り道にある部品を着脱した際には、スロットルがスムーズに閉じることを確認することが重要です。

キャブレターのリターンスプリングと比べて、クラッチはスプリングのバネレートが高いため、よほどのことがない限りはケーブルのフリクションによってクラッチがつながらないようなことはないはずです。しかしスロットルケーブルと同様に、ハンドル周りの通し方次第でスムーズさを欠いてしまうことがあるので、全体的に滑らかなカーブを描くように、小さなアールができないように通すように心がけましょう。

POINT
  • ポイント1・ケーブルの通し方次第でケーブル作動時のフリクションが増減することがある
  • ポイント2・クラッチケーブルのフリクションロス増加は、半クラッチの使いづらさにもつながる

インナーケーブルの素材や製法の進化で操作性が向上する

02-3.jpg アドバンテージ製ローフリクションクラッチケーブル(上)と純正の比較。機種はカワサキZ1でそもそも太いが、硬い純正に対してアドバンテージ製はしなやかに曲がる。

03-3.jpg ケーブル中間のアジャスター部分でふたつのケーブルを比較すると、複よりステンレスワイヤーのアドバンテージ製ケーブルは柔軟性に富むことが分かる。この柔らかさによってクラッチレバー操作時の応答性が良く、軽い力で操作できるのが特長だ。

特に絶版車用のケーブルにとって問題となるのが、インナーケーブルの素材です。1960年代から70年代のバイクのインナーケーブルは、スチール製の鋼線を用いるのが一般的でした。一方現在はステンレス製インナーが普及しています。

当時は鋼線インナーが当たり前でしたが、スチール製ゆえ雨水が浸入すると錆びるという弱点があります。それを防ぐには油分を切らさないよう定期的な洗浄と潤滑が肝心です。サビが発生したケーブルは明らかにざらついた感触で、アウターとインナーの隙間に防錆潤滑剤を流し込んでエアーブローすると、サビで茶色に変色した潤滑剤が延々と出続けることも珍しくありません。

素材の進化と合わせてフリクション低減に大きく関与しているのが、ケーブル用ワイヤーの製法です。鋼線時代のワイヤーは、細い鋼線を単純にねじって撚り合わせた「単より」が標準仕様でした。それに対して現在はとても細いワイヤーをあらかじめ1本に撚り、そのワイヤーをさらに撚り合わせた「複より」が多くなっています。インナーケーブルの直径が同じでも、複よりワイヤーの方が単よりワイヤーより1本当たりの線径は遙かに細くなっています。その結果、複よりは単よりに比べて柔軟性が高いという特長があります。柔軟性が高いことで取り回し時のアールが多少きつくなってもフリクションが増加せず、スムーズな操作感が得られます。

絶版車用のケーブルは新品に交換しても素材や製法は昔のまま、という例は少なくありません。しかし、足周り部品のプロフェッショナルブランドであるアドバンテージでは、機種が限られるものの、複よりのステンレス製ワイヤーを採用したスロットルケーブルやクラッチケーブルを製品化しています。

このケーブルは当時ものの鋼線ケーブルとは比較にならないほどフリクションが小さく、交換するだけで軽く操作できるようになる優れものです。愛車のケーブル交換時に現在よりグレードの高い製品が選択肢にあれば、装着をおすすめします。

POINT
  • ポイント1・ステンレス素材の複よりワイヤーを使うことでケーブルの操作感が軽減される
  • ポイント2・ケーブルの取り回しが急な機種ほど、フリクションの少ないステンレスインナーケーブルが有効

絶版車や旧車はインナーワイヤーのみ交換する手もある

04-3.jpg 単よりの純正ワイヤーを複よりのステンレスワイヤーに変更したことで、曲がり癖がついた古いアウターケーブルに挿入してもスムーズに動くようになった。アウターケーブルの被覆が切れたり折れたり潰れている時は、旧車のスロットルケーブルなら自転車の補修用ケーブルが使える場合がある。クラッチケーブルやブレーキケーブルは太いので自転車用に互換性はない。

05-3.jpg ワイヤーを切断する時は専用のワイヤーカッターを使用すると良い。ニッパやペンチとは刃のデザインが異なり、裁断するように切るので細いワイヤーもバラけづらい。

とはいえ、すべての絶版車向けに高品質ケーブルがあるわけではありません。そればかりか、特定の人気機種以外では純正部品すら入手できないことも珍しくありません。その場合どうすれば良いのか?その対応策のひとつがインナーケーブルの交換です。

バイクのケーブルを部品で購入すると、アウターとインナーがセットというのが当たり前ですが、自転車用の補修部品ではインナーケーブルだけを交換することもあります。その考えを応用して、バイク用の古い鋼線インナーを新しいステンレスインナーに交換してしまうのです。

ただしこの作業には注意すべき点があります。

インナーケーブルを交換する際はワイヤー両端にタイコを付けますが、このタイコの固定がケーブル製作のキモとなります。ワイヤーとタイコはハンダで固定するのが一般的ですが、スロットルやクラッチ操作時にタイコが抜けるととても危険です。

特にドラムブレーキのケーブルでタイコが抜けると大きな事故につながるおそれがあるので、ブレーキケーブルのインナー交換は行わない方が良いでしょう。どうしても部品がなくて仕方ないという場合も、確実にハンダ付けできる準備を整える必要があります。間違っても電気工作用の熱量の小さなハンダゴテで固定しようとは考えないで下さい。

今回ステンレスワイヤーでインナーケーブルを製作するのは、1960年代のヤマハ90ccモデルのスロットルケーブルです。90ccで2気筒でオイルポンプ作動用のケーブルもあるため、スロットル部では1本のケーブルが途中で3本に分岐する複雑な構造です。複雑ですが半世紀以上も昔の機種なので、新品の純正部品が存在するはずはありません。インナーケーブルの材質は鋼線で、1本を3本に分けるジョイントを含めてサビこそ発生していませんがフリクションの塊のような状態です。

交換するステンレスワイヤーは、元の鋼線に近い線径を選びます。太ければアウターケーブルに通りませんが、細すぎてもアウターケーブル内でたわんだり遊びが大きくなるので、なるべく元の線径に近いワイヤーを用意します。

タイコの形状を元のケーブルと合わせることも重要です。このケーブルはハンダで加熱することでタイコが抜ける古いタイプだったので、純正のタイコを再使用できましたが、新規に製作する場合は長さと直径を純正と同じようにしておきます。素材はアルミ棒や真鍮棒から切り出したり、部品メーカーが販売している補修用のタイコを使うと良いでしょう。

ちなみに、応急用と謳っていますがワイヤーとタイコをセットにした商品もあります。今回紹介したような大昔のバイクには適合しませんが、汎用性の高いパーツなのでこういう部品があるということを知っておくと、補修時の参考になり役に立つかもしれません。

06-3.jpg タイコ部分をハンダゴテで加熱しても、熱がどんどん逃げてハンダがうまく乗らない。そこで重宝するのがハンダポット。ヒーターで熱した金属製の壺の中でハンダを溶かして、そこにタイコを通したケーブルを沈めてハンダ漬けを行う。ポットに漬ける前にタイコとワイヤーの先端にフラックスを塗布することで、ハンダとの密着性が向上する。

07-2.jpg オイルポンプケーブルは非常に長いガイドを通じてポンプに接続されている。金属製ガイドの内側が錆びると鋼線も錆びてしまう。古いワイヤーを引き抜いてステンレスワイヤーに交換するだけで、スロットルの戻りが滑らかになる。

POINT
  • ポイント1・強度が必要で安全に直結するドラムブレーキケーブルを自作するには、作業者の経験値と作業にふさわしい道具が必要
  • ポイント2・鋼線をステンレスワイヤーに交換する際はタイコが抜けないようハンダでしっかり固定する
 
今回紹介した製品はこちら
 
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