オーバーフローが止まらない時にチェックしたい、フロートと油面の話
ガソリンタンクからキャブレターに流れたガソリンは、一時的にフロートチャンバーに溜まってエンジンが必要とする分ずつ消費されます。そしてフロートチャンバーに一定のガソリンを溜めておくために重要な働きをしているのがフロートバルブです。キャブレターの中からガソリンがあふれ出すオーバーフローが発生したら、まずはフロートバルブをチェックしてみましょう。

キャブにとって最も重要な「油面」

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フロートチャンバー内部にオーバーフローパイプが組み込まれているキャブでは、オーバーフローしたガソリンはフロートチャンバー下部のドレンパイプから排出されるのでひと目で分かる。だがオーバーフローパイプがないキャブの場合(画像はケーヒン製CVK32)、油面が高すぎるとベンチュリー内のエアジェット側に溢れてエアクリーナーケースに溜まることがある。外観上分かりづらいので注意が必要。

「フロート」と「フロートバルブ」と「バルブシート」は、フロートチャンバー内の油面を決めるキャブレターの最重要パーツです。

フロートチャンバー内でフロートが下がると連動してフロートバルブが開き、ガソリンタンクからガソリンが流れ込みます。そのガソリンでフロートが浮くと、フロートバルブがバルブシートに密着してガソリンタンクからの流入が止まる。

このようにフロート周りのパーツの原理はとても簡単で、水洗トイレの洗浄用タンクも似たような仕組みで作動しています。

トイレの場合はレバーを操作するとフロートバルブが開いてタンク内の水が便器に流れ出します。そしてタンク内の水量が低下するとフロートが下がり、給水側のバルブが開いて水道水がタンクに溜まるという仕組みです。水洗トイレはフロートバルブとフロートが別々の場所にありますが、キャブは両者が一体となって機能しているのが相違点です。

さて、フロートバルブにはガソリンを断続すると同時に、フロートと連携してチャンバー内の油面を決める役割もあります。キャブにとっては、油面を決める働きはきわめて重要です。

キャブには機種ごとに定められた油面があります。油面の見方はキャブ本体の下面からフロート下部までの距離(フロート高さ)と、完成状態のキャブにガソリンを注入してフロートチャンバー内の実際の油面を測定する実油面の二種類がありますが、いずれの方法でもサービスマニュアル等の資料で示された数値に合わせることが重要です。

なぜ油面が重要かと言えば「油面が混合比の濃い薄いを左右する」からです。混合比を決めるのはジェットの口径やジェットニードルの太さやテーパーなのでは? という人もいるでしょう。しかしそれらのパーツが正しく機能するためには、油面が正しくなければならないのです。

 
POINT
  • ポイント1・オーバーフローしたらフロートバルブをチェック
  • ポイント2・キャブレターにとって油面はきわめて重要

油面が高ければ濃く、低ければ薄くなる

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油面を決めるために重要なフロート高さ調整。メインジェットの位置でボディ下面からフロート下部までの高さをフロートゲージまたはノギスで測定し、規定値以外の場合は調整する。ヤマハトリッカーのキャブの場合は、フロートバルブ後部のプランジャーとフロートアーム(フロートのベロ)が僅かに接触した時に10.5mmが規定値となる。

フロートの高さで油面を決めると、空気が通過するベンチュリーの下部からフロートチャンバーに溜まったガソリンの上面までの距離が決まります。チャンバー内のガソリンはベンチュリー内を通過する吸気の圧力によって、ジェットを通じてベンチュリー内に吸い上げられます。

キャブに働くのは空気の力だけですが、油面の高さによって吸い出されるガソリンの量は変化します。ここで井戸を例に考えてみると、浅い井戸から水を汲み上げるのと、深い井戸から汲み上げるのではどちらが楽でしょう? 手桶でもポンプでもどちらで良いのですが、深い井戸より浅い井戸の方が楽に水が汲めると想像できるはずです。

キャブの内部では油面の高さは井戸の深さと同じように影響し、油面が一定の状態からスロットルを開けると、油面が高い方が多くのガソリンが吸い出されるため、開け始めが濃い症状が出ます。逆に油面が低いと、スロットルを開けて空気が流れてもガソリンが吸い出されるまでに時間が掛かるため、薄い症状が出ます。

走行中はガソリンを消費するためフロートバルブは開閉を繰り返していますが、バルブが閉じた時の油面が高ければ濃く、低ければ薄いという基本的な性質は変わりません。フロートゲージという工具を使って測定するフロート高さが1㎜単位、機種によっては0.5mm単位で指定されているのは、油面が決まらなければジェットやニードルのセッティングが決まらないからなのです。

油面で混合比の濃さが変わるということは、単気筒エンジンのシングルキャブよりも4気筒エンジンの4連キャブにとって大きな影響があります。4連キャブの油面が揃っていなければ、ジェットを変えても結果が正確に反映されない可能性があり、セッティングは迷宮に突入します。それゆえ、キャブメンテやセッティングの際は何よりも先に油面を正しく調整することが重要となります。

 
POINT
  • ポイント1・油面の高さが混合比や空燃比を左右する
  • ポイント2・4気筒用キャブはそれぞれの油面のバラツキに注意

フロートバルブとバルブシートの当たり面に注目

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フロートバルブやバルブシートの点検を行う際は、フロートを外すためにフロートピンを抜く。フロートピンは左右どちらにも抜けるタイプ、一方が軽圧入のタイプなどがあるのでピンポンチで軽く押して抜けそうな方向を確かめる。最初からハンマーで叩くとフロートを支える足が折れて取り返しがつかないことになるので慎重に。

キャブレターがオーバーフローを起こす場合、前提条件として油面が正しければ(油面が高すぎるてオーバーフローする場合もあります)フロートバルブの状態をチェックします。ガソリンタンク内部にサビが発生しているバイクなら、フロートバルブとバルブシートの当たり面にガソリンタンクから流れてきたサビの粉などの異物が引っかかっていないかを確認しましょう。

ゴミが引っかかっていなければ、フロートバルブ先端のロケット状のニードルに当たりのきつい場所がないか確認します。ニードルにはゴム製と金属製がありますが、どちらの素材でも経年変化によって外周に筋状の擦れ痕が付いていれば密閉不良の原因となります。

さらにキャブボディ側のバルブシートの状態もチェックします。ニードルに線状痕が付いている場合、バルブシートの当たり幅も広くなっている可能性があります。当たり幅が広がるとバルブを密着させるために大きな力が必要となるため、フロートの高さが適正でフロートバルブが閉じていても少しずつバルブシートを通り抜けてオーバーフローの原因となる可能性があります。

フロートバルブは交換できますが、バルブシートはキャブボディに圧入されて取り外せない機種も多いので、その場合はコンパウンドを付けた綿棒で当たり面を清掃して対応します。画像で紹介しているヤマハトリッカーはバルブシートが外れるタイプなので、当たり面にダメージがある場合フロートバルブとともに交換できます。

フロートバルブやバルブシートを交換したら油面の再調整が必要です。フロートアームの微調整には手間が掛かる場合もありますが、先に述べたとおりキャブセッティングにおいて油面はすべての基礎になる重要なポイントなので、オーバーフロー対策時には必ず油面確認もセットで行いましょう。

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フロートバルブを外したら先端のニードル部分に傷や線状痕が付いていないかを確認する。バルブの筒部分の四方のガイドはバルブシートの内壁と接しながらバルブの直進性を確保する重要部分。社外品のフロートバルブを使用する際に、この部分が細くてバルブシート内で遊んでしまうと、バルブが斜めにシートに当たってしっかり閉じないことがあるので注意したい。

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ヤマハトリッカーのキャブはバルブシートを着脱できる。上流のガソリンタンク側にはサビの粉やゴミの流入を防止するフィルターがセットされている。バルブシートをキャブボディの間のOリングが劣化すると、バルブシートの外側からフロートチャンバーにガソリンが流れ込んで油面が変化する要因となるため、復元時は新品に交換する。


POINT
  • ポイント1・フロートバルブ先端の線状痕に要注意
  • ポイント2・機種によってはバルブシート交換も可能
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