こんなマスターシリンダーは使えない!! けれど使いたい時のサバイバルテクニック
ディスクブレーキのメンテナンスというとブレーキパッドやキャリパーに注目しがちですが、キャリパーに油圧をかけるマスターシリンダーもおろそかにできません。踏むと利きっぱなしになる、10年以上放置されたリアブレーキマスターを外すと、マスターピストンが完全固着!!そんな状況を打開できるかもしれない!?テクニックを紹介しましょう。

マスターピストンが戻らないとブレーキは利きっぱなしになる

これはフロントマスターシリンダーの例で、マスターシリンダー端部のスナップリングを外すと、後部のスプリングの張力によってピストンが押し出される。

ブレーキレバーを握るとマスターシリンダーからブレーキフルードが押し出され、その体積分のフルードがキャリパーピストンに伝わり、パッドを押し出してブレーキローターを挟み込む。わざわざ説明しなくても、ディスクブレーキの作動原理をご存じのライダーは多いはず。

ブレーキレバーやペダルから手や足を離すとブレーキがリリースされて利かなくなるのは、マスターシリンダー内にセットされたスプリングがピストンを押し戻すからで、このリターンスプリングはドラムブレーキでも自転車のリムブレーキにも装備されています。

ただ、ドラムブレーキやリムブレーキのリターンスプリングが外から見えるアウタータイプなのに対して、マスターシリンダーのスプリングはインナータイプなので、普段はあまり意識することはないかもしれません。

ディスクブレーキのメンテナンスでは、パッドの残量確認やピストンの清掃と揉み出しなどキャリパー周りが中心となり、マスターシリンダーに注目する機会は少ないかもしれません。

しかし、ブレーキレバーやブレーキペダルによって押し込まれたピストンが元の位置にスムーズに戻ることで、キャリパーに流れ込んでいたブレーキフルードがマスターシリンダーに戻り、キャリパーピストンがキャリパー内に引っ込むことでブレーキローターからパッドが離れるというブレーキリリースのメカニズムを考えると、マスターシリンダー内部でピストンがスムーズに動くことはとても重要です。

レバーやペダルを操作するのはライダーなので、ピストンを押すことはできます。一方でピストンをリリースするのはスプリングの張力頼みなので、ピストンとシリンダー間のフリクションがスプリングの張力を上回れば、ピストンが元の位置まで戻らないかもしれません。するとマスターシリンダーからキャリパーに常にフルード圧が掛かった状態になり、ブレーキが引きずったり、ロックしたままになる可能性があります。

ブレーキの引きずりに関して、ピンスライドタイプのキャリパーはスライドピンの潤滑が重要という件を過去に紹介しましたが、マスターシリンダーピストンの戻りが悪いとピンスライドキャリーパー、対向ピストンキャリパーにかかわらずブレーキが引きずる原因となります。

 
POINT
  • ポイント1・ディスクブレーキのマスターシリンダーピストンはスプリングでの張力で押し戻される
  • ポイント2・ピストンの動きの悪さがブレーキのひきずりの原因となることもある

ピストンが抜けないマスターシリンダーはアッセンブリー交換したいが……

長年の放置期間の間にマスターシリンダーからブレーキフルードが漏れ出し、プッシュロッドをサビさせた上にマスターピストンが固着したカワサキKZ900LTD。同年式のKZ900はドラムブレーキなので、このデザインのマスターシリンダーはこの機種しか採用していない。

マスターシリンダーやキャリパーにかかわらず、ブレーキをオーバーホールする際は仕組みや構造を理解して、正しい部品を使用して作業を行うことが最も重要です。よく言われることですが、走らないバイクより止まらないバイクの方が圧倒的に危険です。

ここで紹介するのは今から44年前に製造され、2000年頃まで登録されていて、この10年間ほどは乗っていない逆輸入車の事例です。ブレーキは前後とも固着していましたが特にリアがひどく、少しでもブレーキペダルを踏むとブレーキがロックしてしまい、その都度ピンスライドタイプのキャリパー本体を押してピストンを押し戻す必要がありました。もちろん走行などできません。

ブレーキペダルとマスターシリンダー間のプッシュロッドはユニクロめっき仕上げだったはずですが真っ赤に錆びており、これはマスターシリンダーから漏れたフルードがプッシュロッドを伝わったためだと思われます。

フレームからマスターシリンダーを外して、ピストンの抜け止めのスナップリングを外してもピストンはシリンダーの中に留まり抜ける気配はありません。ブレーキホースを取り付けるバンジョー部分からコンプレッサーのエアーを圧送してもびくともしません。マスターシリンダー本体のデザインによっては、ホースバンジョー側からピストンを押し出せるものもありますが、このマスターシリンダーはそれもできません。

幸いなことにマスターピストンやピストンカップ、スプリングなどのインナーパーツは純正部品が供給されていますが、マスターシリンダー本体は販売終了です。インナーパーツが現在でも出るのなら、そのインナーパーツを使用しているマスターシリンダーが現行モデルの中にあるかもしれないという希望が生まれますが、マスターとリザーブタンクが一体となったこの機種用のパーツを使う現行モデルは探し出せません。

ブレーキの機能を回復するだけなら、機種不問で流用可能なマスターシリンダーを装着するのが現実的なことは理解しつつも、デザイン的に目立つ部品なのでオリジナルを生かしたいという気持ちも捨てきれません。

 
POINT
  • ポイント1・純正インナーパーツが入手できればオーバーホールが可能
  • ポイント2・ピストンが抜けないほど固着している場合はアッセンブリー交換も考える

使える?使えない!?パーツの見極めには慎重な判断が必要

1)マスターシリンダーとプッシュロッドを車体から取り外す。マスターシリンダーピストンは抜け止めのスナップリングで押さえられているが、プッシュロッドはピストンの凹部にはまっているだけで簡単に抜ける。
2)プッシュロッドを抜いたピストン端部。フロントブレーキのようにマスターシリンダーからピストン端部が飛び出していればプライヤーなどでつかめるが、シリンダー内部に収まっているので摘まんで引き抜くことができない。スナップリングを外してバンジョー側からコンプレッサーのエアを入れてもビクともしない。
3)プッシュロッドが入る凹部をガイド代わりにタップを立ててボルトをねじ込んで引き抜くことを画策してみる。
4)雌ネジが浅くボルトをこじったせいでピストンの先端部分が折れてしまった。


5)先端部分だけ折れて抜けたピストンの残り部分には、結晶化したブレーキフルードがぎっしりまとわりついている。幸い下穴を開けてタップを立てられそうなのでもう一度挑戦する。下穴を大きくしすぎるとシリンダー内面を傷つけるおそれがあるので要注意。
6)ボルトに通したハンドルを引くと再びこじる危険性があるので、ハンドルを固定してボディを押す方法に作戦変更。油圧プレスを使って、ボディにじっくり圧力をかけて押し抜いていく。
7)幸運にもピストンを押し抜くことができた。ピストンの側面には固まったフルードによる傷が入っているが、お湯で洗浄したシリンダー内面には傷はなく、再使用できると判断した。復元後はフルード漏れがないか入念なチェックが必要だ。
8)マスターシリンダー本体を流用している機種は分からなかったが、ピストンとシールとスプリングはメーカー純正パーツが入手可能だった。ピストンが抜けてもシールが購入できなければマスターシリンダーは使えないので、インナーパーツがあったのは幸いだった。


マスターシリンダーからピストンが抜けない理由の半分以上は、ピストンとシリンダーの間でブレーキフルードが結晶化したためだと思います。ブレーキフルードには吸湿性があるので、お湯に漬け込みピストンをほんの少しずつストロークさせることで結晶が溶けて動き出さないかとやってみましたがダメでした。

そこでピストンの端部、プッシュロッドが入る凹部にタップを立てて、ボルトをねじ込んで引き抜く方法にチャレンジしてみます。ところがブレーキフルード漏れを防ぐため、ピストンとシリンダーのクリアランスは非常に小さいため、ピストンにねじ込んだボルトをちょっとこじっただけで、先端部分だけあっさり折れてしまいました。

折れたボルトを摘出する際に、ボルトの中心にドリルを立てて徐々に径を拡大して削り落とすことがありますが、シリンダー内面を傷つけたら一巻の終わりなので、もう一度タップを立ててボルトをねじ込み、斜めに引かないよう油圧プレスを使います。

ここではボルトを引くのではなくマスターシリンダー本体を押し、固着したマスターピストンを取り外すことができました。外れたピストンを観察すると、ピストンカップやピストン本体に結晶化したブレーキフルードがびっしり密着しており、このせいで抜けなくなっていることが確認できました。

サビで固着した鉄部品だと、たとえ固着が剥がれてもサビによって再使用できないパターンも多いですが、アルミ合金製のマスターシリンダー内面にはサビは発生しておらず、ピストンとスプリングなど新品インナーパーツをセットしたところとてもスムーズにストロークして、ブレーキフルードが漏れることもなく再使用できました。

普段乗っているバイクでマスターピストンが固着することはあり得ませんが、長期間不動だったバイクのブレーキが引きずったりロックした時は、キャリパーだけでなくマスターシリンダーピストンの作動もチェックして、動きが悪いようならピストンを抜いてシリンダーとの間に何か原因がないかを確認しましょう。

ただ、ここで紹介した事例は成功した一例であり、固着したピストンを引き抜ければすべて再使用できるというわけではないということはご理解いただければ幸いです。

 
POINT
  • ポイント1・固着したピストンを取り外す際はまっすぐに引き抜く
  • ポイント2・ピストンが固着していてもシリンダー内面に腐食やサビがなければ再使用できることもある
関連キーワード
車種に関連した記事
ブレーキに関連した記事