
世界中で最も知られたバイクであると共に、多くのユーザーに親しまれ愛されてきたのがホンダスーパーカブです。昔からバイクに乗り続けてきたベテランはもちろん、アニメーションなどの影響で若いユーザーからも注目を集めるスーパーカブは、長年にわたって変わらないスタイルとビジネスバイク生まれならではのタフさが魅力。
2007年より吸気系がフューエルインジェクション=FIとなりましたが、それ以前のモデルにはずっとキャブレターが装着されており、それらの中には経年劣化や何人ものオーナーの手に渡る中で不調になっているものも少なくありません。
そんな時に頼りになるのが、純正キャブレターのセッティングやオーバーホール、修理に必要なインナーパーツをまとめた、岸田精密工業の「キャブレター燃調キット」です。ここではネットオークションで落札したメーカー純正カスタムモデル「カブラ」を題材に、燃調キットを用いたキャブレター初期化の手順を紹介しましょう。








絶版車用キャブにとってガソリンの「にじみ」や「漏れ」は当たり前だがネジの増し締めは厳禁!!燃調キットのガスケットやOリングに交換しよう
実用車として鍛え上げられてきたスーパーカブは、車体も足周りもエンジンもとにかくタフ。製造から30年以上経っていてもエンジンにオイルさえ入っていれば走行にまったく支障のない車両も当たり前のように存在します。
ひとりのユーザーが長年乗り続けている車両はもちろん、中古車として流通しているスーパーカブの中にも、1980年代生産車や1990年代生産車が数多くあります。ここで紹介する車両は1990年代に流行したカブラキットを装着したC50スーパーカブです。「カブラ」は当時のホンダアクセスがスーパーカブ用に開発と販売を行ったパーツの総称で、レッグシールドやサイドカバー、シングルシートカウルなどの外装パーツがラインナップされ、メーカー純正カスタムとして大いに注目されました。
20代にとっては自分たちが生まれる前のスーパーカブであり、40代以上にとっては懐かしいカブラを、製造から25年以上を経た現在手に入れたとしたら、何はともあれ各部のメンテナンスが不可欠です。複数のオーナーの元を渡り歩いてきた車両であればなおさらです。
キャブレターに注目すれば、ずっと実動状態にあったのか、それとも不動期間があったのか、あるいは現状が不動状態なのかによって対応はまったく異なります。スーパーカブに限らず、絶版車のキャブレターにつきものなのが燃料コックやフロートチャンバー部分からのガソリン漏れやにじみです。
キャブレター本体とフロートチャンバーの合わせ面にはゴム製のフロートチャンバーガスケットがセットされていますが、フロートチャンバーの着脱を繰り返したり経年変化でガスケットが硬化することでシール性が低下して、ガソリンが染み出すように漏れ始めます。フロートチャンバーのドレンスクリューに組み込まれたOリングも同様で、時間の経過と共に硬化することでシール性が低下します。
このような場合に「やってはいけない」のがビスやスクリューの「増し締め」です。ネジを余計に締めれば漏れが止まると思いがちですが、キャブレターは本来、ガスケットやOリングの弾力によって気密性が確保されるようになっています。長年に渡って押しつけられることで変形グセがついた、プラスチックのように硬化したゴム製ガスケットには漏れを防ぐシール性は残っていません。
それにも関わらずビスを増し締めすればネジの部分だけに強いストレスが加わり、キャブレターボディとフロートチャンバーの合わせ面が歪んでしまう場合もあり、そうなるとさらにガソリン漏れがひどくなる原因にもなります。
このような場合、解決方法はガスケットやOリングの新品交換以外あり得ません。それらの部品はバイクメーカーの純正部品として購入することもできますが、パーツリストやネットの情報で純正部品番号を調べなくてはなりません。販売期間が長くキャブレターの種類も多いスーパーカブの場合、適合部品の検索が難関となります。それに対してもっと簡単でリーズナブルなのが、キースターの「キャブレター燃調キット」です。
岸田精密工業が自社で開発と製造を行う燃調キットは、キャブレターのメンテナンスやセッティングに必要な部品がすべてセットになっており、なおかつ機種別に設定されているのが最大の特長です。キットの中には消耗品であるガスケットやOリング類も含まれているので、ホームページから愛車のキットを探すだけでキャブレターで必要なパーツはすべて揃います。キースターでは原付から1000ccオーバーまで絶版車を中心に500機種以上の燃調キットを開発しています。メーカー純正部品では販売終了となっていても燃調キットでは入手可能なものも少なくありません。
スーパーカブ用の燃調キットとしては初期のOHVエンジン用からキャブレター後期まで5種類のバリエーションがあり、カブラは1989~1998年モデル向けのFH-0958Nが適合します。フロートチャンバーのガスケット溝の中で潰れていたガスケットもドレンスクリューのOリングもセットに入っており、適正トルクでビスを締めるだけでガソリン漏れを止めることができました。











変更されたセッティングをスタンダード状態に戻すのにも役立つ燃調キット
ガスケットやOリングなどのゴム部品の劣化と並んで、中古車として購入したバイクのキャブレターで心配なのが「現状のセッティングが純正なのかどうか?」という点です。入手時には50ccエンジンでノーマルマフラー、エアクリーナーボックス付きだったとしても、過去にどうだったかは分かりません。場合によっては仕様が変更された状態のままかもしれません。
たかが50ccといえどもキャブレターのセッティングは重要です。純正エアクリーナーボックスとパワーフィルター仕様では最適なセッティングは異なりますし、マフラーの抜け具合によってもキャブセッティングが必要になる場合もあります。改造やカスタムと無縁の機種であれば心配ないかもしれませんが、スーパーカブの中でもカスタム指向の高いカブラであればキャブの仕様を確認することは重要で、こんな時にも燃調キットが有効です。
燃調キットは製品名のとおり、サイズの異なるパイロットジェット、ジェットニードル、メインジェットを組み合わせることで、純正キャブレターの空燃比を変更できるキットです。そのためマフラー交換やパワーフィルター装着などでセッティングがずれた純正キャブを調整できるのです。さらに燃調キットには、セッティング変更の基準となるスタンダードサイズのジェットやニードルまでもが含まれおり、それらをキャブレターに組み込むだけで、スーパーカブの純正セッティングを再現することができるのです。
こうしたパーツセット内容は、オーバーホールや調整目的でスタンダードセッティングで組み立ててから、改めてエンジンコンディションや吸排気パーツの仕様に応じてセッティング変更できるため、純正派にとってもカスタム派にとってもありがたいものです。
絶版車のキャブレターでありがちな症状のひとつに、ジェットニードルとニードルジェットの摩耗が挙げられます。吸気の脈動によって両者が擦れて摩耗すると、両者の隙間が設計値より広くなることがあります。するとメインジェットで計量されたガソリンがより多く吸い出されて混合気が濃い状態になります。
スロットルと開けていく過程で混合気が濃い場合、ジェットニードルのストレート径を太くするのが通常の対処方法ですが、これではニードルの針先に向かうテーパー角度との帳尻が合わずにセッティングがまとまらないこともあります。メーカー純正のパーツリストでキャブレターのパーツを購入する際、ジェットやニードルはともかくニードルジェットは意外に見落としがちです。
しかし燃調キットにはあらかじめニードルジェットも含まれているので(機種による)、ジェットニードルとセットで交換することでセッティング時の混乱を回避することができます。







パイロット、メイン、ニードルをセットで開発することで生じるメリット
キースター製燃調キットの特長のひとつが、パイロットジェットとメインジェット、ジェットニードルのサイズ設定です。市販の汎用ジェットセットは、ほとんどの場合サイズが等間隔に設定してあります。これに対してスーパーカブ用のFH-0958Nのメインジェットはスタンダードの#72を中心に#67、#69、#75、#79、#83となっています。
またパイロットジェットはスタンダードの#38に対して#37と#43が入っています。ジェットニードルに関しては、そもそも燃調キットを除き市販車用キャブレター用に仕様違いが用意されている例は皆無ですが、ストレート径とテーパー角度を独自に設定しています。
このような仕様としているのは、燃調キットが機種別に開発され、さらにジェットとニードルが相互に作用し合うように設定されているためです。
スタンダードのセッティングに対してスロットル開度が小さい領域の混合比を濃くしたい場合、従来のジェットセットならパイロットジェットを大きくするしかありませんでした。しかしキースターはジェットニードルまで製作することで、パイロットジェットとニードルの組み合わせで混合比を設定し、従来より繊細な空燃比コントロールを可能としています。
サイズ違いのジェットニードルはスロットル中開度から全開近くでも有効です。メインジェットで計量されたガソリンは、ジェットニードルとニードルジェットの隙間からベンチュリーに吸い出されます。したがってジェットニードルがニードルジェット内に入っている領域では、ガソリンの流量はメインジェットよりも両者の隙間の大きさに依存します。
ストレート径とテーパー角度が異なるジェットニードルを独自開発しているキースターでは、ニードルとメインジェットの組み合わせで空燃比を決めることができるため、ジェットのサイズもそれに応じた独自の設定となっているのです。
ガスケットやOリングなどのゴム部品が補修に重宝し、スタンダードサイズのジェットやニードルは純正セッティングの再現に活用でき、エンジン仕様や吸排気系パーツの変更に応じたセッティングが可能な燃調キットによって、純正派にもカスタム派にとってもキャブいじりの楽しさや奥深さが実感できることでしょう。








