なぜ冬は始動性が悪くなるのか?

なぜ寒くなると俺のエンジンはかからなくなるの?
朝晩の冷え込みが厳しくなってくるとテキメンに始動性が悪化するんですけど!
お湯掛けたら一発始動とか、ナメてるの?

しかーし!
どんなにナメても始動性が良くなったりはしません。
エンジンのかかりが悪くなるのはちゃんと理由があるからです。

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
朝からキック100連発したり、出先で始動できなくて困った経験のある人は必見です。

これが原因!という決定打はありません

のっけから絶望的なタイトルで申し訳ないですが、始動性悪化の原因はココでーす!コレを交換したら直りまーす!という魔法のような場所はありません。
一口に「始動性が悪くなる」といっても要因は様々なのです。

しかし『だいたいこの辺りが原因』という要所はあります。
まずはそこからチェックしてみると、修理や整備で無駄足を踏まずに済みます。

エンジンが調子よく動くために必要なこと

20201113_001.jpg
始動性悪化原因究明の前に、まずは調子の良いエンジンに必要な物は何か?を考えてみましょう。

  • 良い圧縮
  • 良い混合気
  • 良い火花
これだけ!
難しい事は抜きにホントにこれだけ!

寒くなったせいで圧縮が低くなったりはしないので(もし圧縮が低くなったとしたら気温とは無関係に本格的に故障している)、残りはたったの2つ

良い混合気』とは吸気した空気に対して適切な量のガソリンが綺麗に噴霧されているか?と言い替えられますし、『良い火花』はプラグから強力なスパークが出ているか?に尽きます。

また、一旦始動してエンジンが暖まると何の問題も無く普通に動く場合があります。
このように「始動性が悪い」だけに条件が絞れる事になると、上記の要因にプラスして『勢い良く回るセルモーター』も良好な始動性の条件に入ってきます。

単純な方から原因を潰していく

20201113_002.jpg
いきなり難解な原因の方に挑戦して分解してみたものの、開けてみたら特に問題無かったという徒労を防止するため、こういうのは簡単な方から原因を排除して行くに限ります。
これはトラブルシューティングの基本です。
容易に確認出来る事から確認して行きましょう。

もしそれで特に問題が無かったとしても、『そこが原因ではない』と断定出来るので無駄手間ではありません。
というワケで、以下は簡単にチェックや修理が出来る始動性悪化の原因と対策方法です。

セルモーターは勢いよく回るか?

これは意外にも重要です。
ガソリンエンジンは自力で回り始める事はできないので、最初は外部から回転させる必要があります。

例えばキックスターター式のエンジンでは1回のキックで回せるクランクシャフトの角度が少ないのでキックの速度はとても大切です。
どんなに完調なエンジンでも、ゆっくりキックしていては始動できません
同じ事がセルモーターにも言え、ゆっくり回るセルモーターでは始動困難です。

寒くなってセルモーターの勢いが悪くなる原因は大きく2種類!

  • バッテリーが弱くなった
  • エンジンオイルが固くなった
以上!

ではバッテリーが弱くなったとは何でしょう?
バイクの場合バッテリーは主に鉛バッテリーが使用されていますが、これは化学反応で電力を発生しているので、低温になると化学反応が鈍って発生する電力が減るのです。
鉛バッテリーの宿命です。

ただ、新品バッテリーで劣化していないバッテリーであれば多少化学反応が鈍ったところで大きな影響は無く、元気に始動する事が出来ます。
これに対して何年も使用して劣化の進んだバッテリーは寒いと反応が鈍り、電力が不足して来ます。
このために化学反応の良い夏場ほど元気よくセルモーターを回せず、それが原因で始動性が悪化している事があります。
maga100107.jpg

また、低温ではエンジンオイルが固くなります。
固くなったオイルはピストンとシリンダーの隙間に入り込んでおり、張り付くような働きをしてしまいます。
オイル粘度が高いと張り付きっぷりも増します。
セルモーターはベットリ膜を張ったオイルの抵抗に抗ってピストンを動かさないとクランクシャフトを回せませんから、物凄い抵抗を受ける事になり、勢いよくクランクを回せなくなります。

夏場に入れた固めのオイルは冬には単なる抵抗です。
潤滑に問題が生じない範囲で可能な限り柔らかいオイルを使うのが基本なので、固いオイルを使っていた場合は柔らかいオイルに交換する事をオススメします。

また、劣化の進み始めたバッテリーの場合、何も無い状態でテスターで電圧を測って13.0V以上ある一見元気なバッテリーでも、大電流を流そうとするとガクッと電圧が落ちます
そんな時は寿命なので、バッテリー交換しましょう。

高価ですがリチウムポリマー系のバッテリーはこの低温特性に優れており、寒い時期でも大きな電力を発生出来る特徴があります。
寒い地域の方には特にリチウムバッテリーをオススメします。

なお、セルモーターが全く回らない場合は寒さとは無関係に単純に故障しているので、問答無用で修理です。

良い火花が飛んでいるか?

101602-5.jpg
火花 = 点火プラグのスパークです。
プラグの電極から強力な火花が飛んでいれば正解。

強い火花が飛んでいるかはプラグを外して直接目視して確認します。
プラグを外して、外したプラグにプラグキャップを付けて、プラグの座金やネジ部をエンジンの金属が剥き出しになっている場所に当てて、そのままセルモーターを回してスパークを確認。

バチバチと音がするくらい青白くて太いスパークが飛んでいれば合格
チチチ……みたいな弱い音で、か細いスパークがチョロっと飛んでいるだけだと不合格

……と、ここまでは良く聞く話ですし、そう書いてある記事なども見た事があると思います。

確かに間違ってはいません。
本当の事です。
しかし、冬の始動性という視点で見るとちょっと片手落ちではないかと私は思っています。

と言うのも、このテスト方法ではエンジンからプラグが抜けているので空気(混合気)を圧縮していないのですよ。
圧縮していないという事はエンジンの回転抵抗が大幅に減っている事を意味しているので、セルモーターなんかキュンキュン回ってしまいます。

実際に冷え込んだ時期にセルモーターを回すと、もっともっと抵抗が増すはず。
バッテリー点火式のエンジンでは(大多数がコレ)セルモーターを回すために大きな電力を使われた結果、点火プラグへの電力が不足して点火スパークが弱まってしまう事が考えられます。

そこで、上記のテスト方法で強力なスパークが飛んでいるのを確認できたら、次は不要なスパークを外したスパークプラグにネジ込んで、ちゃんと圧縮できるようにしてみてください。
この『実際の始動状態に近い負荷』が掛けられる状態のままセルモーターを回し、そこでも強力なスパークが飛んでいれば絶対大丈夫と言えるでしょう!

逆に外しただけでテストすると強力なスパークなのに、圧縮するようにしてからテストするとめっきりスパークが弱くなる場合はバッテリー寿命という可能性が高くなります。

なお、外したプラグのスパーク状態をテストする際、素手で持ったプラグとエンジンの接触が甘かったり外れたりすると思いっきり感電するので注意してください(ちょっと痛い)。
絶縁性のあるグローブでプラグを持つようにしましょう。

良い混合気が吸入されているか?

ここが最も難易度高いです。
そして、最新のインジェクション式ではほぼ無関係な項目でもあります。
該当するのはキャブレター車のみ!
インジェクションは多少寒くなった程度で『良い混合気』が得られなくなったりはしません。
燃料噴射エライ!

ところで、冬に始動性が悪化するのはキャブレターが主流の時代には当たり前の話でした。
最近の車両であればだいたいインジェクション(燃料噴射式)ですが、バイクにインジェクションが普及しだしたのはほんの20年前。
しかも出始めはインジェクションそのものが高価だった事から超ハイパフォーマンスモデルにしか採用されておらず、現在のように幅広い排気量でインジェクションが主流になったのは排気ガス規制の厳しくなった2008年以降です。
最近乗り始めた方には衝撃かもしれませんが、実はほんの10数年前まではだいたいキャブレター。
なので、バイク歴が10年を超えるような方ならだいたい冬の始動性悪化でヒドイ目にあっているはずです。

キャブレターが低温時に良い混合気を作れないのはほとんど宿命です。
20201113_003.jpg

それもそのはず、様々なセンサーから外部監査を読み取って最適な燃料を噴射するインジェクションに対して、エンジンが吸い込んだ空気の流速によって燃料を吸い出しているのがキャブレターだからです。
始動時にエンジンが吸い込む空気の量は季節を問わず一定ですが、気温が低いと空気密度が増すので、同じ吸い込み量でも含まれている酸素濃度は上がります。
つまり空気密度が上がった分だけ燃料を増量しなければならないのですが、キャブレターはこれが簡単に出来ません。

キャブレターの場合、燃料はジェットと呼ばれる極小の穴が開いた金属パーツで計量しています。
ですので、ジェットを物理的に交換しない限り、『ガソリンをちょっと増量する』ができないのです。

もちろんジェットを交換すれば良い混合気は作れますよ?
でも普通は年間を通じて同じセッティングです。
少なくとも市販車で冬用のジェットが付属している車両を私は知らないです。
なので、気温が下がると混合気が薄くなり(=良い混合気ではなくなり)、始動性が悪化するのは仕方ない事だったりします。

また、インジェクションは強制的に燃料を「噴射」するので気温が下がってもキッチリ噴霧できますが、キャブレターは燃料を吸い出しているだけなので、どうしても混合気内の燃料の粒が大きめになります。
全開時なら流速が速いのでガソリンの粒も細かくなって何の問題もありませんが、エンジン始動時という極低速の領域でガソリンの粒が大きいのは大問題です。
気温が低いなら尚更で、燃料の霧化特性でインジェクションには敵いません。

このように、キャブレターと低温始動性悪化はセットみたいなものです。
逆に極寒でも一発始動してしまう様な場合はセッティングが濃すぎる可能性が高く、気温の高い夏場はエンジン回転が重ったるいでしょうし、年間を通じて燃費も良くないはずです。

一時的に始動性を上げる必殺技

様々な理由で始動性が悪くなる場合があるのはわかった。
それはそれとして、取り合えず今すぐ何としてでも始動しなければならない。
何とかしてクレ!

そんな迷える子羊ちゃんに今すぐ使えるその場限りの必殺技をいくつか伝授しておきましょう!

■ジャンプケーブル
20201113_004.jpg
最も有効で、自動車と接続してしまうのが最強です。
バッテリーが弱くてセルの回りが悪い、オイルが固くてセルの回りが悪い、セルに電力を食われてスパークが弱い、これらの問題を先送りにし、圧倒的な電力を供給する事で力押しで解決してしまおうという、ちょっとアメリカ感のある方法です。
何も問題は解決していませんが、取り合えず始動するならコレが一番。

■吸気口を手で塞ぐ
20201111_002_webiq.jpg
燃料が薄くて失火してしまうような時に有効です。
燃料が薄い = 燃調がおかしいという事、つまりキャブレター車にしか使えないワザです。
元気なセルを回すと一瞬始動しそうになるけどギリで始動できなくて止まる、みたいな時はコレ。

やり方は手で吸気口を大きく塞いで吸気抵抗を作り出します。
強引に混合気中の燃料割合を増やす事と、吸入負圧を上げてガソリンを吸い出しやすくする狙いがあります。
ただ、車体にある吸気口はハッタリで実際の吸気口とは無関係だったりするので、実際の吸気口を塞がないと効果はありません。

■お湯を掛ける
20201113_005.jpg
吸気経路とキャブレター周りを中心にエンジンへ熱湯を掛けてしまう作戦です。
そんなバカなと思われるでしょうけれど、かなり効果的。

吸気経路が温められて燃料の霧化特性が向上するのと、キャブレター周辺が熱くなるので空気密度が下がる事が効くようです。
空冷エンジンでは特に顕著で、シリンダーヘッドまでお湯を掛けると燃焼室の温度が上がるからなのか、劇的に始動性が向上します。

弱点はお湯掛け後の始動を失敗すると気化熱で更に冷えてしまうので始動困難度が上がってしまう事。
あと、熱湯を掛ける事になるので樹脂やゴムの部品にはダメージ大。

■ライト消灯
20201113_006.jpg
少しでもバッテリーの電力をセルモーターと点火プラグに回したいので、始動に不要で大きな電流を必要とする物を排除する作戦です。
ライトが常時点灯で消せない場合でも、バルブに接続してあるコネクターを抜いて無理矢理消します。
セルモーターの回りが弱い時には試してみる価値あります。

以上、何としてでも……という状況になったらお試しください!

関連キーワード
20210625_garage_sale_point_336_280.png
エンジン,バッテリー関連,キャブレターに関連した記事