寒くなるとアイドリングが高くなるのはなぜ?

11月の気温はゴールデンウィークの時期と大差無いはずなのに何だか寒く感じるのが秋の不思議なところ。

さて、寒くなってくるとアイドリング時のエンジン回転数が高くなったと感じる事がありませんか?
というか、明確に高いですよね?
理由はよくわからないけど。

しかーし!
アイドリングの回転数が上がるのはちゃんと理由があります。

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
同じ「アイドリングが高くなる」でもキャブレターの場合とインジェクションの場合と壊れてる場合とでは理由が違うので要確認です!

アイドリングはエンジンにとって難関


アイドリングというのは『エンジンが掛かっている』けれど『何も操作していない』時のエンジン状態です。
何も操作していないのでスロットルは全閉。
エンジン始動して動き出すまでの状態とか、信号待ちしている状態ですね。

毎分1000回転ちょっと、タコメーターの針が1000~1200くらいを指している状態になるはずです。
と言っても1000~1200回転を行ったり来たりするのではなく、例えば1100回転なら1100回転でピタッと落ち着いている状態が正解です。

何も操作していないし低回転なのでエンジンにとっては余裕シャクシャクの最も簡単な状態……というイメージがあるかと思いますが、この『スロットル全閉だけどエンジンは止まらず回り続けている状態』というのは実は結構シビアで、非常に絶妙なバランスで回っているのだという事は知っておいてください。

そもそもエンジンというのはアクセル全開で目いっぱい回っている全力運転の方が制御が簡単です。
エンジンが吸い込める最大の空気量に対して最適な量の燃料を供給すれば良いだけなので。

その全力運転状態からスロットルを閉じる事でエンジン停止しない限界まで吸気通路を狭くして、その絞った吸入空気量に対して最適な(僅かな)ガソリンを供給する事でゆるゆると回った状態を維持しているのがアイドリングです。
スロットルをエンジンを回すための装置ではなく、エンジン回転数を落とすための装置だと考えると理解しやすいと思います。
どうです?難しそうでしょう?

そんな微妙な制御でゆっくり回っている状態なので、空気にしろ燃料にしろ僅かな変化でも容易に回転数が変化してしまうのです。
ゆっくり回っているだけに見えるけれど、安定してゆっくり回すのは実は難しいのです。

高回転高出力型のエンジンになるほど安定したアイドリングを維持するのは難しくなりますが、それは全開全力時と全閉時の差が激しいので制御の難易度が増すからでもあります。

寒いと何が起こる?


寒くなってもエンジンが吸入する空気の量は変わりません。
吸気を絞っている通路面積は変化しないので、通過できる空気の量が変わらないのは想像しやすいですよね?

しかし、同じ空気量でもそこに含まれる酸素密度は変わります。

ボイル=シャルルの法則のとおり温度が下がると気体の体積が減るのですが、スロットルを通過できる「量」は同じなので、吸い込んた空気密度は上がる事になります。
空気内にある酸素濃度は年間を通じて変化しないので、空気密度が上がった分だけ酸素も多く取り込む事になります。
つまり、スロットルをチョイ開けしたのと同じ事が起こります

また、気体だけでなく金属で出来たエンジンも寒いと収縮して体積が減ります。
全体的に隙間が小さくなり、例えばピストンとシリンダーの隙間などが狭くなります。

インジェクション車で起こる事(その1)


復習しますが、スロットル開度は寒くなっても変化しないので吸入空気量は変わりません。
しかし同じ量の空気でも空気密度が高くなるので酸素の量は増します。

この増えた酸素濃度(=空気密度)に対して適正な燃料を噴くと(インジェクションは燃料を噴き出す装置)、まさに「スロットルをちょっとだけ開けた状態」と同じ事が起こり、アイドリング回転数が上がるのです。

でも大多数の車両では燃料噴射制御に吸入空気の酸素濃度までは読み取っておらず、吸入空気の酸素濃度が増えただけでアイドル回転数が上がったりはしません。
しかし排気ガス中の酸素濃度は読み取っており、理論空燃比(ラムダ=1)になるような制御が掛かっているのが普通です。
排気ガス中の酸素濃度が高いという事は燃料が不足している事を意味するので、これを何とかしようと燃料噴射量を増量する事があります。
これでホントに「スロットルをちょっとだけ開けたのと同じ状態」と全く同じ状況になり、アイドリング回転数が上昇します。

ところが、もっと頭の良いエンジン制御だと吸入空気温度も読み取っており、『今は寒いから空気密度が高い』まで読みます。
この場合は吸入空気密度に対して適切な燃料を噴射しつつ、アイドリング回転数が上がらないように全閉のスロットルをさらに僅かに閉じようとします。

フライバイワイヤ(スロットルボディとアクセルがワイヤー等で直結しておらずスロットルの動きを電気信号に変えてモーター駆動でスロットルを開ける方式)なら、理論上こういった制御が可能です。

しかし……、バイクのインジェクションはまだまだ黎明期で、ワイヤーでスロットルボディを直接操作し、その操作量に合わせて燃料を噴くタイプのインジェクションがほんの少し前まで主流でした。

この場合、『スロットルバルブ全閉位置を通常よりちょっと閉じる』ができません。
なぜならアイドリング時のスロットルの全閉位置はスロットルストッパーという物理的なストッパーで制御していて、それ以上閉じれないようになっているから。
そこで、最近ではアイドリング用の別通路で制御するのが一般的になってきています。

さて、今のところ全てのインジェクション車は完全バイワイヤ式でないので、大まかに2パターンの変化が起こります。
1つはアイドル回転数を変えたくないから燃料噴射量を増量せず、結果として混合気が薄い状態になる場合。
理想の混合比より薄いのでアイドリング回転数が少し上がって不安定になり、アイドリング付近のトルクが減少します。
パッと開けた時にエンストしやすくなったり、クシャミをした様になったりするのはこれが原因。

空気密度アップに伴って燃料噴射量が増える場合は、密度上昇分だけアイドリング回転数が高くなります。
夏に1100rpmだったとすると、1150~1200rpmくらいになる感じです。

どちらの場合もスロットルボディに「アイドリングアジャスター」とか「スロットルストップスクリュー」といった名称のネジがあるので、これを回してスロットル全閉時の吸気通路を絞り、アイドリング回転数を下げるようにしましょう。

このあたりを自動調整してアイドリング回転数が変化しない車両もありますし、フライバイワイヤ式でもスロットルストッパーだけは物理制御の場合も多いのでややこしいです。

インジェクション車で起こる事(その2)


インジェクションは様々な条件をセンサーで読み取って、最適な燃料を噴射しようとします。
ですので、寒いとエンジンを本来の作動温度に持って行くために温めようとして、アイドリング回転数を上げようとする制御が掛かる場合があります。
エンジンを循環している水温でエンジン温度を判断している事が多い事から『低水温補正』などと呼ばれています。

この補正が入るのはエンジンが冷えている場合のみで、暖まると補正が切れてアイドリング回転数が下がります。
エンジン始動してからしばらくの間、やけにアイドリング回転数が高くなるのは主にこの機能によるものなので、そのまま安心して乗っていて大丈夫です。

問題はエンジンが暖まっても、場合によっては冷却ファンが回るほどになってもアイドリング回転数が下がらない時で、こうなると我々シロウトにはお手上げです。
何らかの制御に異常をきたしているので、バイク屋さんで修理してもらうしかありません。

スロットルバルブ付近に極小サイズのゴミが挟まってスロットルが閉じきれなくなって回転数が上がる事がありますが、これは気温とは関係ありません。
また、この場合も安易に掃除するとキズを付けてしまったりして余計に症状を悪化させてしまう事が非常に多いです。
アイドリングに関わるこの部分は非常にデリケートなので、下手に触るよりもバイク屋さんに丸ごと修理や調整をお願いするのをオススメします

キャブレターとは


一口にキャブレターといっても様々な種類と方式があり、アイドリングが上がってしまう理由も様々です。

インジェクションの項目で書いたように、寒いと空気密度が上がって酸素濃度が上がるのは同じです。
しかしインジェクションが『吸入した空気を計量して必要な燃料を噴射する』のに対してキャブレターは『吸入した空気の勢いで燃料を吸い出している』ので、アイドリングが上がる原因が異なります。

また、エンジンを温めようとしたり始動性を上げたりするためにアイドリング回転数を上げる機能が付いている場合がありますが、これも燃料噴射ではなく燃料吸い出しで行います。
あくまでも吸入空気がキャブレター内を流れて行くのが最初で、その空気の流れを利用してガソリンを吸い出しているのがキャブレターです。

キャブレター車で起こる事(その1)


全てが制御されて最適な燃料が噴射されるようになっているインジェクションに対して、極小の穴が開いた金属パーツを交換する事で燃料や空気を計量しているのがキャブレターです。
本当はシーズンごとにセッティングを変えた方が良いのですが、メーカーで季節ごとにセッティングを変えるように指示されているバイクはまずありません。
このため、年間を通じて「まぁ大丈夫」というザックリとした中間的なセッテイングになっています。

すると、空気密度の高い冬は燃料に対して酸素が多くなり「薄め」状態になってしまいます(気温の高い夏は「濃いめ」)。
もちろんそのまま乗っていて問題が起こったりはしませんが、寒くなると薄めになるのは事実。

気温のせいで実質的に薄くなると(ガソリンが不足気味になると)回転数上昇となって現れます。
負圧式キャブレターという形式では特に顕著で、車種によっては2000rpm近くまで上昇してしまう事もあります。

この場合に最適なのはエアスクリューという『空気の量を調整するネジ』を回して燃料と混合する空気の量を減らす事です。
しかしコレが難しい

まずエアスクリューの位置が解りにくい
キャブレターには得体の知れないスクリューが大量に有り、どれがエアスクリューなのかパッと見で解らない場合は止めた方が良いです。
キャブレターによってはメインエアスクリュー(アイドリング以外の領域のエア調整用)が別系統で有ったりしますし、パイロットスクリューと言うエアスクリューとは効き目が逆になるスクリューもあります。

一応調整方法を記しておくと、エアスクリューはエンジン始動している状態で1/4回転くらいずつゆっくりと回し、一番エンジン回転数が高くなった位置から1/4回転締め込むのが基本です。
エアスクリューの調整が終わるとアイドリング回転数が高すぎるか低すぎる事になるので、アイドルストップスクリューでアイドリングの回転数を調整したら完了。

でもこれは初心者の方には難易度激高です。
もし間違えて違うスクリューを回すとアイドリングどころかエンジン全体の調子を100%崩します。
仮に正しいスクリューを回せたとしても、エアスクリューはアイドリング以外の領域まで効いてしまうので、ちょっとやり過ぎると今度はアイドリング以外の調子が悪くなったりします。
慣れていれば簡単ですが、知らなければホントに難しい。

もっとも、そういう難易度の高い調整を行って調子を向上できた時に得られる達成感はインジェクションでは得られないもので、わざわざ好き好んでキャブレターにこだわる人が一定数居るのも頷けます。

キャブレター車で起こる事(その2)


インジェクションの項目で「エンジンを本来の作動温度に持って行くために温めようとしてアイドリング回転数を上げる制御が掛かる場合がある」と書きましたが、これと同じ事をキャブレターでやる車種もあります。

でも水温を計って冷たい場合は燃料噴射量を増量すれば良いだけのインジェクションと違い、キャブレターでは機械を使って物理的に燃料が吸い込まれる量を増量しなければなりません。
いわゆるオートチョークという機構です。
オートチョークは通常のアイドリングで使う燃料よりも大量の燃料を通せる大きな燃料通路を用意しておき、サーモスタットで物理的に燃料通路を切り替える事で実現します。
さすがキャブレター、超アナログ。

しかしこのサーモスタットが結構壊れやすい……。

そしてサーモスタットが壊れるとチョークが効いた状態で固定されてしまう事が多々あります。
こうなると常に燃料と空気が多めに送られてしまうので、アイドリングがグーンと上昇します。

同じ壊れるにしてもチョークが効いていない方向に壊れると寒い時にチョークが効いてアイドリング回転数が自動的に上昇しないというだけで済むのですが(始動性は最悪になりますが)、寒い日にチョークが効いた状態で故障してしまう確率が高いような気がします。

意外な盲点


気温が下がると様々な物が収縮するのですが、この収縮によってアイドリングが上昇する事があります。
ハッキリ言って故障の一種なのですが、夏場は発覚しにくく、気温の下がる冬に発症する事が多いいトラブルです。

それがインシュレーターラバーのヒビ割れ
インジェクションでもキャブレターでも同じように発生します。

エンジン本体とスロットルボディを繋いでいるのがインシュレーターと呼ばれる部品ですが、大半の車種ではこの部品がゴム製です。
エンジンに直接装着されているので比較的高温に晒されるパーツですが、ゴムに高温が良いわけはないので劣化の激しい部品でもあります。

劣化するとヒビが入るのですが、曲げたりしない限りなかなか普段はヒビの存在に気付けないものです。
また、夏場はパーツの膨張でヒビが埋まり気味なのと、ゴムが柔らかくなるのでますます気付きにくくなります。

しかし寒くなると全く逆。
収縮したパーツはヒビを拡大しますし、固くなったゴムはヒビの成長を促します。

収縮で発生したヒビから遂に空気を吸い込んでしまうようになると(この吸い込んでしまった空気を二次エアと言います)アイドリング回転数が上昇します。
キャブレターやインジェクションが正常にも拘わらず、エンジンが吸入する混合気は薄い状態になってしまうからです。

何だかアイドリングが高い!という時に、インシュレーターに水を掛けるとスッと正しいアイドリングに戻る場合はほぼココが原因です。
水で一時的にヒビ割れが埋まって二次エアを吸わなくなるので症状が出なくなるのです。
対処方法は部品交換しかありません

いろいろ原因はあるけれど


寒くなると空気密度が増して酸素濃度が上がるので、上手く利用するとその増えた酸素分だけ燃料を余分に燃やす事が出来て、結果的にパワーアップします。
冬場の方がパワフルに感じるのは単にタイヤグリップが落ちているからパワーアップしたように感じるのではなく、ホントにパワーアップしている可能性もかなりあります。

アイドリング回転数変化もそうですが、どんな理由でどんな特性に変化するのかという理由を知っていれば、僅かに薄くなったり濃くなったりパワーアップしたりする様子を確認出来るので、それはそれで楽しいですよ!

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