圧入タイプのクランクシャフトを組み付ける際は、端から引き込むインストールツールを活用しよう。

単気筒エンジンに多い左右分割型のクランクケースでは、クランクジャーナルベアリングがクランクケースかクランクシャフトに圧入されています。そのためクランクシャフトを組み付ける際にハンマーなどで衝撃を与えると芯がズレるおそれがあります。こんな時に活用したいのが、クランクケースの外側からクランクシャフトを引っ張るインストールツールです。

左右分割型クランクケースのクランクシャフトとベアリングにはいくつかのパターンがある

02ab.jpg 2004年式ヤマハトリッカーのクランクシャフトは左側クランクケースのベアリングに圧入されている。クランクケースセパレーターはクランクケースのボルト穴で本体を位置決めして、中心のボルトでクランクシャフト端部を押してクランクケース内側に押し抜く。油圧プレスで押しても良いが、ハンマーで叩いてはいけない。

03ab.jpg トリッカーのクランクベアリングは左右ともケース側に圧入されている。ホンダ横型の場合はベアリングは左右ともクランクシャフトに圧入された状態。ヤマハSRX400/600は左側のベアリングがクランクシャフト圧入、右はクランクケースに圧入されている。左右分割構造のクランクケースの場合ボールベアリングを採用するのが多数派だが、ホンダCBR250R(MC41)のようにプレーンメタルベアリングを用いるエンジンもある。

エンジンの土台となるクランクケースは、組み立て方によって左右分割型と上下分割型に分類され、単気筒エンジンはクランクシャフトを左右から挟み込む左右分割型、2気筒以上のエンジンはクランクシャフトを上下から挟む上下分割型を採用しています。

単気筒でも4気筒でも、クランクケースとクランクシャフトの間にはフリクションロスを軽減しながら高速回転に耐えられるようクランクベアリングが組み込まれています。単気筒のクランクでは2スト、4ストを問わず長年にわたってボールベアリングが使われてきました。そしてボールベアリングとクランクケースとクランクシャフトの関係性にはいくつかのパターンがあります

スーパーカブやモンキーに搭載されるホンダ横型エンジンの場合、クランクベアリングはクランクシャフトのジャーナル側に圧入されており、ベアリングとクランクケースは圧入ではありません。そのためクランクケースを左右に分割する際は、ベアリングはクランクシャフトに残った状態でケースはすんなり外れます。

2ストミニでファンが多いヤマハGT50は、クランクケースに圧入されたベアリングに対してクランクシャフトを圧入します。さらにヤマハSRX400はカムチェーン側のベアリングはクランクシャフトに圧入され、反対側はクランクケースに圧入されている変則パターンです。したがってホンダ横型エンジンの場合はクランクケースボルトを抜き取ればケースが左右に分割できますが、ヤマハの2例ではクランクケースボルトを抜くだけではケースが分割できません。

ここで紹介するヤマハセロー250やトリッカーの場合は、左右のクランクケースに圧入されたベアリングに対して、クランクケース右側のクランクシャフトジャーナルは挿入、左側は圧入されています。このためクランクケースボルトを抜いた後はクランクケース右側は簡単に外れますが、クランクケース左側に圧入されたクランクシャフトを抜くには専用工具のクランクケースセパレーターが必要です。

クランクケースまで分解する機会はそれほど多くないと思いますが、いざ分解となった時にクランクシャフトが圧入されいるのか否かによって作業の段取りや必要な工具が異なるので注意しなくてはなりません。シリンダーヘッドやシリンダーなどの腰上を分解していよいよクランクケースの分割となった段階でクランクシャフトが圧入タイプだと分かり、その際にクランクケースセパレーターが手元になければ作業は一時停止せざるを得ないからです。

何となく抜けそうだから……とクランクシャフトの端をハンマーなどで叩くのは厳禁です。クランクベアリングに側方から衝撃を与えるとボールレースに傷が付く危険性があり、打痕がついたステアリングステムベアリングと同様に滑らかな回転を阻害する要因となります。まずはサービスマニュアルで確認するのが第一ですが、クランクケースボルトを抜いてプラスチックハンマーでクランクケースを軽く叩いた時に、ダウエルピンの固着とは別にまったく分割できそうな気配が感じられない時には、クランクケースセパレーターを使った方が間違いはないでしょう。

POINT
  • ポイント1・単気筒エンジンのクランクベアリングには圧入タイプとそうでないものがある
  • ポイント2・圧入タイプのクランクシャフトにも、ベアリングがクランクケースに圧入されているものとクランクシャフトに圧入されている2パターンがある

圧入クランクシャフトは叩けないから引き込む

04ab.jpg 中央の黒い筒がクランクインストールツール。クランクシャフトの端部に装着したアタッチメントに長いボルトをねじ込み、筒をかぶせてからナットを締めることでボルトが引き込まれ、ボルトにつながったクランクシャフトがクランクベアリングに圧入されていく。

05ab.jpg クランクケースにベアリングをセットする前に、オーブントースターで膨張させておくことでベアリングを強く叩かなくても圧入できる。クランクシャフトベアリングだけでなく、クランクケースに圧入されたミッションのベアリングを交換する際も予熱は有効だ。

06ab.jpg クランクインストールツールを使用する際は、コンロッドをクランクケースに引っ掛けないよう、シリンダーボア部分に来るように保持しながら引き込む。またクランクシャフトが入りきっていないのに途中で突然重くなる時は、かん合部分に異物が噛み込んでいる可能性があるので無理をせず、クランクケースセパレーターで一度押し戻して洗浄してから再度引き込み作業を行う。

07ab.jpg クランクケースの合わせ面とコンロッドの中心が一致しているため、クランクシャフトを引き込んだ後のコンロッドはクランクケースに引っかかる。裏を返せば、コンロッドは適当な位置にある状態でクランクシャフトを引き込めば、クランクケースに接触した時点でコンロッドが曲げられてしまうことになる。

クランクケースに圧入されたクランクシャフトを取り外す際はクランクケースセパレーターが必要ですが、クランクシャフトをクランクケースに圧入する際にはクランクインストーラーと呼ばれる専用工具が必要です。

これは原理的にはパイロットベアリングプーラーと似たもので、クランクケースの外側に円筒状のアウターチューブを被せて、チューブ内部に通した長いボルトの先端をクランクシャフトに取り付け、長ボルト先端のナットを時計回りに回すことでクランクシャフトをチューブ内に引き込み、最終的にクランクケースに圧入します。

単気筒用の組み立て式クランクシャフトは簡単にバランスが狂ってしまうため、圧入部分の反対側の端部をハンマーで叩いたりプレスで押すことは厳禁です。もちろん2気筒以上のクランクシャフトも叩いてはいけませんが、上下分割のクランクケースにおいてはクランクシャフトを圧入することがないので、この点では関係ありません。

専用工具として販売されているインストールツールにはいくつかの種類がありますが、重要なのはベアリングに対して衝撃を与えないことです。インストールツールを使ってもベアリングのボールとレースには横方向の圧力が加わりますが、ナットを徐々に締めることで掛かる力が一定になるため、トラブルの原因になる打痕の懸念は低下します。

ただしインストールツールを使う場合でも、クランクシャフトを引き込む際にはいくつかの注意点があります。まず第一に、コンロッドの位置と向きの問題です。クランクシャフトの合わせ面はクランクシャフトの中心と一致しており、コンロッドのセンターがクランクケースの合わせ面と一致します。したがって適当な位置でクランクシャフトを引き込むと、コンロッドとクランクケースが干渉して組み立て式のクランクシャフトが曲がる可能性があります。これを避けるには、インストーラーのナットを回す際にコンロッドがシリンダーボアに入るよう支えておくことが重要です。

引き込むクランクシャフトがクランクケースに突き当たった際の感触を感じ取ることも重要です。クランクシャフトやベアリングが完全に密着しているのに、それに気づかずインストーラーのナットを回そうと力を込めれば、ベアリングへの横方向のストレスが増大します。ナットは同じ速度でゆっくり回し、抵抗が大きくなったところで引き込みを終了します。

POINT
  • ポイント1・クランクケースセパレーターを使って分解したエンジンを組み立てる際はクランクインストールツールが必要
  • ポイント2・クランクインストールツールによってクランクベアリングに横方向から力を加えても、打撃力ではないためダメージを与えない

組み立て後の軽いハンマーはベアリングの落ち着きを良くするために有効

08ab.jpg クランクシャフトやトランスミッションを左側クランクケースに組み込んだら、左右クランクケース左右の合わせ面に液体ガスケットを塗布する。

09ab.jpg クランクケースボルトは一度で規定トルクの10Nmで締め切るのではなく、中心から外に向けて対角線上に1/4回転ずつ均等に締めていく。

10ab.jpg クランクシャフトやミッションシャフトの端部をハンマーで軽く叩くことでシャフトとベアリングの位置関係が修正され、圧入時に加わったストレスが取り除かれることでフリクションロスの軽減が期待できる。

圧入タイプのクランクシャフトには、クランクベアリングがクランクケースに圧入されている場合と、クランクシャフトに圧入されている場合があります。いずれの場合でも圧入されているのはクランクケースの一方のみで、反対側ははめ合わせが弱い挿入状態になっています。セロー250やトリッカーはクランクベアリングが左右ともクランクケースに圧入されており、左側のクランクケースにクランクインストールでクランクシャフトを引き込み、右側ケースは専用工具なしでセットするよう指定されています。

このような場合、クランクケースボルトを規定トルクで締めた後でクランクシャフトの左右端をハンマーで軽く叩くことで、ベアリングとケースとクランクシャフトに加わったストレスが抜けて据わりが良くなり、クランクシャフトの回転がよりスムーズになることが期待できます。強く叩きすぎるのは逆効果ですが、インストールツールで引き込みすぎたクランクシャフトの位置を修正するイメージで力を加えると良いでしょう。

このように、4気筒に比べれば分解組み立てのハードルが低く感じる単気筒ですが、エンジンの中枢であるクランクシャフトの組み付け方法によっては取り扱いに注意が必要であることや、作業用に専用工具が必要になることも知っておきたいものです。

POINT
  • ポイント1・部品同士の据わりを良くする目的でクランクシャフト端部を軽く叩く
  • ポイント2・単気筒エンジンを分解する際はクランクケースセパレーターやクランクインストールツールが必要か否かをあらかじめ調べておく
 
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