キャブレターオーバーフロー時はフロートバルブのチェックが必要。フロートピンが圧入タイプなら取り扱いは慎重に

フロートチャンバー内のガソリンの量はフロートとフロートバルブによって一定に保たれています。そのため何らかの原因でキャブレターがオーバーフローした際には、真っ先にフロートバルブとバルブシートの状態を確認しますが、この際にフロートピンの取り扱いを誤るとキャブ自体が使い物にならなくなるリスクもあるので注意が必要です。

キャブのオーバーフローはフロートバルブの機能不全で発生することが多い

002.jpg 1980年代のレーサーレプリカブーム時代に発売されたスズキRG250ガンマ。画像の1987年モデルまでがアルミダブルクレードルフレームに並列2気筒エンジンを搭載し、1988年にアルミツインスパーフレームにV型2気筒エンジンを搭載したRGV250ガンマへとフルモデルチェンジされた。キャブレターはミクニ製VM28を装備。

003.jpg カウルやアルミフレームのレイアウトが複雑でキャブの取り外しは面倒。長期放置車両だったのでフロートチャンバーないのガソリンは劣化しているが、倉庫内保管だったのが幸いして水分の混入がなく腐食はない。

新車として販売されるバイクの燃料装置はすべてフューエルインジェクションとなっていますが、世の中には現在でも原付からビッグバイクまで数多くのキャブレター車が存在しています。キャブの存在を意識されることもなく買い物や移動の足として走るスクーターも、季節ごとにセッティングを変更しながら高性能を維持するスペシャルキャブも、いちばん重要なのはフロートチャンバー内のガソリン油面です。キャブセッティングはジェットやニードルで行うものですが、さらに根本的な部分では油面が大きく影響しています。

キャブレター内の空気通路=ベンチュリーを通る空気が作る負圧によってフロートチャンバー内のガソリンが吸い出されるキャブレターにとって、油面が高くベンチュリー底に近ければ吸い出されやすく、逆に低ければ吸い出されづらいという特性があります。4気筒エンジン用のキャブレターでそれぞれの油面の高さがバラバラだと、ジェットの番号が同じでも実際に吸い出されるガソリンの量に差違が生じて、混合気の濃い薄いが生じる可能性もあります。そのため機種ごとのサービスマニュアルでは、キャブレターメンテナンスの第一段階として油面の確認と調整が掲載されています。

そんなキャブレターにとって最も厄介なトラブルがオーバーフローです。オーバーフローはフロートチャンバー内の油面が高くなりすぎた時に発生し、フロートチャンバー内のオーバーフローパイプの高さを超えたガソリンがキャブの外側に排出されます。また外部に排出するオーバーフローパイプを持たず、規定の油面を超えたガソリンをベンチュリー内に流すタイプのキャブも存在します。いずれの場合も、油面に応じて上下するフロートによって開閉されるフロートバルブがうまく閉じなくなり、燃料タンクからガソリンが際限なく流れ込むことでオーバーフロー状態に陥ります。

オーバーフローが発生した場合は、速やかにガソリンの流れを遮断した上でキャブを取り外してフロートバルブとバルブシートの当たり具合を確認しますが、この作業ではフロートを支えるフロートピンを抜く必要があります。単純な貫通タイプや圧入タイプ、フランジ付きビスで抑えるタイプなど、フロートピンの組み付け方法にはいくつかの種類がありますが、この中で取り扱いに注意が必要なのが圧入タイプです

POINT
  • ポイント1・キャブレターのオーバーフローはフロートバルブの密閉不良により発生することが多い
  • ポイント2・キャブの構造によってオーバーフローしたガソリンがキャブの外に流れる場合とベンチュリーに溢れる場合がある

ピンが圧入されている場合は慎重にピンポンチで叩く

004.jpg フロートピンは一方が釘の頭のようにツバの付いた状態で軽圧入されている。ツバがあるので着脱方向は分かりやすいが、プライヤーなどで摘まんで無理に引っ張ろうとするとピンやピンの足にダメージを与えることがあるので、ツバの反対側からピンポンチを当てて軽く叩くと良い。挿入する時も同じ向きにすること。ツバ側のピンの根元がきつく圧入されている時は足に下向きの力が直接加わらないよう、足の下をソケットで支えた状態でピンを叩くと良い。

20210517_005-1024x683.jpg フロートピンが抜ければフロートとフロートバルブが取り外せる。オーバーフローが発生する際はフロートバルブとバルブシートの当たり面の状態を確認することが第一だが、画像のようにバルブシートが取り外し可能な機種の場合は、バルブシートとキャブボディの間のOリングが痩せたり切れていないかも確認しておく。

フロートが揺動する軸となるフロートピンは、フロートチャンバー内で間違っても抜けてはいけません。その点で、キャブボディにピンを圧入するのは理に叶っています。しかし圧入ピンを抜くのは非圧入タイプのピンとは比べものにならないほどの慎重さが要求されます。キャブレターオーバーホール時のトラブルには、フロートチャンバーを固定する雌ネジのナメや、ジェットのネジ頭が潰れて緩まなくなるなどいくつかのパターンがありますが、フロートピンの足が折れるほど危機的なトラブルはありません。非圧入タイプのピンと同じつもりで圧入ピンに力を加えると、驚くほど簡単に折れてしまう場合もあります。

フロートピンが圧入タイプか否かを判断するのは簡単です。非圧入タイプなら精密ドライバーやピンポンチで押せばスルッと抜けるはずです。キャブ本体を傾けるだけで抜け落ちることもあります。これに対して圧入タイプはドライバーで押した程度ではビクともせず、ピンと同等の太さのピンポンチで押し抜かなくてはなりません。圧入タイプのピンの場合、大半はピンが挿入される足の一方だけに圧入されているため、足とピンのはまり具合を入念に確認してピンポンチで叩く方向を見極めることも大切です。ピンによっては一方が釘の頭のように平らに成形されていて、押し抜く方向が一目で分かる場合もあります。

圧入されたフロートピンをハンマーとピンポンチで叩き抜く際は、叩く側の足と反対側をしっかり支えることが重要です。この場合、5mmや8mmといった小さめのソケットの開口部を抜け側のピンの中心に置くことで、ハンマーでピンを叩いた際の衝撃を受け止めながらピンが邪魔されることなく抜け出します。またピンポンチを叩くハンマーは振り下ろすのではなく、ハンマーの自重だけで加重するぐらいの慎重さが必要です。

ツイン用でも画像のようにボディが簡単に分離できるタイプのキャブならフロートピンの足も支えやすいのですが、4気筒用だと足を支えるソケットをセットしづらいこともあるでしょう。そのような場合は、たとえ面倒だと感じても4つのボディを分割して1気筒分ごとにして、安定して足を支えられる状況にしてからピンを抜くような慎重さが欲しいものです。圧入がきつめだからといって不安定な状態でピンを強めに叩いて当たり所が悪ければ、ピンの足は想像以上にあっさり折れてしまいます。

足が折れた場合、耐ガソリン性のあるエポキシ樹脂で貼り付けて修理する方法もありますが、一方の足だけが折れた場合は残った足とピン穴の高さを揃えるのが難しく、2本とも折れてしまったらフロートの動きに影響が出るのでさらに補修は難しくなります。そうはいってもフロートバルブを確認しなくてはならない場合は信頼できるプロに依頼するのもひとつの方法です。

POINT
  • ポイント1・フロートピンが圧入されている場合、無理に引き抜こうとせずピンポンチで慎重に叩き抜く
  • ポイント2・4気筒用キャブが圧入ピンだった場合、連結を分解して個別のボディにしてからピンを抜く

オーバーフローパイプの亀裂が原因でオーバーフローする場合も!?

006.jpg 画像右側のフロートチャンバー底部に圧入されているパイプがオーバーフローパイプで、経年劣化によって縦方向に亀裂が入るとチャンバー内のガソリンが漏れてオーバーフロー状態になってしまう。これを見落としてフロートバルブが原因だと勘違いすると、フロートバルブやバルブシートの摺り合わせを行ってキャブを復元しても症状は改善しない。

オーバーフローの原因がフロートバルブの密閉不良によるガソリンの流れ込みであることは先に説明した通りですが、フロートバルブの不具合以外の原因でオーバーフローが発生することもあります。その代表例がフロートチャンバー内のオーバーフローパイプの不具合です。フロートチャンバー底部に圧入されたオーバーフローパイプはキャブボディとの合わせ面を僅かに超えるほどの全長であることが多く、フロートバルブの密閉不良などで油面が上がりすぎるとパイプ内にガソリンが流れてフロートチャンバーのドレンパイプから排出されるのが通常のパターンです。

このオーバーフローパイプの素材は真鍮系の合金であることが多いのですが、板を丸めて両端を接合している場合があります。経年劣化などでこの接合部分に亀裂が入ると、油面がオーバーフローパイプの頂上に達しなくてもドレンパイプから漏れてしまいます。髪の毛ほどの細い亀裂は見落としがちで、オーバーフローが発生した際にこれに気づかずフロートバルブだけを点検交換して、キャブを復元したら再び漏れた……ということも、特に年式の古い絶版車ではありがちです。

こうしたトラブルの場合、亀裂部分をハンダやエポキシ樹脂で塞ぐのが一般的です。フロートチャンバー内に水が入ってオーバーフローパイプが腐食で穴あき状態になっていたら、パイプ自体を別の真鍮パイプで置き換える場合もあります。この場合、パイプの高さは交換前の寸法に合わせておくことが重要です。

原付でもビッグバイクでもフロートやフロートピンの構造に大きな違いはありませんが、ピンが圧入か否かによって作業の難易度や心構えが変わってくるので、フロートチャンバーを取り外したら注意深く観察することが重要です。

POINT
  • ポイント1・フロートバルブが正常でもオーバーフローパイプの破損によってオーバーフローする場合がある
  • ポイント2・亀裂が生じたオーバーフローパイプはハンダやエポキシ樹脂で補修する
 
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