締めすぎはフリクションロス増加の元。サスペンションのメンテナンス時はボルトのトルクを意識しよう

前後サスペンションの性能は定期的なグリスアップやオイル交換によって維持されます。分解時に取り外したボルトナットを復元する際は締め忘れないよう作業することが重要ですが、力任せに締めると肝心の性能に影響する場合もあります。特に倒立タイプのフロントフォークはトルク管理に注意が必要です。

フォークオイルやリンクのグリスアップでバイクの印象は一変する

02a.jpg モノショックタイプのリアサスペンションに組み込まれるリンクにはいくつもの可動部分がある。大きな荷重を受け止めるための強度が必要なのは当然だが、僅かな路面の変化をスムーズに吸収するためには小さな荷重に対してもリニアに反応することが重要で、そのためには適切なメンテナンスが不可欠になる。

エンジンでもサスペンションでも、とかく最高出力や高負荷時の性能を気にしてしまうのがライダーの性分です。確かにサーキット走行やレースに出場するのであれば、少しでも良いラップタイムや順位を得るためにピーク状態のパフォーマンスを求めるのは当然です。しかし街乗りやツーリングなどの普通の使い方をする分には、高負荷とは正反対の低負荷、低荷重状態の動きの方が重要になります。

例えばキャブセッティングでは、スロットル開度が小さい領域ではメインジェットよりスロージェットやジェットニードルのストレート径の方が寄与率が大きく、信号待ちからの発進がスムーズにいくかどうかはスロー系のセッティングが重要です。ボコつくエンジンをスロットル操作と半クラッチでごまかしつつ、スロットル開度が大きくなればやっとまともに走るといった状態では、扱いづらくて仕方がありません。

サスペンションも同様で、ハンドルやシートを力いっぱい押してスプリングの反力を確かめるのは判断基準のひとつかもしれませんが、街中を他の車の流れに合わせて走るようなシーンで路面からの突き上げを吸収させるには、荷重の小さいストローク初期段階のスムーズさが重要です。これを無視していたずらにスプリングやダンパーを高荷重向けに調整すれば、淡々と流して走りたい時の乗り心地の悪さにつながります。

小さな荷重の変化にもサスペンションが滑らかに動くには、フロントフォークならフォークオイルで、スイングアームやリアサスペンションのリンクならグリスによって、潤滑が確保されていることが重要です。金属と金属、金属とゴムの組み合わせで構成されるサスペンションには適材適所の潤滑が必要です。エンジンにエンジンオイルが入っていなければ、ピストンとシリンダーやクランクシャフトとクランクケースが焼き付くのと同様に、サスペンションでもフリクションが増え、最終的には焼き付きが発生します。そこまでの状況に至らなくても、経時変化によってフォークオイルやグリスが劣化したりオイルシールの潤滑性が低下すれば、サスペンションが動き出す段階で引っかかり、ある程度荷重が増えた段階で突然動き出すというような挙動を示すようになり、これが突き上げ感の原因のひとつにもなります。

定期的にフォークオイルを交換し、そのついでにオイルシールとインナーチューブに潤滑剤を塗布したり、リアサスペンションのリンクやスイングアームピボットの洗浄とグリスアップすることは、そうした経年変化による動きの渋さを取り除くのに効果があります。メンテナンスを疎かにしていた車両では、オイル交換とグリスアップだけでサスペンションがグレードアップしたかのような印象を得られることもあります。それはプラス効果というより、失われていた本来の性能を取り戻す作業ですが、ゴツゴツとした不快な乗り心地が改善されれば結果オーライです。

POINT
  • ポイント1・高荷重だけに焦点を合わせたセッティングは必ずしも正解ではない
  • ポイント2・街乗りでもレースでも荷重の小さい領域から敏感かつスムーズに反応することが操縦安定性の向上につながる

倒立フォークのアンダーブラケットクランプボルトは締めすぎ厳禁

03a.jpg 倒立フォークのアウターチューブはアルミ製で、アンダーブラケットのクランプボルトの締め付けトルクが重要。正立フォークのアウターチューブもアルミ製だが、インナーチューブをクランプしているため締め付けトルクが作動性に影響を与えることはない。ただし馬鹿力で締めれば、クランプが割れたりボルトの雌ネジがなめることもあるため、正立であってもサービスマニュアルの指定トルクで作業することことが重要だ。

04a.jpg 機種によってトップブリッジとアンダーブラケットでクランプボルトの締め付けトルクが異なったり、ボルトの締め付け順序まで指定されている場合もある。メーカーがそのように指定するのは、開発時にそれがベストだったから。ユーザーが自分で判断するには相当のスキルが必要で、通常の分解組み立て時には指定トルクで行うのが最善である。

05a.jpg ゴム製のダストシールとインナーチューブの接触部分にもフリクションロスが発生する。ゴムを傷めない潤滑剤を使用することで、動きだしの滑らかさがアップする。大量に吹き付けすぎると走行中の砂利やホコリが付着してシールを傷める原因になるので、インナーチューブに垂れた分はウエスで拭き取っておこう。

サスペンションはバイクとライダーの重量を支えるなので、組み立て時にボルトの締め忘れや緩みがないことは絶対条件です。その一方でとにかく強く締めれば良いかと言えば、そういうわけでもありません。スポーツバイクの多くは、トップブリッジとアンダーブラケットに一定の隙間があり、挿入されたフロントフォークをクランプボルト(ピンチボルトと呼ぶメーカーもあります)で締め付けており、ボルトを適切なトルクで締めても隙間は閉じません。

ここが難しいポイントで、どの程度の力で締めれば良いのか?という話になってきます。特に倒立フォークのアンダーブラケットのクランプボルトの締め付けはデリケートだとされています。一般的にといっても誤解される可能性があるので具体的な数値は書きませんが、バイクメーカーが機種ごとに設定しているサービスマニュアルにはクランプボルトの締め付けトルクが明記してあります。さらにアンダーブラケットに複数のボルトがある機種では、締め付け順序まで指定されている場合もあります

なぜなら、ボルトの締め付けトルクがフロントフォークの作動性に影響を与えるからです。倒立フォークはアウターチューブが上部、インナーチューブが下部にあって、トップブリッジとアンダーブラケットはアウターチューブをクランプしています。そしてアンダーブラケットのクランプボルトを過大なトルクで締め付けると、アウターチューブ自体が変形するのです。

そんな大げさな……と思うかもしれませんが、過大なトルクでボルトを締めて、スプリングを抜いたインナーチューブを摺動させると途中で引っかかりを感じることがあります。インナーチューブ上端にはスライドメタルという部品があり、この部分の直径はインナーチューブより僅かに太いため、ボルトの締めすぎで変形したアンダーブラケット部分を通過する際にフリクションロスが発生するのです。

ここで発生するアウターチューブの変形は弾性変形で、ボルトを緩めれば変形は収まります。フロントフォーク単品ではスムーズにストロークするのに、車体に組み付けてアンダーブラケットをガッチリ締め付けると動きが悪くなるという場合は、クランプボルトのトルクが過大である可能性があります。ここで感じられるフリクションロスはあくまでフォークスプリングを外した状態のもので、スプリングを組み込めばその反力で僅かな抵抗は相殺されてしまうため動きの悪さを実感することはないでしょう。

とはいえ、アンダーブラケットがアウターチューブを変形させた状態で使用することが良いわけではありません。機種によってはアンダーブラケットのクランプボルトが3本、4本使っていることもありますが、あれはステアリング周りの剛性アップとともに、締め付けトルクを分散することでアウターチューブの変形を抑制する目的もあります。

荷重が小さい段階からサスペンションがスムーズに動き出すためには、フリクションロスの原因になる要素はひとつでも取り除いておくことが重要です。アンダーブラケットの締め付けトルク管理はその最たる物のひとつと言えるのです。

POINT
  • ポイント1・倒立フォークはアウターチューブをクランプして固定している
  • ポイント2・アンダーブラケットのクランプボルトを強く締めすぎるとアウターチューブが変形してインナーチューブの動きが悪くなる場合がある

スイングアームピボットやリアサスリンクも要注意

06a.jpg リアサスのリンクやスイングアームピボットのボルトが緩むのは非常に危険。しかし力任せに締め付けてもオーバートルクには意味はない。適正に組み付けるには指定トルクを確認して、トルクレンチを活用するがベスト。

スイングアームピボットやリアショックのリンクも同様です。各部に必要充分なグリスが塗布されていなければ、特に荷重変化が小さい領域での滑らかさが低下します。しばらくメンテナンスをしていなかったリンクを分解洗浄してグリスアップするだけで、路面からの小さな突き上げを吸収するようになり、サスペンション自体が上質なものに生まれ変わったような印象を実感することもあります。純正サスペンションの乗り味なんてこんなものと早合点せず、基本的なメンテナンス項目であるグリスアップが足りているかを見直してみることをおすすめします。

その際にも、各部のボルトナットの締め付けトルクの管理が重要です。スイングアームピボットやリンクは金属製のカラーによって組み付け幅が決まるため、締め付けトルクによって動きが渋くなる可能性は倒立式フロントフォークほど高くはありません。とはいえどの部分のボルトナットにも共通するように、過大なトルクは百害あって一利なしです。重要なサスペンション部品が緩んだり外れたりするのはあってはならないことですが、一方で何も考えずとにかく強く締め付ければ良いというのも間違いです。

部品に応じた適正なトルクでサスペンションを組み立てることで、荷重や負荷の小さい領域から滑らかな動きができるようになることを覚えておきましょう。

POINT
  • ポイント1・リンク機構を使用するリアサスペンションは定期的なグリスアップが必須
  • ポイント2・ボルトナットを適正トルクで締めることがサスペンションのスムーズな動きにとって重要
 
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