ビニール袋ひとつでできる、クラッチケーブルの潤滑テクニック【スロットルケーブルにも使える】
ケーブルで作動するクラッチやスロットルの操作感の善し悪しは、ケーブルの潤滑具合によって左右されます。ケーブル内部の洗浄と潤滑を行う道具にケーブルインジェクターがありますが、ビニール袋がひとつあれば注油できることをご存じでしょうか?原始的でそれなりに時間がかかりますがすが、ローコストながら効果のある作業方法を紹介します。

油分を押し込むだけでなく、汚れを落とす洗浄が重要

01-2.jpg ケーブルインジェクターをアウターケーブル端にセットして、パーツクリーナーやワイヤーグリースのノズルを差し込んでスプレーすれば、あっという間に反対側まで到達する。インジェクターのゴムクランプ部分の内径とアウターケーブル端部の外径が合わないと、ケーブル内にスプレーが浸透していかない場合があるので要注意。

ドライブチェーンやベアリングのグリスアップでは、あらかじめ汚れた油分を洗浄することが重要です。汚れたグリスの上に新しいグリスを塗布しても、金属同士の接触面には届かないので最大限の効果は発揮されません。

クラッチやスロットル、メーターケーブルについてもその原則は当てはまります。クラッチレバーを握った際の手応えに滑らかさがなくザラついた感触がある場合、ケーブル内部の潤滑不足が原因かもしれません。

最近のケーブルは、インナーケーブルとの直接接触を避けフリクションロスを軽減するため、金属製のアウターケーブルの内側に樹脂チューブが組み込まれています。それに対して樹脂チューブがない昔のケーブルはアウターとインナーで金属同士が直接擦れ合っていました。アウターケーブルが樹脂チューブ入りでも、インナーケーブルとの当たりが強くなる屈曲部の摩耗を軽減するには油分による潤滑が有効ですが、金属同士がダイレクトに摺動する昔のケーブルでは潤滑が必須となります。

ケーブル潤滑には専用品のグリースも販売されています。例えばヤマルーブのワイヤーグリースは、インナーケーブルとアウターケーブルの滑りを良くするために摩擦係数の小さいフッ素系樹脂を含有しています。一般的な潤滑油はケーブル内を流れてしまいますが、グリースの中に樹脂を添加することで油分が流れても潤滑被膜が残ることが期待できます。しかしその効果は永続的ではないので、定期的なグリスアップが必要です。この時、ドライブチェーンやベアリングと同様に、ケーブル内で汚れた油分を洗い流すことが重要です。

アウターケーブルとインナーケーブルの隙間には、ケーブルが摺動する際の摩耗汚れや外部から運び込まれた砂利やホコリ、雨天走行や軒下保管時に入り込んだ雨水などが溜まっています。油分に水分が混ざると乳化という現象が起こりますが、ケーブル内部でも同様の症状が発生します。その汚れを落とさず新たな油分を注入すると、汚れた油分の上を新しいグリースでコーティングするだけになってしまい、せっかくのメンテナンス作業も効果半減です。

POINT
  • ポイント1・摺動時の摩耗や水分の浸入によってケーブル内部に汚れが堆積する
  • ポイント2・アウターケーブルに樹脂チューブを採用していない旧車用ケーブルは定期的な潤滑が必須

洗浄時はクリーナー+圧力が使えるケーブルインジェクターが有効

02-1.jpg インジェクターでパーツクリーナーや粘度の低い防錆潤滑剤を圧送すると、ケーブル内部の汚れが一気に押し出されてくる。画像は水分と油分が混ざって乳化した汚れだが、アウターケーブルに樹脂チューブが入っていない旧車用ケーブルでは、赤茶けたサビと油分が出てくることもある。そんな時はケーブル自体を交換した方がすっきりするが、引き続き使用するならじっくり洗浄できるビニール袋式で対応したい。

ケーブル内部の古い油分や汚れを洗浄するには、確かにケーブルインジェクターがあると便利です。ただ、重宝するのはインジェクターそのものというより、パーツクリーナーや防錆潤滑スプレーの圧力と言った方が良いかもしれません。

エンジンオイルやチェーンオイルは走行することで温度が上がります。暖機後のエンジンオイルは粘度が下がってドレンから抜けやすくなり、走行後のドライブチェーンにクリーナーをスプレーすると汚れに浸透しやすくなります。

しかしクラッチやスロットルケーブルは温度が上がる部品ではないので、アウターケーブルの端にインジェクターを組み付けることで、缶スプレーの噴射圧を利用して内部の汚れを吹き飛ばす一助とするわけです。

この用途では、脱脂洗浄性能を重視したパーツクリーナーより油分を含む防錆潤滑剤の方が、ケーブル内に付着した油分やグリースを溶解しながら除去できるので有効かもしれません。また、缶スプレーのガス圧よりももっと大量の空気で汚れを吹き飛ばすなら、エアーブローガンを使ってエアーコンプレッサーの空気を送り込むと良いでしょう。

パーツクリーナーのノズルを差し込む部分にエアーブローガンの先端を当ててプシュッ!と空気を送ると、反対側からドロドロの汚れが出てきて驚くことがあります。汚れを落とした後のケーブルは抵抗感なくスムーズに動き、洗浄の効果が実感できます。そして洗浄後に新たなワイヤーグリースを注入することで動きが滑らかになり、アウターケーブルが屈曲した部分でのフリクションロスが低減することでケーブル自体の寿命も延びることが期待できます。

POINT
  • ポイント1・ケーブルインジェクターは缶スプレータイプのケミカルを活用するために有効
  • ポイント2・エアーブローガンを使えば空気の圧力で汚れを吹き飛ばせる

注油だけならビニール袋とビニールテープ+重力で充分

03-1.jpg ジッパー付きの小さなビニール袋の端を小さく切り取り、アウターチューブを通してテープを巻いて貼り付ける。ここにオイルを注入すれば、重力によってゆっくりケーブル内を浸透して反対側に達する。ケーブルの途中にアジャスターがあり、インジェクターから圧送したグリースが漏れてしまう場合でも、ビニール袋をケーブルの途中に貼り付ければ注油できる。

04-1.jpg レバー側から流したオイルは、時間は掛かるものの高低差によってレリーズ側から流れ出る。車体からケーブルを外して、ビニール袋に灯油を入れてインナーケーブルをストロークさせると、しつこい汚れを溶解しながら洗い流してくれる。

洗浄作業ではケーブルインジェクターが重宝するのは間違いありませんが、注油作業だけならビニール袋の角をに小さく穴を開けてアウターケーブルを通し、根元をマスキングテープでグルグル巻きにするだけでもかなりの効果があります。というより、ケーブルインジェクターが普及する以前はこの方法が一般的でした。

スプレータイプのワイヤーグリースは缶のガス圧を使って一気に押し込めるため、作業時間が短く勝負が早いのが魅力ですが、なかには粘度が高めでケーブル操作に粘りを感じさせるものも存在します。

これに対してビニール袋方式は、粘度が低いオイルを自由に選択して注入することが可能です。いくつかのオイルで試しましたが、低粘度高性能をセールスポイントにした0W-20の化学合成油のエンジンオイルは確かにケーブルの動きが軽くなりました。このオイルも1リットル缶の残りを集めたもので、特にケーブル用に調達したわけではないのでオイル代はタダ同然です。

ただしスプレー方式に比べれば注油時間は余分に掛かります。いくら低粘度オイルとは言え常圧で重力頼みですから、狭いケーブルの隙間を伝って浸透させるにはある程度の時間が必要です。またビニール袋を安定して保持するためには、袋を付けたアウターケーブルの端部が上向きになることも必要です。クラッチケーブルの場合、ハンドル周りのレイアウトによってケーブルが縦向きにならない時はケーブル自体を外した方がスムーズに注油できるかもしれません。

そんな面倒な思いをしてまでビニール袋を使わなくても、ケーブルインジェクターをひとつ買っておけば済むという意見もごもっとも。ただ、粘度の低いオイルをじっくり注入して、余分な油分をエアーブローガンで吹き飛ばした後のケーブルの動きのスムーズさは格別です。単に油分が切れたスカスカ感ではなく、粘度の高い油分がもたらす粘っこさでもない、軽い中にも適度な油膜感のある作動フィーリングは、繊細なレバー操作を過不足なく伝達する上質なものです。

また、ビニール袋が有効なのは注油時だけとは限りません。洗浄時にビニール袋の灯油を入れて、タイコの端を持ってインナーケーブルをストロークさせれば、ケーブル内に堆積したケーブルグリスを効果的に洗浄できます。洗浄後にパーツクリーナーを注入すれば灯油の油分が脱脂できるので、新しく注入するオイルが灯油で希釈されることもありません。

灯油で洗浄する場合、ハンドル周辺に灯油が付着するのを防ぐためにも、ケーブルは車体から取り外して単体にして作業するのが良いでしょう。単なるケーブルのグリスアップ作業でわざわざ取り外す必要はないと、面倒に思うかもしれません。

しかしクラッチでもスロットルでも車体からケーブルを取り外すことでアウターケーブルの傷や折れ、インナーケーブルやタイコ部分のほつれや曲がり癖などトラブルにつながる前兆を発見できる可能性もあります。

このように考えると、ケーブルインジェクターを用いたメンテナンスは合理的で効率的ではありますが、一見すると無駄が多く手間暇がかかるビニール袋作業にもメリットがあることが理解してもらえると思います。

05-1.jpg ケーブルの通り方によっては、ケーブル内部にオイルが溜まったままになる可能性があるので、アウターとインナーケーブルの隙間をエアーブローして余計な油分を排出する。たかがケーブルひとつにどれだけの手間と時間を掛けているのかと思うかもしれないが、こうした細かな作業の積み重ねがフリクションロス軽減に役立ち、部品の寿命を延ばすためにも有効なのだ。

POINT
  • ポイント1・ビニール袋を使えばケーブルグリス以外のオイルも注入できる
  • ポイント2・低粘度オイルを使用することでケーブル作動時のフリクション低下を実感できる
 
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