多くのドラマや悲劇が繰り広げられたFIM世界耐久選手権2022年シーズン第3戦、"コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース第43回大会は、長島哲太選手、高橋巧選手、イケル・レクオーナ選手のライダートリオを率いるTeam HRC #33が2位に1周以上の差をつけて圧勝し、幕を閉じた。

終わって見れば、CBR1000RR-RSP #33は8時間を通して素晴らしい走りを見せたが、序盤では、再スタートなど、予想外の展開で誰が優勝するかはわからない状況だった。

鈴鹿8耐は、レース前の1週間では、雲で灰色の空が広がり、霞んだり、雨の日が続いた。しかし、決勝レース当日は、美しい青空が広がった。HRCは順調にレースをリードしたが、その後方ではEWCシーズン参戦チームのYART ヤマハ YZF-R1 #7に搭乗するニッコロ・カネパ選手がスタートで出遅れ、25位まで順位を落とした。一方、YARTのライバル、Yoshimura SERT MotulのGSX-R1000R #1を駆るグレッグ・ブラック選手は、1周目に4位まで順位を上げる大健闘を見せた。

1周目が終わるやいなや、Astemo Honda Dream SI RacingのCBR1000RR-R #17を駆る作本輝介選手がT13で転倒し、SDG Honda RacingのCBR1000RR-Rに搭乗する浦本修充選手がこれに巻き込まれる形となり、決勝レースで初めてセーフティカーが導入された。両チームにとって夢のようなレースが一瞬で悪夢と化す不運なレース終了となった。

作本選手はフロントのコントロールを失い、死角から浦本選手に接触し、2人ともそのままクラッシュしてしまった。2台のマシンの回収とセーフティーバリアの修復が必要なため、7周のセーフティカーが導入された。

セーフティーカーのホンダNSXに続き、#33、そしてジョシュ・フック選手がオープニングスティントを担当したFCC TSR CBR1000RR-R Fireblade #5、スタートを担当したレオン・ハスラム選手が乗るKawasaki Racing Team Suzuka 8H ZX-10R #10に続いて、SERT、そしてイルヤ・ミハルチク選手が乗るBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMのM1000RR #37の順で走行した。

セーフティカー導入が解除され、再スタート後は、グレッグ選手、高橋選手、レオン選手の3台で激しいトップ争いが展開されたが、HRCがペース取り戻したところで、リードを広げ始める。

序盤の駆け引きは終わると、今度は誰が先にピットインするかという戦略的な問題が注目され始めた。答えはYARTだった。ニッコロ選手は、10周目に10位、その1周後に7位、14周目には3位と、出遅れを挽回する素晴らしい走りを見せた。

そして、26周目に入ると、ニッコロ選手はピットに戻り。マービン・フリッツ選手にバトンをタッチした。これが決勝レースでの初のピットストップとなった。そして、次に#5のマイク選手がジョシュ選手に、そしてSERTのグレッグ選手が渡辺選手に、28周目には#33HRCの高橋選手から長島選手に交代している。

Ewc,8H,Suzuka,2022-Start

HRCがピットインしたことで、カワサキ #10が1周リードした後、こちらもピットイン。燃費戦略による駆け引きであることは明白だった。

Webike SRC Kawasaki France #11にとって考慮すべきは燃料消費量だけではなかった。ランディ・ド・プニエ選手がデグナー2で低速で転倒し、ピットに戻り、フロリアン・マリノ選手がコースに復帰するまでに7分間を要してしまった。

開始から2時間経過時点で2回目のセーフティーカーが導入された。#51が転倒し、マシンから出火したのだ。ライダーは無事だったが、マシンが軽い火傷を負った。しかし、導入された2台のセーフティーカーのタイミングと間隔は、トップを走るHRCに味方した。うまくすれば、このタイミングでKawasaki #10は、先頭のHRCとの差を詰められたかもしれなかったが、2台目のセーフティーカーの後方に入ってしまい、Hondaがさらに差を広げた。

しかし、これは、#10にとって、さらなる悪夢の前兆に過ぎなかった。BMW M1000RR #37がオーバーヒートし、イルヤ・ミハルチク選手はピットまでマシンを押して戻った。この熱さでは無理もないが、そのせいで、ライダーもオーバーヒート寸前であった。一方、ジョナサン・レイ選手はシケイン進入で周回遅れの集団をかわす際、転倒をしてしまった。しかし、ジョナサン選手はすぐさまレースに復帰した。すぐ後ろを走っていたYART もライダーチェンジのためピットイン、その結果順位が入れ替わった。一方、BMWはクーラントリテンションの問題が解決されず、残念ながらリタイアとなった。

「もちろん、とても悔しく思っているよ。技術的な問題が起って、それを解決しようとしたんだけど。レースを続けることができなかった。」とヴェルナー・デーメン監督は語った。

「このレースウイークエンドでは、たくさんの良いことがあっただけに、とても残念でしょうがないよ。私達はここでレースをするのが初めてだったんだけど、トップ10トライアルで9位、予選では6位を獲得することができたからね。チームのみんなは本当にいい仕事をしてくれたと思うよ。それに、一度もクラッシュしなかったしね。来年に向けてやるべきことがはっきりしたよ。」

BMWがリタイヤしたことによって、後半はYamaha #7とSuzuki #1の間で、EWCシーズン参戦チームのトップ争いが繰り広げられた。YARTのペースは衰えず、ピットストップ間の走行時間はSuzukiほど長くはないものの、ラップタイムでは勝っているようだった。

最後の1時間が過ぎ、YARTのマービン選手の最後のスティントを控えたピットストップで、リアタイヤの交換に手間取ってしまった。そして、コースインした直後、T13でAkeno Speed Yamaha #74(スーパーストッククラス)のマシンに接触し転倒。マシンがエアバリアに埋もれるというアクシデントが発生した。マービン選手はエアバリアに潜り込んでしまったヤマハマシンを引っ張り出し、なんとかピットに戻したが、チームはR1の修理と、その後にストップ&ゴーのペナルティを課せられた。

「表彰台はすぐそこだったのに、残り1時間を切ったところで、バックマーカーを追い抜こうとして転倒してしまった。」とマービン選手は語る。

「そのときはそれほどハードにプッシュしていたわけでもなかったし、ただ自分のリズムに集中していたんだ。13コーナーで彼がイン開けてくれたと思って、抜こうとしたら、彼がイン側に入ってきて、同じレーシングライン上に入り込んでしまったんだ。そして、接触して転倒してしまった、、。」

「マシンは大分ダメージを負ったんだけど、チームのみんなが10分以内にマシンを修復してくれて、驚いたよ。今週はずっとみんなと一緒に頑張ってきたし、みんなが表彰台に上るにふさわしい成績だったから、チームにはただただ申し訳なくて、、。僕たちはどのセッションでも速かったのに、こんな結果になってしまって、とても残念だよ。」

ヤマハマシン修復後、カレル選手が最終スティントのためコースインしたが、その後にストップ&ゴーのペナルティが残っており、その結果、EWCシーズン参戦チーム勢のトップの座をスズキに奪われるとともに、表彰台獲得の可能性も失ってしまった。

「もちろん、結果は残念ではあるけど、チーム全体を誇りに思っているよ。」とマンディ・カインズ監督は語った。ファクトリーチームのライバル達に比べれば、我々が使用できるリソースは少なかった。だけど、レースウイークを通じていつも上位に食い込むことができたからね。」

「我々はテスト初日から速かったし、予選ではライダーの3人全員が2分5秒台に入った唯一のチームとして、我々の速さを証明してくれた。決勝でも、ライダーたちの走りはとても素晴らしかったし、安定していて、鈴鹿での初表彰台の夢も叶ういそうな雰囲気でもあった。残念だけど、そうなることはなかった。これが耐久レースなんだよ。

鈴鹿を後にしたYARTは、93ポイントを獲得し、トップと34ポイント差のランキング3位をキープ。しかし、#7に発生したトラブルにより、EWCランキングトップの#1が最大限のシリーズポイントを獲得し、さらに総合3位に輝き、表彰台を獲得した。ライダーラインナップが2度変更され、予選は22番手だったチーム #1としては悪くない結果といえるだろう。

ブラックは前述の通り、22番手から見事なスタートを切ってトップ争いに加わった。中盤はライバルのペースについていけず、万が一にも転倒してしまった。しかし、レース中盤、スズキの2人のライダーはライバルのペースについていけなかった。

「チャンピオンシップのために、素晴らしいポイントを獲得することができた。信じられないような結果だよ。」とレース後、グレッグ選手は語った。

Yoshimura SERTのマシンの前でゴールしたのは、ジョナサン・レイ選手、アレックス・ロウズ選手、レオン・ハスラム選手のライダートリオを要するブリヂストンタイヤを装着したKawasaki Racing Team Suzuka 8HのZX-10R #10だった。このチームは4時間経過時点でジョナサン選手がT12で転倒したことが8時間レースの中で唯一の不安要素であるかのような安定した走りを見せていた。セーフティカーの導入によるロスがなければ、あるいはと思わせる。

序盤、KRT #10はYART #7とバトルを繰り広げ、#7はレースペースは良いが燃費が悪かった。2度目のセーフティカーが導入された時、KRTはトップチームから切り離されてしまったのが、敗因の一つであろう。その後、レース中盤に差し掛かった時、トップとの差を縮めるために周回遅れのライダーを2人抜こうとしたジョナサン選手が軽い転倒を喫し、その差をレース終了までに取り戻すことは叶わなかった。

「1シーズン内で、WSBK選手権と鈴鹿8耐という2つの目標を達成することは、そう簡単なことではないよ。」と、ジョナサン選手は言う。「ここではたくさんの競い合いがあって、僕たちはベストを尽くしたんだ。ただ、惜しかったよね。でも、立派だったと思う。チームメイトやチームみんなの一生懸命さを本当に誇りに思うよ。」2位というのは少し悔しいけど、ベストを尽くしたんだ。胸を張って家に帰るよ。」

レースではいくつかミスや問題があったけど、それが耐久レースというもの。でも、僕たちは表彰台に上がったことも事実。だから、僕たちはその努力を誇りに思うことができるんだ。」

次にゴールしたEWCシーズン参戦チームは、ジョシュ・フック選手とマイク・ディ・メリオ選手が駆るFCC TSRのCBR1000RR-R Fireblade #5だった。FCC TSRは、序盤にブレーキマスターシリンダーを交換した後、再び、ブレーキとエキゾーストのトラブルが起きたが、この問題を見事解決し、総合10位でフィニッシュし、世界耐久選手権暫定ランキング2位を死守した。

ジノ・レイ選手の入院により、2ライダー体制となったFCC TSRは、ジョシュ選手が力強いスタートを切ってトップ争いを展開し、最初の中断後のリスタートで激しいバトルを繰り広げた。しかしマイク選手にバトンタッチした後、CBR1000RR-R Firebladeに最初のブレーキトラブルが発生し、その修復のために次のピットストップでは時間を要してしまった。

ジョシュ選手は19番手から再スタートしたが、ライドスルーペナルティが課された。しかし、TSRはその後、10位まで順位を上げてチェッカーフラッグを受けた。F.C.C TSR Honda Franceは、この週末で13ポイントを獲得し、合計104ポイントでランキング2位をキープ。トップのYosimura SERTとは23ポイントの差である。

「僕らとチーム全体にとって、とてもタフな2日間だった」とレース後にジョシュ選手は語った。「まず最初に、ジノのことを心から心配していると伝えたい。マシントラブルが多発して、難しいレースだったよ。2ライダー体制ということもあって、体力的にもとてもきつくて、思うように力を発揮できなかったんだ。」

「特にジノの件があったからね。とてもきついレースだったよ。」と彼は語る。「ペースが上がらなかった。ここ鈴鹿ではパワーがものを言うからね、ペースを維持するのはかなり難しかったんだ。」

「ジョシュがとても良いスタートを切ってくれて、序盤は好調だったんだけどね。2度のリアブレーキトラブルとエキゾーストトラブル、ストップ&ゴーのペナルティではどうにもならないよね。」

次に今回、鈴鹿8耐に参戦していたザクワン・ザイディ選手、ギャリー・スリム選手、ヘルミ・アズマン選手が所属するEWC常連チーム、Honda Asia-Dream Racing with SHOWAのCBR1000RR-R #88が総合11位でフィニッシュした。

総合15位には、デグナー2でランディ・ド・プニエ選手が転倒し、早々にピットインしたことや、その後の燃費問題が原因で思うように上位に食い込むことができなかったEWCシーズン参戦チームのWebike SRC Kawasaki France #11が入った。

本日の勝利は、ホンダにとって鈴鹿8耐通算28勝目、2014年以来の優勝となった。高橋選手は4勝目、長島哲太選手とイケル・レクオナ選手にとっては今回が初優勝となった。

「単純にすごく嬉しい!」と鈴鹿8耐初優勝を飾った長嶋は、こう語った。「2021年、2022年とCBR1000RR-RSPの開発に携わって、そのポテンシャルを実際に発揮して、世界に発信する機会を得たことを嬉しく思いるんだ。」

高橋選手にとっては、4度目の優勝となった。「2019年の鈴鹿8耐はずっと不満だったんだ。今日勝ててよかったよ。」と彼は語った。「このマシンは長島選手がずっと開発に携わっていたからね。僕が速く慣れてポテンシャルを引き出してあげないと、長島選手の足を引っ張ってしまうことになり兼ねないから、なんとか役割を果たせてホッとしているんだ。これで鈴鹿8耐4勝目。またチャンスがあれば、宇川徹さんが持つ5勝の記録を目指すよ。」

 

「鈴鹿8耐初優勝は、本当に、本当に、本当にうれしいよ。」とイケル選手は語る。「長島がチェッカーフラッグを受けたときは、すごく気持ちよかった。鈴鹿のテストからすべてがうまくいって、ホンダと長島が開発したマシンは最高だったし、その性能をうまく引き出せたと思うよ。」

「セーフティカーが入ったときは、他の2人が築いた差を縮められるかもしれないって心配したけど、うまく乗り切ることができたよ。」

FIM世界耐久選手権は、9月15日~18日にポールリカールで開催されるボルドール24時間レースにてフィナーレを迎える。

レース結果

情報提供元 [ FIM EWC ]

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